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ブルース・ホーンズビーが“スパイク・リー三部作”で新たなる飛躍へ
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2022.8.23
tagged: フリクテッド, 音楽ライターの眼, ブルース・ホーンズビー, スパイク・リー三部作
1986年に『ザ・ウェイ・イット・イズ』が全米チャート1位となったブルース・ホーンズビーが近年“スパイク・リー三部作”で再び注目を集めている。
シンガー・ソングライターとして、またピアノ奏者として絶大な支持を得たブルースだが、『ザ・ウェイ・イット・イズ』は社会にはびこる偏見や差別を描いたメッセージ・ソングだった。この曲では1964年にアメリカで公民権法が成立、人種差別が禁止されながらも“法律で人の心は変えられない”という現実を憂いている。
そんな社会意識の高さに共鳴したのが、映画監督のスパイク・リーだった。『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989)で一躍人気を博し、『ジャングル・フィーバー』(1991)『マルコムX』(1993)などでアフリカ系アメリカ人の視点から描いてきたリーからのラブコールを受けて、ブルースは『クロッカーズ』(1995)にチャカ・カーンとのコラボレーション曲『ラヴ・ミー・スティル』を提供。それから準レギュラーとしてリー監督作品に音楽を提供してきた。劇場最新作『ブラック・クランズマン』(2018)でもそのピアノがフィーチュアされており、彼の参加を知らずに見た人もその個性的なフレーズに気付いたかも知れない。
ブルースは238に及ぶ楽曲やフレーズ、パターンをリーに提供したというが、実際に映画で使われたのはその約半分で、しかも断片的だった。映画の劇伴音楽というものの性質上それは仕方ないことだが、彼はそれらを発展、楽曲として完成させ、さらに新曲を加えてアルバム化することに。そうして発表されたのが『アブソリュート・ゼロ』(2019)『ノン・セキュア・コネクション』(2020)『フリクテッド』(2022)という3枚のアルバムだった。
スパイク・リー監督作品用に書かれたというひとつの共通項で繋がれたこれらの作品だが、アルバムとしてはそれぞれ独立したものであり、どれから聴いても楽しむことが出来る。
第1作『アブソリュート・ゼロ』にはボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンとショーン・キャリーやシンガー・ソングライターのブレイク・ミルズ、6人編成チェンバー・コンテンポラリー・クラシック・グループのyMusic(ワイミュージック)らゲスト陣から刺激を受けて、ブルース自らが「歳を取ったからこそ作らなければならなかった、実験的な作品」と表現するアルバムとなっている。
第2作『ノン・セキュア・コネクション』はさらに実験性を増した、「半音階と不協和音は前作の2倍以上」というアルバムだ。スティーヴ・ライヒばりのミニマルなピアノ演奏を聴かせる曲もあるが、決して敷居の高いものではなく、ブルースの歌ごころ溢れるメロディを生かしたソングライティングを軸に据えている。こちらもR&Bシンガーのジャミーラ・ウッズやリヴィング・カラーのヴァーノン・リードらがゲスト参加、レオン・ラッセルのヴォーカルをサンプリングするなどして、起伏に富んだサウンドを出している。
三部作の“最終章”である『フリクテッド』はジョニー・グリーンウッド(レディオヘッド)のソロ作からもインスピレーションを受けたという作品で、“アップビート”で高揚感のあるサウンドで魅せてくれる。ブルースは自らヴァイオリンやダルシマー、シタールなども演奏しており、ゲストにヴァンパイア・ウィークエンドのエズラ・クーニグとハイムのダニエル・ハイムを迎えるなど、多彩なアプローチは一気に聴かせるものだ。
いずれのアルバムもブルースならではの社会派メッセージが込められており、彼から見た2019年から2022年の世情を反映したものだ。アフリカ系アメリカ人の自由と権利を主張するナンバーもあるし(それらは必ずしも近年の“ブラック・ライヴズ・マター”運動を踏まえたものではなく、それ以前から構想があった)、生活のすべてをショッピング・モールに依存するカルチャーの崩壊などへの言及もある。そして特に『フリクテッド』(レコーディングは2021年の夏に行われた)には新型コロナウィルスを題材にした曲がいくつも収録されている。
単独来日公演も行ったことのあるブルースだが、日本では『ザ・ウェイ・イット・イズ』の一発屋的なイメージを持たれがちだったりする。だが、この“三部作”でのアーティスティックな充実ぶりは、そんな認識を払拭させることになるだろう。
コロナ禍の2020年には単発のライヴを行うのみだったブルースは、2021年6月から本格的にツアーを再開。自らのバンド、ザ・ノイズメイカーズを率いて北米をサーキットしている。2022年にも大きめのクラブからホール規模の会場、野外フェスティバルまで、さまざまなロケーションでの公演が行われる。
今、アーティストとして新たな飛躍の時を迎えているブルース・ホーンズビーの活動には、注目しておかねばならないだろう。
発売元:BSMF RECORDS
発売日:2022年5月27日
価格(税込):2,640円
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山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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