今月の音遊人
今月の音遊人:矢野顕子さん 「わたしにとって音は遊びであり、仕事であり、趣味でもあるんです」
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スティーヴ・ヴァイがバイカー仲間の亡き友と作った『ヴァイ/ガッシュ』が発表
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2023.2.17
2023年1月、スティーヴ・ヴァイのアルバム『ヴァイ/ガッシュ』が発表された。
スティーヴが前作となる『インヴァイオレット』をリリースしたのが2022年1月のこと。オリジナル・スタジオ・アルバムとしては約10年ぶりの新作で、じっくり時間をかけて作り込んだ楽曲の数々、7弦/12弦/4弦ベース&ドローン弦、という3本のネックを持った奇想天外なギターの新必殺テクニックとプレイなど、とにかく聴きどころと情報量が多い。聴くたびに新たな発見と新たな感動が押し寄せるため、発表から1年経ってもまだ“ニュー・アルバム”という印象が抜けない。そんな矢先の『ヴァイ/ガッシュ』発表ゆえ、「えっ、もう新作?」と驚いたファンもいるだろう。
ただこのアルバムは純然たる新作ではなく、1991年にレコーディングされた未発表音源を初めて公式リリースしたものだ。スティーヴは『セックス・アンド・レリジョン』(1993)に着手する直前だったが、バイカー仲間のジョン“ガッシュ”ソンブロットをシンガーに迎えて全8曲をレコーディング。このセッションは2週間をかけて行われ、スティーヴがギター、ベース、キーボードをプレイしている。
スティーヴがセルフ・ライナーノーツで“バイカー・タイプ・ソングズ”と表現しているこれらの曲は、彼を“奇才”たらしめているエキセントリックかつテクニカルな音楽性とは一線を画したものだ。1曲目『イン・ザ・ウィンド』からストレートに畳みかけるハード・ロックンロールで、ブルージーな『ウーマン・フィーヴァー』やスティーヴの古巣であるデヴィッド・リー・ロスの『まるっきりパラダイス』を彷彿とさせるキャッチーな『シー・セイヴド・マイ・ライフ・トゥナイト』など約30分間、息をつく間もなく突っ走っていく。ラスト『フラワーズ・オブ・ファイア』のイントロが『パッション・アンド・ウォーフェア』(1990)の『リバティ』ばりのギター・オーケストレーションによるアンセムなのも、ファンとしては嬉しいところだ。
そんなストレートでフックのあるハード・ロックはスティーヴが1984年から1985年にかけて在籍したアルカトラスやその後1989年まで行動を共にしたデイヴ・リー・ロスの作品と通じるものがあり、その音楽性が一本の線で繋がっていることがわかる。本作のレコーディングの前にホワイトスネイクの『スリップ・オブ・ザ・タング』(1989)に参加、ワールド・ツアーに同行したこともまた関係しているだろう。
彼のリード・ギターのプレイはそんな曲調を反映した疾走感重視のもので、後のリーダー・アルバムでしばしば顔を覗かす“変態”的なフレーズは抑えめ。とは言っても、そのギター・ソロの超絶テクニックと個性あふれるスタイルは冴えわたっており、メロディを重視したラインと対比を成すことで、手に汗握るスリルを生み出している。
本作で大きなサプライズなのは、ガッシュのヴォーカルだ。彼はプロフェッショナルなシンガーではなく、スティーヴとはバイカー友達というだけだったが、グラハム・ボネットばりの高音シャウト、デイヴ・リー・ロスを思わせる挑発的なエンタテイナーぶりを兼ね備えた歌いっぷりは見事なもの。今回のリリースに際してスタジオで若干の手直しはしているのかも知れないが、シンガーとしての力量はデビュー作にして申し分ないものだ。それにしても遊びでフランク・シナトラの曲を歌ったテープ1本を聴いただけでその才能を見抜き、スタジオに招いてまったく異なったスタイルのヴォーカルを取らせたスティーヴの眼力もまた、さすが!と唸らされる。
ただ残念ながら、ガッシュがシンガーとして大成することはなかった。スティーヴがソロ・アーティストとして成功を収め、ツアーとレコーディングで多忙を極めたことで、レコーディングされたテープは倉庫でホコリを被ることになる。ガッシュはスティーヴの『セックス・アンド・レリジョン』(1993)と『ファイア・ガーデン』(1996)にバック・ヴォーカルで参加するが、1998年にバイク事故で亡くなり、このプロジェクトを復活させることは不可能となってしまった。
だがスティーヴがこの音源を忘れることはなく、年に1回は聴き返し、旧友との思い出に浸っていたという。そうして30年の月日を経て、正式にミックスされて『ヴァイ/ガッシュ』として世に出ることになったのである。
スティーヴは2022年6月から『インヴァイオレット』に伴うツアーを開始、ヨーロッパと北米をくまなくサーキットしている。コロナ禍により本格的なツアーは2019年以来ということもあり、どの公演も盛況。『ティース・オブ・ザ・ハイドラ』ではステージ上で実際に3本ネックのギターを弾いており、その仕様がヴィジュアル的なギミックでなく、音楽的に必然性があることを証明している。2023年3月からは再びヨーロッパ・ツアーが行われることが発表されている。
スティーヴが前回日本を訪れたのは2019年11月、“ジェネレイション・アックス”ツアーでのこと。イングヴェイ・マルムスティーン、ヌーノ・ベッテンコート、ザック・ワイルド、トーシン・アバシというギター・ゴッド達との共演は日本全国をヒートアップさせたが、2017年の“ジェネレイション・アックス”を挟んで、実は単独ツアーは2014年以来実現していない。ぜひ久々に日本のステージに戻ってきて、この奇想天外ギターを心ゆくまで弾きまくっていただきたい。
発売元:ソニーミュージック
発売日:2023年1月25日
価格:2,500円(税込)
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山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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tagged: 音楽ライターの眼, スティーヴ・ヴァイ, ヴァイ/ガッシュ
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