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今月の音遊人:亀田誠治さん「音楽は『人と人をつなぐ魔法』。いまこそ、その力が発揮されるべきだと思います」
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伝説のドローン・バンド、アースを題材にした映画が海外公開。ニルヴァーナにも多大な影響
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2023.6.8
tagged: 音楽ライターの眼, アース, Earth, Even Hell Has Its Heroes
ロックの歴史において、孤高かつ特異な世界観で約30年にわたって音楽リスナーから崇拝され、数多くのアーティスト達に影響を与えてきたアース(Earth)を題材としたドキュメンタリー映画『Even Hell Has Its Heroes』が海外で公開されて話題を呼んでいる。
1989年にワシントン州オリンピアでディラン・カールスンによって結成。デビュー・ミニ・アルバムに続いて発表された『Earth 2: Special Low Frequency Version』(1993)はヘヴィなギターが永遠に続くドローン(持続音)サウンドで衝撃を呼んだ。ニルヴァーナのカート・コベインが多大な影響を受け、ディランと親しい友人だったことは有名だし、21世紀にドローン・ドゥームの潮流を生み出したサン O)))は結成当初アースのカヴァー・バンドだった。世界的な人気を誇る日本のBorisのAtsuoは『Earth 2』を「人生で一番聴いたアルバム」と語り、元クリームのジャック・ブルースも晩年彼らに傾倒、最後のアルバム『シルヴァー・レイルズ』(2014)で触発された『ドローン』という曲を収録している。決してヒット・チャートを騒がすタイプの音楽ではないものの、その存在はしっかりと現代の音楽シーンに根を下ろしているのだ。ジム・ジャームッシュ監督の『リミッツ・オブ・コントロール』(2009)、そして『ゴールド』(2013)などで楽曲が使われるなど、アースとディランの音楽は映画でも効果的に使われている。
『Even Hell Has Its Heroes』はクライド・ピーターセン監督がアースのヴィジョンを映像化した作品だ。全編スーパー8mmフィルムのローファイな画質でライヴやインタビュー、イメージ映像などを交えながら赴く1時間50分の旅路は、全編ヘヴィなギター・ドローンに彩られている。
過去映像のフッテージを時系列順に並べるようなキッチリしたバイオグラフィではないものの、きわめて緩くアースのヒストリーが綴られる本作。ディラン本人や歴代のメンバー、関係者の証言は、その歴史に新たな光を当てるものだ。
凝ったコード進行やアレンジを排除、基本的に歌詞もないアースの音楽は聴く者の知覚よりも感覚に直接訴えかけるものだ。ディラン自身はドローンの導入について「俺はメタル・キッズで、最高にスローで最高にヘヴィな、クールなリフをいつまでも持続させたかった」と語っているが、この映画を観た人は彼がただ本能のまま演奏するのでなく、具体的にそのルーツを自己分析していることに驚くかも知れない。「ラッシュのように長い曲が好きだったけど、展開が複雑過ぎた。それでジョン・リー・フッカーや、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド経由で知ったラ・モンテ・ヤングの要素を取り入れた」と彼は説明しており、“アース”というバンド名についても(1)地球の根底にある“大地”、(2)電気の“接地”、(3)ブラック・サバスのデビュー前のバンド名、(4)ブルース・スプリングスティーンのデビュー前のバンド名、(5)キャンドルマスの「ソリチュード」歌詞に“earth to earth, ashes to ashes, dust to dust”という一節がある……などと克明に説明している。
親しい友人でありデビューEP『Extra-Capsular Extraction』(1991)にゲスト参加したカート・コベインとの関係についても、ディランが自ら語っている。失踪したカートを捜索した(自殺死体となって発見)彼の発言はとてつもなく重い。
グランジのユニフォームといわれたネルシャツはディランが発祥といわれ、『Earth 2』はグランジの総本山“サブ・ポップ”レーベルからリリースされるなど、アースはグランジの勃興において重要な位置を占めていた。この映画では“サブ・ポップ”創始者のブルース・パヴィットが「アースはコンセプチュアルなアート・プロジェクトだった」と表現、『Earth 2』の共同プロデューサーだったスチュアート・ハラーマンが“アヴァスト!スタジオ”でそのメイキングを語るなど、歴史的な証言が続く。第3作『Phase 3: Thrones And Dominions』(1995)の制作中にディランがヘロインに耽溺、壊れていくさまをエンジニアのフィル・エクが語るさまは胸が痛くなるほどリアルだし、ヘロインを調達したギタリストのトミー・ハンセンの談話もある。
しばしの隠遁期間を経て、アースは名盤『Hex: Or Printing In The Infernal Method』(2005)で奇跡の大復活を遂げるわけだが、新生アースで重要な位置を占めるドラマーのエイドリアン・デイヴィスにも時間が割かれており、またプロデューサーのランドール・ダンは復活後の暗黒アメリカーナ路線についてコーマック・マッカーシーの小説からの影響に言及している。キーボード/トロンボーン奏者のスティーヴ・ムーアやマスタリング担当のメル・デットマーは表に出ることが稀なこともあり、インタビューでその顔と声を知ることが出来るのも興味深い。現代ギターのレジェンド、ビル・フリゼールもアースを語っている。
さらにベーシストのアンジェリーナ・バルドスがギターを焚き火で燃やしたり、ギタリストのジョナス・ハスキンズがギターを櫂にして湖で舟を漕ぐなど、前衛的なヴィジュアルも効果的だ。彼らの生活圏にある鬱蒼とした森林や製材所などは、オリンピアから約200km離れているものの、同じくシアトル郊外にあるノース・ベンドやスノコルミーでロケが行われたTVシリーズ『ツイン・ピークス』(1990-91)を連想させたりして面白い。
監督のピーターセンはワシントン州出身の映像作家。アニメーション作品『トーリー・パインズ』(2016)が「GEORAMA 2017-18 presents ワールド・アニメーション『長編アニメーションの新しい景色』」で上映された際には来日、自らのバンドであるユア・ハート・ブレイクスでライヴも行ったことがある。今回も日本での上映を視野に入れており、オンライン試写でも日本語字幕を付けるなど用意周到である。なお映画のブルーレイ/DVDも一連の映画祭での上映が一段落した時点で発売されるそうだが、ぜひ日本の映画館の大スクリーンで、大音量のドローンに晒されたいものである。
2023年公開(アメリカ)
クライド・ピーターセン監督作品
公式サイト
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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