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ロイクソップ『プロファウンド・ミステリーズ』三部作がいざなう時空を超えたタイム・ワープ
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2022.11.14
tagged: 音楽ライターの眼, ロイクソップ, プロファウンド・ミステリーズ
ロイクソップが2022年を通して発表してきた壮大なプロジェクト『プロファウンド・ミステリーズ』三部作が、『プロファウンド・ミステリーズIII』でいよいよ完成となる。
1998年にノルウェーでスヴェイン・ベルゲとトルビョルン・ブラントンの2人によって結成。デビュー・アルバム『メロディーA.M.』(2001)のエレクトリックなダンス・ビートとアンビエント/ポスト・ロック的アプローチが交錯する色彩豊かな音楽性で一気に世界のポップ・シーン最前線に躍り出た彼らはイギリスやヨーロッパ、さらには日本でも人気を獲得し、2003年から複数回フジ・ロック・フェスティバルで大観衆を前にプレイするなど支持されてきた。
5枚目のアルバム『ジ・インエヴィタブル・エンド』(2014)を最後に「伝統的なアルバムという単位では作品を発表しない」と宣言。もちろん音楽活動は継続、フランツ・カフカの戯曲の抜粋をソルビョルン・ハール(『ヴァイキング 海の覇者たち』)とヤン・グンナー・ロイゼ(『遊星からの物体X ファーストコンタクト』)というノルウェーの俳優たちによるシアター・パフォーマンスとのコラボレーション『Kafka feat. Royksopp』(2015)、ノルウェーの公共テレビ局“NRK”のニュース番組用ジングルの作曲(2015)、映画『スター・ウォーズ』の世界観を独自に解釈したコンピレーション『スター・ウォーズ・ヘッドスペース』(2016)への参加、過去のレア・トラックを発掘する『Lost Tapes』(2019-2021)プロジェクト、“TOKYOカウントダウン2020”でDJセットを行うなど、“アルバム”というメディアから解き放たれた活動でファンを喜ばせてきた。
ただ、それらはノルウェー国内限定だったり、複数アーティスト参加作品への参加だったりして、世界中のファンのニーズに応えるものとは言い難かった。彼らのニュー・アルバムを求める声は、日を追うごとに大きなものになっていった。
そして2022年、ロイクソップは期待をはるかに超えた形でファンの声に応えてくれた。『プロファウンド・ミステリーズ』は1枚のニュー・アルバムでなく、3枚の独立した作品。もちろん“伝統的なアルバム”との決別宣言を忘れたわけではなく、音楽とヴィジュアル・アートの第一線クリエイター達との全面コラボレーションというプロジェクトになる。
音楽面でフィーチュアリングされているのはゴールドフラップのアリソン・ゴールドフラップ、現代の“4AD”レーベルにおいて重要な一角を占めるシンガー・ソングライターPixx、ノルウェーのシンガー・ソングライターであるスザンヌ・サンドフォーとアストリドS、ジ・イレプレッシブルズのジェイミー・イレプレッシブルなど。いずれもロイクソップの音世界にナチュラルに融け込みながら、それぞれの個性で新たな色彩を加えている。
一方、三部作の全30曲すべてのショート・フィルムとヴィジュアライザーが制作され、バンドの公式YouTubeチャンネルで公開される。それらは異なったヴィジュアル・アーティストによって作られたものだが、ロイクソップの“クリエイティヴ・ルール”に則って制作されており、彼らの脳内で描かれたヴィジョンが映像化されている。
さらに『プロファウンド・ミステリーズ』第1作はリミックス・アルバムも発表されており、三部作からさらにイマジネーションの翼を拡げていく。
ポピュラー音楽史において稀有なスケールの『プロファウンド・ミステリーズ』は斬新な作風だが、先進性のみを追求するのでなく、世代を超えた音楽ファンを魅了する要素を伴っている。北欧ならではの憂いをたたえたメロディと身体が動くリズムは普遍的なものだし、アリソン・ゴールドフラップが参加する『インポッシブル』(『〜I』収録)と『ザ・ナイト』(『〜III』収録)は若干の懐かしさすらおぼえるエレクトロニック・ダンス・ポップだ。『ザ・ナイト』には彼らの出世曲『Eple(イープル)』を思わせるピコピコ音も入っていて、つい涙するオールド・ファンもいるかも。
さらに年季の入った音楽リスナーのツボを捉えそうなのは、『〜III』の約10分におよぶ『スピード・キング』だ(もちろんディープ・パープルとは無関係)。シンセ&ヴォコーダーをフィーチュアしたマイナー展開のこの曲は『ジ・インエヴィタブル・エンド』の『スカルズ』の延長線上にあるといえるが1970年代中盤、世界的なディスコ・ブームが到来する以前のユーロ・ディスコを彷彿もさせる。ドイツを拠点とするジョルジオ・モロダー、フランスのセローンを双璧として、ヨーロッパではスペースの『マジック・フライ』(1977)、バチオッティの『ブラック・ジャック』(1978)、ディー・D・ジャクソンの『オートマチック・ラヴァー』(1978)など、エレクトロ・サウンドを前面に押し出したダンス・ポップが流行。筆者(山崎)は当時ベルギー在住で、小学校低学年だったためクラブやディスコに通うには若すぎたが、近所のスーパーのBGMで慣れ親しんでいた。ロイクソップが結成されたノルウェーのトロムソには活発なテクノ・シーンがあり、数々のアーティストを輩出しているが、彼らも少年時代は地元のスーパーで聴いて育ったのかも知れない。
さらにいえば1970年代はDJによるレコードの“繋ぎ”の技術がまだ未開発だったこともあり、1曲がえらく長いことがあった。『スピード・キング』が10分近くあるのも、そんな時代を偲ばせたりする。
最前線でありながら懐かしい。ロイクソップの『プロファウンド・ミステリーズ』三部作は、聴く者を時空を超えたタイム・ワープへといざなう作品だ。
発売元:BIG NOTHING
発売日:2022年11月18日
価格:2,750円(税込)
詳細はこちら
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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