Web音遊人(みゅーじん)

YAS-875EX

日本を代表するサクソフォン五人衆が競演、協奏曲で芸術性が新たな進化/ヤマハカスタムサクソフォン「YAS-875EX」発売20周年記念ガラコンサート

日本のサクソフォン界を代表する五人衆が集結し、競演を繰り広げた。2023年3月25日、ヤマハホールでの「ヤマハカスタムサクソフォン『YAS-875EX 』発売20周年記念ガラコンサート」。YAS-875EXや前身モデルの機能を駆使し、さまざまな編成で演奏。上野耕平がラーションの『サクソフォン協奏曲』でトリを飾り、この楽器の芸術性は新たな進化の可能性を示した。

国際コンクール1位の齊藤健太、初の師弟共演

2002年発売の「YAS-875EX」は須川展也やジャン=イブ・フルモーら世界で活躍するサクソフォン奏者の意見に基づき前身の「YAS-875」をブラシュアップした。20周年記念のステージに上がったのは齊藤健太、池上政人、田中靖人、林田和之、上野耕平の5人。師弟共演あり、五重奏ありの充実ぶりだ。
三部構成の第一部のテーマは「お祝い」。1曲目『チェイサー』は星出尚志作曲のフュージョン風の曲。羽石道代の疾走感あふれるピアノに乗って、齊藤健太と池上政人が掛け合いやユニゾンで技巧を凝らした演奏を披露した。
齊藤は2019年の「第7回アドルフ・サックス国際コンクール」第1位。彼が師事したのは洗足学園音楽大学教授の池上。今回が初の師弟共演だ。「注意すると彼はすごい顔で悔しがった。それでもう大丈夫と確信した」と池上は指導時を振り返り、最近は「音に芯が出てきた」と評価する。モンティ作曲(栃尾克樹編曲)『チャルダッシュ』では超絶技巧を感じさせない明快な響きを創り出していた。
齊藤は羽石のピアノ伴奏でソロも2曲披露した。ピエルネ作曲(ミュール編曲)『カンツォネッタ』は牧歌的でユーモラス。中間部では感傷的な陰影も付けるなど繊細に表現した。続くスコット作曲『MHP』ではアドリブ風の速いフレーズを鳴らし、高い技術を示した。

YAS-875EX

新旧モデルが奏でる表情豊かなアンサンブル

第二部のテーマは「道のり」。林田和之が銀色の楽器を持って登場した。前身の「YTS-875S 」という銀メッキ仕上げのテナーサクソフォンだ。スパーク作曲『パントマイム』では、YTS-875Sが人声のような柔和な音を出す。速い局面では軽やかな中低音で魅了した。ピアノは引き続き羽石。サクソフォンを引き立てすぎず、積極性も見せながら絶妙なバランスを取るアンサンブルピアニストだ。
続いて田中靖人が登場し、YAS-875EXで『モリコーネ・パラダイス』(真島俊夫編曲)を羽石のピアノと共演。深みのある音色でモリコーネの映画音楽を情感豊かに奏でた。

YAS-875EX

第二部の白眉は林田、田中、羽石によるプーランク作曲『三重奏曲~ピアノ、オーボエとバスーンのための~』。オーボエは林田のソプラノサクソフォン(YSS-875S)、バスーンは田中のバリトンサクソフォン(YBS-82 )に置き換えている。林田のソプラノは音色に艶がある。第1楽章ではプーランク独特の軽妙洒脱なパッセージが炸裂。第2楽章はホルンを思わせる広大なアンダンテ。第3楽章では3人がエッジを効かせたアンサンブルを展開した。

YAS-875EX

ラーションの名作と五重奏が示す進化の可能性

第三部は上野耕平が弦楽奏者たちと繰り広げる「名作コレクション」。モーツァルトの『アダージョ ハ長調 KV.580a』ではYAS-875EXがホルンのように穏やかに鳴り、「こんなこともできる」(上野)という実例を示した。
最後のラーション『サクソフォン協奏曲』は完成度が高い。若手中心の弦楽合奏は第1楽章冒頭から繊細で精緻をきわめる。第1バイオリンは高橋愛輝と下宮万弦、第2バイオリンは大田春奈と中井楓梨、ビオラは金田拓真、チェロは松谷壮一郎、コントラバスは桑原孝太朗。半音階的な弦楽合奏は明暗混交の特異な浮遊感を生み出し、ショスタコーヴィチを想起させる。上野のサクソフォンは哀愁と諧謔の混じった速いフレーズを奏でる。超絶技巧のカデンツァを経てすぐに第1楽章が幕切れになるのも衝撃だ。
第2楽章はワーグナーを思わせる大きなスケール。第3楽章は弦楽が薄明を漂わせるなか、上野の強烈なカデンツァの直後に全曲を終える。サクソフォンが開いた名作を実感させた。

YAS-875EX
アンコールは5人全員による福井健太編曲『星に願いを』。各人の個性を引き出し、厚みのある五重奏で締めくくった。
ベルギー南部ディナン生まれのアドルフ・サックスが1840年代に発明したサクソフォンは歴史が新しい。現代世界とともに歩んできた楽器であり、今も進化している。本公演はサクソフォンが新たな音楽を担っていく可能性を印象付けた。

YAS-875EX

■YAS-875EX

上質で威厳あふれる豊かなサウンド。ストレスを感じさせないスムーズで優れたキイワークと低音の発音性。奏者の思いを表現できるフラッグシップモデル。


製品の詳細はこちら

photo/ 土居政則

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

坂本龍一さん

今月の音遊人

【プレゼント】今月の音遊人:坂本龍一さん「かつて観たテレビアニメの物語は忘れたけど、主題歌は鮮明に覚えている。音楽の力ってすごいよね」

15630views

なぜジャズのハードルは下がらないのか?vol.5

音楽ライターの眼

なぜジャズのハードルは下がらないのか?vol.7

4534views

サイレントブラス

楽器探訪 Anothertake

“練習”の枠を超え人とつながる楽しさを「サイレントブラス」

3425views

初心者必見!バンドで使うシンセサイザーの選び方

楽器のあれこれQ&A

初心者必見!バンドで使うシンセサイザーの選び方

23142views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

12082views

ステージマネージャーの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

ステージマネージャーひと筋に、楽員とともにハーモニーを奏で続ける/オーケストラのステージマネージャーの仕事(後編)

17214views

しらかわホール

ホール自慢を聞きましょう

豊潤な響きと贅沢な空間が多くの人を魅了する/三井住友海上しらかわホール

13314views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

8384views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

13499views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:人を楽しませたい!それが4人の共通の思い

6310views

山口正介 Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

マウスピースの抵抗?音切れ?まだまだ知りたいことが出てくる、そこが面白い

5644views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9654views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ギタリスト木村大とピアニスト榊原大がトランペットに挑戦!

7018views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

12556views

音楽ライターの眼

若き精鋭ふたりに、耳も目もぐいぐい引き込まれる/三浦文彰&ヨナタン・ローゼマン デュオ・リサイタル

4281views

オトノ仕事人

コンピュータを駆使して、ステージのサウンドをデザインする/ライブマニピュレーターの仕事

3705views

われら音遊人

われら音遊人:路上イベントで演奏を楽しみ地域活性にも貢献

2991views

練習用のバイオリンとして進化する機能と、守り続けるデザイン

楽器探訪 Anothertake

進化する機能と、守り続けるデザイン

4942views

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、新時代へ発信する刺激的なコンテンツを/東京芸術劇場 コンサートホール

ホール自慢を聞きましょう

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、刺激的なコンテンツを発信/東京芸術劇場 コンサートホール

12162views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

いまやサクソフォンは趣味となったが、最初は映画音楽だった

6582views

エレキベース

楽器のあれこれQ&A

エレキベースを始める前に知りたい5つの基本

2508views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

8960views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9654views