Web音遊人(みゅーじん)

連載2[多様性とジャズ]マスク着用率が高い日本で“音楽と個人主義”が語れるのかを考えてみた

2022年正月、コロナ禍において外出の際や公共の場でのマスク着用が求められる状態が続いている。

マスク着用率と新型コロナウイルス感染症罹患率との相関は科学的に示されているとは言えず、「マスクをしているからコロナにはかからない」と言い切れないのが実状だ。そしてまた、日本では法令による強制には至っていない。

本稿はその相関を論じることが目的ではないのでこれ以上触れないが、問題にしたいのは「日本には、マスクをしたほうがよいという同調圧力がかかりやすい“集団主義”的な国民性」があって、それによってマスク着用率が高く、コロナの新規感染者数を低く抑えられているという論調のほうなのだ。

こうした「日本は集団主義的で、欧米は個人主義的」という先入観がもたらす認識を俎上に載せることから、“個人主義”を考える手がかりとしてみたい。

個人主義とはなにか?

辞書で“個人主義”の意味を調べてみると、「1 《individualism》国家・社会の権威に対して個人の意義と価値を重視し、その権利と自由を尊重することを主張する立場や理論。→全体主義 2 『利己主義』に同じ」とある(引用:小学館『デジタル大辞泉』)。

どうやら、14世紀にイタリアで始まり欧州へ広まったルネサンス=古代ローマ・ギリシャ文化の復興運動における多様性を尊重する気運のなかから生まれ、16世紀の宗教改革で聖職者と俗人(つまり一般ピープル)の身分的区別などが否定されたことが引き金となって「個人の意義と価値を重視」するようになり、さらに19世紀にかけて開花した資本主義のなかで「個人の自由競争」が追求されることで確立した考え方のようだ。

ちなみに日本国憲法(1946年公布)でも第13条で「すべて国民は、個人として尊重される」と規定している。

少なくとも第二次世界大戦後の日本は、個人を尊重する“個人主義”の国として歩んできたはずだった。

なのに、反対語である“集団主義”的な国民性であるかのような言説が飛び交うのはなぜなんだろう?

という疑問に対する答えを、“孤高のジャズ・ピアニスト”と冠され、2022年初頭に2本のドキュメンタリー映画(「MONK モンク」「モンク・イン・ヨーロッパ」)が日本で公開されるセロニアス・モンクの『セロニアス・ヒムセルフ』(1957年)を聴きながら、次回は考えてみたい。

「多様性とジャズ」全編 >

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook

facebook

twitter

特集

向谷実

今月の音遊人

今月の音遊人:向谷実さん「音で遊ぶ人!?それ、まさしく僕でしょ!」

16447views

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase31)コダーイ「カーライの民俗舞踊」、中・東欧のダンス文化がデュア・リパに変身する日

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase31)コダーイ「カーライの民俗舞踊」、中・東欧のダンス文化がデュア・リパに変身する日

681views

アコースティックギター「FG9」

楽器探訪 Anothertake

力強さと明瞭さが拓くアコースティックギターの新たな可能性

2901views

バイオリンを始める時に知っておきたいこと

楽器のあれこれQ&A

バイオリンを始める時に知っておきたいこと

8995views

大人の楽器練習機

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:世界的ピアニスト上原彩子がチェロ1日体験レッスン

17542views

オトノ仕事人 ボイストレーナー

オトノ仕事人

歌うときは、体全部が楽器となるように/ボイストレーナーの仕事(前編)

25606views

サラマンカホール(Web音遊人)

ホール自慢を聞きましょう

まるでヨーロッパの教会にいるような雰囲気に包まれるクラシック音楽専用ホール/サラマンカホール

21605views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

10082views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

15186views

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

われら音遊人

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

11174views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は人前で演奏してこそ、上達していくものなのだろう

8829views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30897views

今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

8861views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

13189views

ブラック・ウィドウ

音楽ライターの眼

悪魔に捧げるライヴ儀式。英国ロックの“影”の名バンド、ブラック・ウィドウのCDボックス発売

673views

音楽市場を広げたい、そのために今すべきこと/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事(後編)

オトノ仕事人

音楽市場を広げたい、そのために今すべきこと/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事(後編)

7497views

5 Gravities

われら音遊人

われら音遊人:5つの個性が引き付け合い、多様な音楽性とグルーヴを生み出す

2028views

Pacifica

楽器探訪 Anothertake

「自分の音」に向かって没入できる演奏性と表現力/エレキギター「Pacifica」

1270views

ホール自慢を聞きましょう

地域に愛される豊かな音楽体験の場として京葉エリアに誕生した室内楽ホール/浦安音楽ホール

10782views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は人前で演奏してこそ、上達していくものなのだろう

8829views

初心者必見!バンドで使うシンセサイザーの選び方

楽器のあれこれQ&A

初心者必見!バンドで使うシンセサイザーの選び方

23889views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

6986views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26127views