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今月の音遊人:小林愛実さん「理想の音を追い求め、一音一音紡いでいます」
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武満作品と「今」の視点で向き合い再録音。アルバム『ギターは謳う』を50歳の節目にリリース/鈴木大介インタビュー
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2021.11.10
クラシックギターとともに音楽という広い海を自由に泳ぐ鈴木大介。50歳の節目にリリースしたニューアルバム『ギターは謳う』は、武満徹の『ギターのための12の歌』を中心としたポピュラー名曲集である。2021年に没後25年を迎えた武満、その作品たちと長年にわたり向き合ってきた鈴木の研鑽の結晶ともいえるアルバムについて話を聞いた。
アイルランド民謡の『ロンドンデリーの歌』からガーシュウィンの『サマータイム』、ビートルズのナンバーまで、誰もが耳にしたことのある歌を武満が編曲した『ギターのための12の歌』は、鈴木にとってデビューのきっかけとなった大切な作品。今回が3回目の全曲録音になる。
「1995年、ザルツブルク留学中に『ギターのための12の歌』から4曲を自主録音しました。アドリブを入れたりカットしたり、好き勝手に弾いた演奏だったのですが、そのデモテープを武満さんが耳にして、“この人に自分の作品を録音してほしい”と推薦してくださったのです。というのも当時、この曲集の楽譜は絶版状態でした。作曲されたのは77年ですが、武満さんならではの芸術的なこだわりのある編曲だったせいか、クラシックの人もジャズの人もあまり弾いていなかったと思います。90年代に入ってようやく海外で演奏されるようになり、あらためて楽譜を出版しようとなったときに録音の話も持ち上がり、そこへタイミングよく僕がデモテープを持って帰国、96年の最初の全曲録音へとつながりました」
たしかに『ギターのための12の歌』には、さらりと甘やかな音楽のそこかしこに武満らしい美感が散りばめられている。前衛的な作品で世界的に高く評価される一方で、映画やテレビドラマのためのコマーシャルな音楽を数多く残した武満の両面が、この曲集からは感じられる。
「武満さんは戦後の米軍キャンプでアルバイトをしていたときからジャズピアノを弾き、作曲をはじめる前から美術や文芸も含むアバンギャルドな芸術家のコミュニティに身を置いていました。そして57年に初演された『弦楽のためのレクイエム』がストラヴィンスキーに評価され、前衛作曲家として活躍しつつ、映画音楽を書いていたのが60~70年代。それが80年代に入る前後から耳なじみのいい、美しい音楽を書くようになります。クラシックギターのための音楽は、ちょうどその時代の終わり頃から書きはじめられたので、前衛とポピュラーの要素がうまくミックスされた中間にあるのでしょうね」
そのうえで、武満の作品全集を今あらためて聴くと、昔とは印象が違って聞こえることに驚くと鈴木は語る。
「20世紀の現代音楽界において、武満さんのコマーシャルな仕事は必ずしも高く評価されているとは言えませんでした。けれど20世紀が終わって20年を経た現在の視点から武満さんの仕事全体を俯瞰してみると、光の当たり方が変わってきたことに気づきます。“現代の音楽”というものを考えたとき、そこにジャズの要素やポピュラーの旋律が内包されていても、それはごく自然な流れだと今だったら思える。そういう意味において、武満作品の再評価はこれからますます進んでいくのではないでしょうか」
そういった鈴木の武満観が、今回の録音には十二分に反映されている。
「2021年2月に『武満徹:映画とテレビ・ドラマのための音楽』というギター編曲作品集の楽譜を出版したこともあり、この20年あまりの間の活動が集約されたように感じています。武満さんの映画音楽を、ギターを含む室内楽に編曲したり、自分で曲を書いたり、ジャズのライブハウスで即興的な演奏をしたり……バラバラだった経験が自分のなかでひとつの形を成してきたというか。そのうえでこのアルバムを録音できたので、いろいろなものが詰まっているのだと思います」
アルバムには『ギターのための12の歌』のほかにもジャズ・スタンダードやシャンソン、ピアソラ・ナンバーなどが収録されており、その多くを鈴木が編曲している。
「自分が編曲した曲は、『アズ・タイム・ゴーズ・バイ』以外は新たにアレンジしたものばかりです。当初は以前に編曲したものをブラッシュアップして録音しようと思っていたのですが、いざはじめてみたらアレンジのスキルが2年前ぐらいとは全然違う感じになっていて。ハーモニーに対する知識や、アドリブのフレーズに対する理解度がすっかり変わってしまったんですよね」
これだけの経験とキャリアを積みながら、まだ日々進化しているとはすごい。
「変化って徐々に訪れるのではなく、少しずつ積み上げていくと、あるとき急にポンッて変わるみたいです。いつも聴いてくれているお客さんにも“だいぶ違うキャラになったね”と言われることもあります。やっぱりミュージシャンは変わっていかないと、後退していくだけだと思うんです。演奏のスキルにしても、筋肉の状態が日々変化していくなかで技術を維持できているということは、違うことをやり続けられるということ。同じことしかやっていなかったら筋肉は退化していくので。常に変化していきたいです」
アルバム『ギターは謳う』
発売元:アールアンフィニ
発売日:2021年9月22日
価格:3,300円(税込)
詳細はこちら
文/ 原典子
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tagged: ギター, インタビュー, ニューアルバム, 鈴木大介
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