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若林顕

「音楽そのもの」が体感できる、若林顕「ヤマハNew CFX コンサートツアー2022」

日本を代表するヴィルトゥオーゾ、若林顕が、さらなる進化を遂げたヤマハコンサートグランドピアノ「CFX」を弾く「ヤマハNew CFX コンサートツアー2022」。2023年にかけて全国各地で開催されるツアーの幕開となる公演(2022年8月5日/名古屋市 電気文化会館ザ・コンサートホール)を聴いた。
ソロ・リサイタルやオーケストラとの共演、そして室内楽と、さまざまな舞台で円熟味あふれるピアノ表現を聴かせる若林の演奏に期待は高まる。

音楽のいろいろな表情が感じられるプログラム

プログラムの最初に演奏されたのは、主題と20の変奏、コーダからなるラフマニノフの『コレルリの主題による変奏曲』。主題がしだいに複雑に変奏されていく作品を、大きくとらえるどっしりとしたピアニズムに、1曲目から圧倒される。中低音の豊かさ、高音域の艶やかさが作品の彫りの深さを際立たせた。
そこから一転、リャードフの小品、『音楽玉手箱(オルゴール)』がなんとも愛らしい。純度の高い響きと、揺れないテンポがまさにオルゴールそのもの。続く、チャイコフスキー(ラフマニノフ編):『子守唄』(6つの歌より)では、作品の歌心と、はっとするようなピアニシモの美しさに心を打たれる。次曲、アブラハム・チェイシング『香港のラッシュアワー』(「中国風3つの小品」より)とのコントラストが鮮やか。高速で躍動する音の数々から、香港の喧騒が生き生きと浮かび上がった。
前半を締めくくったのはショパン最晩年の名作、ポロネーズ第7番『幻想』。序奏から、これまでと明らかに異なる世界が広がる。決然としたフォルテシモは、オーケストラのトゥッティのようにまろやかで深い。音の消え入る最後の瞬間まで、ホール全体を包んだ繊細なピアニシモも感動的だった。

若林顕

色彩感豊かな若林ワールドの極致

後半のはじめに演奏されたのは、『葉ずえを渡る鐘の音』『そして月は荒れた寺院に落ちる』『金色の魚』の3曲からなるドビュッシー「映像」第2集。ここでもまた、最初の和音から、世界ががらりと変わる。ソフトなタッチによって生み出される和音は、紗をかけたような色合い。多彩な絵筆を駆使するかのように、音の濃淡や明暗がみごとに描き出された。
そして早くも最終曲、ストラヴィンスキー『ペトルーシュカ』からの3楽章。前曲からのコントラストが、ここでもすさまじい。2段譜では書ききれないほど音数の多い難曲を、若林は驚異的なテクニックで壮大にまとめ上げた。ここがマックスかというところからも若林が音量を上げていくと、楽器もそれに応えてさらに鳴り響き、聴衆を含めたホール全体がひとつの楽器になった。
「客席400ほどのホールですが音量を控えめにするようなことはせず、大きなホールと同じように演奏することを心がけました。名古屋のお客さまが親近感をもって聴いてくださっていたのを肌で感じられ、あたたかい雰囲気の中で演奏できたとことを感謝しております」

若林顕

音楽とともに浮遊する感覚

感動に満たされた会場の拍手は鳴り止まず、アンコールは3曲に。最後は、「ありがとう」とでも言うように、笑顔でピアノに触れて別れを告げ、若林はステージを去った。照明が灯されても、じんわりと余韻が残る、そんなコンサートだった。


本公演のプログラムについて、終演後、若林は次のようにコメントを寄せた。
「ホールが、より細かなニュアンスの変化をリアルに届けられるサイズの空間だったのと、ピアノがさまざまな表現に対応できるポテンシャルをもっていたので、音楽のいろいろな表情を感じていただけるようなプログラムを組んでみました」
そして、こうも語る。
「私が理想としているのは、言い方は少し変かもしれませんが、お客さまに『ピアノの音』ということをあまり感じさせず、『音楽そのものだった』と感じていただくことです。そして音楽が空間を大きく包み込んで、浮遊するような感覚を実現できるのが今回のNew CFXだと思っています。そのような体験を、この素晴らしいピアノとともに重ねていけたらと思っています」
ツアーは今後、札幌、仙台、福岡、東京、大阪、広島へと続いていく。若林顕とNew CFXが響き合う「新しい音の世界」を、ぜひとも多くの方に体験していただきたい。

若林顕

■ヤマハNew CFX コンサートツアー 2022 
~若林顕とCFX が響き合う、新しい音の世界~

9月29日(木)札幌市教育文化会館小ホール(札幌)
11月15日(火)宮城野区文化センターパトナホール(仙台)
12月15日(木)福岡あいれふホール(福岡)
12月21日(水)ヤマハ銀座店 ヤマハホール(東京)
12月25日(日)ザ・フェニックスホール(大阪)
2023月1月21日(土)広島市南区民文化センターホール(広島)
詳細はこちら

photo/ 田中大造

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