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今月の音遊人:May J.さん「言葉で伝わらないことも『音』だったら素直に伝えられる」
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映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』/自分の中に宿る巨匠の魂を呼び起こす
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2022.12.23
tagged: 音楽ライターの眼, エンニオ・モリコーネ, モリコーネ 映画が恋した音楽家
エンニオ・モリコーネ(1928-2020)は映画音楽史上、質においても量においても最高峰と呼ばれる作曲家の一人である。
『荒野の用心棒』(1964)『続・夕陽のガンマン』(1966)『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984)『ミッション』(1986)『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988)など500作を超える映画作品の音楽を手がけてきた巨匠。2020年に91歳で亡くなったが、その音楽は愛され続ける。2022年10月には彼の手がけてきた名曲の数々を演奏する“エンニオ・モリコーネ『オフィシャル・コンサート・セレブレーション』”ワールド・ツアー初演が日本で行われた。
そんなモリコーネの音楽と人生を追ったドキュメンタリー映画が、2023年1月13日(金)に全国公開となる『モリコーネ 映画が恋した音楽家』だ。『ニュー・シネマ・パラダイス』『海の上のピアニスト』(1998)で共同作業をしたことのあるジュゼッペ・トルナトーレ監督が手がけた本作は生前のロング・インタビューを軸としており、その豊潤なキャリアを反映して、約2時間40分という大作。最初から作曲家だったわけではなく、トランペット奏者としてポール・アンカのバックを務めたり、ジョン・ケイジばりの実験音楽を経て映画音楽の世界に入った紆余曲折も丁寧に語られる。
とにかく手がけた作品数の多いモリコーネだが(1969年には映画21作の音楽を書いたという)、本作ではメリハリを付けながら代表作、そして今日では注目されることの少ない作品の音楽を紹介していく。
モリコーネは『荒野の用心棒』で“スパゲッティ・ウエスタンの音”を確立、世界にその名を轟かす。ただ“シリアスな”作曲家を志していた彼(初期は映画音楽を書くことすら“屈辱”だったという)にとってそれは必ずしも有り難くない評価で、常々「ウエスタンだけの作曲家と思われたくない」と語っていた。にも拘わらず「それが運命ならば」と引き受けて、しかも名曲を連発していたのは驚嘆に値する。
さらに『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』や『ミッション』については代表作として背景や反響を含め、かなりの時間が割かれている。
もちろん彼のキャリアを彩ったさまざまな作品からの音楽が紹介されている。その中には日本未公開作品も少なくないが、いずれも彼の魂のかけらが埋め込まれており、必ず心を捉える瞬間がある。筆者(山﨑)は『オルカ』(1977)で初めてその音楽に触れ、モリコーネという作曲家を意識したのが『遊星からの物体X』(1982)からという、決して“王道”とは言えないかも知れないリスナーだが、本作ではあっさりスルーされているそれら2作においても、その音楽には胸を捉えるマジックが込められている。
また、本作ではそれらの音楽を紹介する際に引用する映画本編のシーンも絶妙で、ひとつひとつを見たくなってしまう。
なお、モリコーネ自身が「逃して悔やんでいる唯一の作品」と語る『時計じかけのオレンジ』(1971)、途中降板した『エンドレス・ラブ』(1981)など、実現しなかったプロジェクトへの言及も貴重だ。
その膨大な作品を紹介するだけでなく、彼の人柄にもスポットライトが当てられている。念願のアカデミー賞受賞で涙ぐむ姿や、『Uターン』(1997)を手がけるにあたってオリヴァー・ストーン監督に『トムとジェリー』を見せられ「私にマンガ映画の音楽をやれだと!?」と激昂した逸話が語られるなど、感情の揺れ幅が大きいことが窺えて面白い。
本人がその軌跡をひもとくのに加え、数々の著名人がモリコーネを語っているのも本作のハイライトのひとつだ。同業者の映画音楽家であるジョン・ウィリアムズやハンス・ジマーからクリント・イーストウッド、ベルナルド・ベルトルッチ、ダリオ・アルジェント、クエンティン・タランティーノ、ウォン・カーウァイら関わりの深い映画人の談話によって、多角的にモリコーネ像が形作られていく。
それに加えてポピュラー音楽界からも数多くのアーティストが出演している。『続・夕陽のガンマン』から多大なインスピレーションを受けたと語るブルース・スプリングスティーン、『ニュー・シネマ・パラダイス』をギター・アレンジしたパット・メセニー、『死刑台のメロディ』主題歌を担当したジョーン・バエズ、ライヴのオープニングに『続・夕陽のガンマン』から『ゴールドの恍惚感』を使っているメタリカのジェイムズ・ヘットフィールド、ミスター・バングルやファントマズなどのバンドで楽曲をカヴァー、自らのレーベル“イピキャック・レコーディングス”からモリコーネの知られざる名曲を集めたコンピレーションCD『Crime and Dissonance』(2005)をリリースしたこともあるマイク・パットン、ザ・クラッシュで知られるポール・シムノン、プロデューサーのクインシー・ジョーンズらのコメントはモリコーネに対する敬意と愛情に満ちたものだ。また『ウエスタン』から『ハーモニカの男』をイントロに加えたミューズの『ナイツ・オブ・サイドニア』ライヴ映像もフィーチュアされている。
馬が疾走するのを思わせるギャロップのリズム、コヨーテの吠え声など、彼の生み出したウエスタンのスタイルは菊池俊輔や渡辺宙明などにも影響を与え、日本の音楽リスナーにとっての“かっこいい音楽”のDNAとして受け継がれている。『モリコーネ 映画が恋した音楽家』は、自分の中に宿るモリコーネ魂を呼び起こす作品なのだ。
2023年1月13日(金)TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開
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山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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