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今月の音遊人:仲道郁代さん「多様性こそが音楽の素晴らしさ、私自身もまだまだ変化していきます」
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ロシアの正統派ピアニストがラフマニノフ生誕150周年に捧げた至高のオマージュ/ニコライ・ルガンスキー ピアノ・リサイタル
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2024.2.16
tagged: ヤマハホール, 音楽ライターの眼, ニコライ・ルガンスキー
1994年のチャイコフスキー国際コンクールで最高位に輝いてから、今年はちょうど30年目の節目。正確無比な技巧と豊かなロマンを備えたロシアの正統派ピアニストとして長らく活躍するニコライ・ルガンスキーの4年ぶりとなる来日公演が2023年12月4日にヤマハホールで行われた。
注目の演目に並んだのは、2023年が生誕150周年にあたるラフマニノフの3つの傑作。
幕開けに選ばれた『ショパンの主題による変奏曲』は、曲名の通り、ショパンの前奏曲第20番が原曲だ。複雑な半音階で編まれたハ短調のメランコリックな主題は、22回にもわたって変奏されることで壮大な伽藍となって聳え立つ。 この日のルガンスキーは、横の流れよりも縦の構成に重きを置いたと思われる解釈で、巨匠ならではの堂々たる風格を漂わせていたのが印象的だった。
これに続いたのが、絵画的練習曲集『音の絵』。「作品33」と「作品39」の2つの曲集が存在するが、今回は前者が演奏された。全9曲からなり、当時を代表するピアニストでもあった作曲者の技巧の粋を集めたこの超難曲を、ルガンスキーは2022年に2度目のレコーディング。1992年の初録音から30年ぶりとなる満を持しての再録音だったこともあり、輝かしく格調高いピアニズムが隅々にまで行き届いた圧巻の名演だった。この日のルガンスキーも、録音に勝るとも劣らない洗練と集中力で聴き手を魅了。中でも白眉だったのが、第8曲の難所として知られる房状の和音を両手で受け渡す際の動作で、そのあまりにも滑らかで自然な指さばきは余裕さえ感じさせる妙技だった。
そしてトリを飾ったのが、『ピアノ・ソナタ第1番』。演奏に約40分も要する長大な作品で、技術的にも構成的にも複雑な、これまた超難曲だ。だが、ルガンスキーはここでも鋼鉄のように揺るぎないピアニズムで直進し、本作の壮大で豊麗な真実を次々と明らかにしてゆく。第1楽章で豊かな響きを次第に増してゆく際の精巧な音響設計、第2楽章における実に美しくゆったりとした歌い回し、第3楽章で結実したダイナミックと神秘性のみごとなまでの調和。……と、あまりに立派で、立派すぎて、自分などにはもう何も言うことのない出来ばえだった。
そんなパーフェクトぶりは、アンコールの3曲(13の前奏曲〜第5番、10の前奏曲〜第7番、13の前奏曲〜第12番)にも至高の余韻として継続。
それは、過去にインタビューで、「ラフマニノフのピアノ曲は、一旦マスターしてしまうと、自分の指が奏でているのかピアノが自分で歌っているのか区別できなくなるほどピアノと一体化してしまう」と述べていたルガンスキーの言葉をまさに体現したものだった。
渡辺謙太郎〔わたなべ・けんたろう〕
音楽ジャーナリスト。慶應義塾大学卒業。音楽雑誌の編集を経て、2006年からフリー。『intoxicate』『シンフォニア』『ぴあ』などに執筆。また、世界最大級の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」のクラシックソムリエ、書籍&CDのプロデュース、テレビ&ラジオ番組のアナリストなどとしても活動中。
文/ 渡辺謙太郎
photo/ Ayumi Kakamu
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