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今月の音遊人:今井美樹さん「私にとって音楽は、“聴く”というより“浴びる”もの」
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お笑いに宝塚?!日本ならでは、関西ならではの『メリー・ウィドウ』/佐渡裕インタビュー
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2021.6.11
2005年、阪神・淡路大震災から10年を迎えた年に、復興のシンボルとしてオープンした兵庫県立芸術文化センター(以下、芸文センター)。世界的に活躍する指揮者の佐渡裕は、設立当初から芸術監督として、地域に文化芸術の種をまき、地元の人々とともに育てる活動に尽力してきた。毎年夏に芸文センターで開催してきた佐渡プロデュースによるオペラは、15年以上にわたる活動の大きな実りを感じることができる一大プロジェクト。2021年の夏には、2008年に大成功を収めた喜歌劇『メリー・ウィドウ』の改訂新制作による上演が予定されている。
「残念ながら2020年に上演するはずだった『ラ・ボエーム』はコロナ禍によって2022年に延期となってしまいましたが、2021年は『メリー・ウィドウ』にしようという計画は、コロナ禍以前から決まっていました」
そう話す佐渡は、厳しいロックダウンが緩和され、無観客でのコンサートが開催できるようになったベルリンから帰国したばかり(自主待機中の自宅からオンラインで取材に応えていただいた)。「音楽は不要不急」と言われる危機的な局面において、この1年はあらためて音楽の力を感じたという。
「芸文センターを建てたときも同じことを思いました。その頃の西宮にはまだ阪神・淡路大震災の傷跡が残っていて、芸文センターのまわりにもブルーシートのかけられた建物や更地があちこちにありました。地元の方々に、こういう劇場をつくるという説明をして回ったときも、“良いものをつくってください。ただ知ってほしいのは、このあたりの人は皆、家のローンとお店のローンに追われて大変なんです”と言われた。そういった状況のなかで、劇場を建てて、オーケストラを作って、夏には盛大なオペラをやるというわけです。果たして本当に必要なのか?僕のなかでは大きな葛藤がありました。けれど、街の人に誇りに思ってもらえるような、“心の広場”として街の中に存在する場でありたいと、西宮から発信を続けてきた結果、たくさんの方々に来ていただける今があります」
その言葉どおり、芸文センターと西宮の人々の間には、ほかの地域にはない強い絆が育まれているのを感じる。定年退職して時間のできた夫婦が、ちょっと行ってみようかと気軽に足を運び、クラシックだけでなくジャズや落語、お芝居を楽しむ劇場。そういう意味では、明るく軽妙な『メリー・ウィドウ』はぴったりの演目だろう。
「15年間オペラを作ってきて、振り返るとやっぱり2008年の『メリー・ウィドウ』はいちばんの傑作だったんですよね。広渡勲さんの演出で、お笑いの桂ざこばさん、宝塚歌劇OGの平みちさんに出ていただき、舞台装置にも宝塚のテイストを取り込みました。アンコールは宝塚のレビューみたいになるんですよ。日本語での上演ということもあり、日本ならでは、関西ならではの『メリー・ウィドウ』ができたと思います」
幕が開いて間もない頃の客の入りはそれほどでもなかったものの、「これは面白い」と口コミで広がり、12回あった公演の後半は連日満席、のべ2万人の来場を記録したという。
「毎日、劇場のロビーに空席情報を書いた手書きの模造紙を貼り出し、スタッフも一丸となって宣伝しました。芸文センターには専属のオーケストラである兵庫芸術文化センター管弦楽団がありますから、オペラの制作から演奏、宣伝に至るまで、すべての行程を自分たちで作り上げることができます。オーケストラの奏者も、舞台の技術者も、清掃のスタッフも、売店の店員も……劇場に関わるすべてのスタッフが、夏はこのオペラ・プロジェクトの一員になる。それが、お客さまにオペラの魅力を紹介するのと同時に、私が芸文センターでやりたかったことでもあります」
2021年はその2008年の公演をベースにした改訂新制作とのことで、新しい演出にも期待したい。
「『メリー・ウィドウ』のあらすじはシンプル。小国ポンテヴェドロの国家予算に匹敵する財産を持つ大金持ちの未亡人ハンナが、もし外国人と結婚したら、財産が海外へ流れて国が破綻してしまう。それを阻止しようと、ツェータ男爵はハンナと昔の恋人ダニロをくっつけようと画策する。そんなごちゃごちゃした人間模様を描いたオペレッタです。パリを舞台に、フレンチ・カンカンがあったり、民族衣装をつけた踊りがあったり、劇場全体がびっくり箱になったような華やかな作品。それでいて主人公のハンナとダニロの、本当は好きなのに意地を張ってなかなかくっつかない微妙な距離感がなんとも良いんです。そしてなにより、レハールという作曲家の天才ぶりですね。プッチーニやヴェルディ、ワーグナーのように大それたものではないけれど、人の心を掴むメロディは本当に素晴らしい。ヨーロッパらしさを感じます」
今回、ダニロ役を射止めたバリトンの黒田祐貴は、2008年公演のときに同じくダニロ役を歌った黒田博のご子息とのこと。
「お父さんの博さんとは小学校5年生のときからの長い付き合いで、同じ合唱団で歌っていました。ですから今回、オーディションで紹介されたときは驚きましたね。しかもすごく良い声!即採用でした」
新たなスター誕生の場としても、このオペラ・プロジェクトの持つ意義は大きい。
オペラ『メリー・ウィドウ』
日時:2021年7月16日(金)~25日(日)14:00開演(13:00開場)
※7月19日(月)、23日(金)は休演日
会場:兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
料金:A席12,000円、B席9,000円、C席7,000円、D席5,000円、E席3,000円(税込・全席指定)
出演:高野百合絵、黒田祐貴、並河寿美、大山大輔 ほか
オフィシャルサイト
文/ 原典子
photo/ 兵庫県立芸術文化センター提供
撮影/飯島隆
tagged: オペラ, インタビュー, 佐渡裕, メリー・ウィドウ
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