Web音遊人(みゅーじん)

加藤和彦

音楽家・加藤和彦が再評価されるなか再版されたインタビュー集/『あの素晴らしい日々 加藤和彦、「加藤和彦」を語る』

日本のミュージックシーンで活躍したザ・フォーク・クルセダーズや、サディスティック・ミカ・バンド。その中心メンバーだった音楽家の加藤和彦にロングインタビューした書籍『あの素晴らしい日々 加藤和彦、「加藤和彦」を語る』が再版された。どうして今、加藤和彦なのか。本書はどのようにして生まれたのか。著者の前田祥丈さんに寄稿いただいた。(Web音遊人編集部)

加藤和彦の音楽的業績にもう一度スポットを当てたい

多くの関係者の証言で音楽家としての加藤和彦を浮き彫りにする映画『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』が2024年5月31日から全国ロードショー公開されるなど、彼の音楽的業績を再評価しようとする機運が高まっている。
映画の公開に先立って出版された単行本『あの素晴らしい日々 加藤和彦、「加藤和彦」を語る』も、音楽家加藤和彦を知る資料のひとつであると同時に、私にとっても感慨深い本だ。これは私が1993年に加藤本人に行ったインタビューをまとめたものなのだ。
1960年代のザ・フォーク・クルセダーズ、70年代のサディスティック・ミカ・バンドで新しい日本の音楽潮流を作り出し、その後も高い音楽性をもつソロアルバムを輩出した加藤和彦だが、80年代終わり頃にはセレブリティ感あふれるライフスタイルや、趣味人、美食家といった側面ばかりが注目され、音楽家としては過小評価されている印象があった。
そんな加藤和彦の音楽的業績にもう一度スポットを当てたいとの思いから、私は彼にインタビューを申し込み、数回に及ぶロングインタビューが実現した。

ザ・フォーク・クルセイダーズ

“埋れさせたくない”言葉

彼はインタビューに真摯な姿勢で臨んでくれた。かなり突っ込んだ質問にも率直な言葉で答えてくれ、「これは初めて話すんだけど」とそれまで知られていなかったエピソードをいくつも教えてくれた。
生い立ち、音楽との出会い、そしてザ・フォーク・クルセダーズ、サディスティック・ミカ・バンド、さらにソロ活動といった表立った動きだけでなく、レコードの自主製作、日本初のPA導入、レコーディングノウハウの確立、さらにアーティストとしての矜持を守る業界との闘い、などの話を聞きながら、改めて彼が日本の音楽ヒストリーに残してきた功績の大きさを痛感していた。

サディスティック・ミカ・バンド

予定ではこの本は1993年中に出版されるはずだった。しかし、病に倒れたパートナーの安井かずみ(作詞家)の看病に専念するために加藤はすべての仕事をキャンセルし、本の企画もストップ。その後、企画再開ができないまま時が過ぎ、加藤の死によって企画は完全にお蔵入りになった。
企画が再び動き出したのは、2011年3月11日の東日本大震災がきっかけだった。私の事務所の散乱した書類の中から発見した当時のインタビュー原稿を読み直し、改めて“加藤和彦の言葉をこのまま埋もれさせるわけにはいかない”と思い立った。
その後、加藤の関係者の協力を得て2013年に本書は『エゴ 加藤和彦、加藤和彦を語る』として出版されたが、版元が出版事業からの撤退もあって絶版状態になっていた。
それがここに来て、加藤和彦の音楽家としての再評価の機運とともに再出版の機会をいただけた。著者としてもとても感慨深いものがある。
本書の中身を簡単には要約できないが、あえてひとつだけ言わせていただければ、当時47歳だった彼が本書に残した言葉たちは、30年以上たった現在にも大事なメッセージを伝えてくれるものだ。ぜひ本書を手に取ってもらえたらうれしい。

■書籍『あの素晴らしい日々 加藤和彦、「加藤和彦」を語る』

著者:加藤和彦・前田祥丈
監修:牧村憲一
発売元:百年舎
料金:3,300円(税込)
詳細はこちら

■映画『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』

2024年5月31日よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開
企画・構成・監督・プロデュース:相原裕美
出演:きたやまおさむ、松山猛、朝妻一郎、新田和長、つのだ☆ひろ、小原礼、今井裕、高中正義、クリス・トーマス、泉谷しげる、坂崎幸之助、重実博、コシノジュンコ、三國清三、門上武司、高野寛、高田漣、坂本美雨、石川紅奈(soraya) 他
(ARCHIVE)高橋幸宏、吉田拓郎、松任谷正隆、坂本龍一 他(順不同)
配給・宣伝:NAKACHIKA PICTURES ⓒ2024「トノバン」製作委員会
詳細はこちら

前田祥丈〔まえだ・よしたけ〕
1948年生まれ。73年、風都市に参加。音楽スタッフを経て、編集者・ライター・インタビュアーとなる。音楽専門誌をはじめ、さまざまな出版物の制作・執筆を手がけている。著・編著は、『音楽王・細野春臣物語』、『YMO BOOK』、『THIS IS ROCK』など多数。

特集

八神純子さん - 今月の音遊人

今月の音遊人

今月の音遊人:八神純子さん「意気込んでいる状態より、フワッと何かが浮かんだ時の方がいい曲になる」

13603views

伝統ある劇場の内部に切り込んだドキュメンタリー映画、『新世紀、パリ・オペラ座』

音楽ライターの眼

伝統ある劇場の内部に切り込んだドキュメンタリー映画、『新世紀、パリ・オペラ座』

4613views

マーチングドラム

楽器探訪 Anothertake

これからのマーチングドラム ~楽器の進化の可能性~

12727views

楽器のあれこれQ&A

いつも清潔にしておきたい!ピアニカのお手入れ、お掃除方法

315359views

おとなの楽器練習記:岩崎洵奈

おとなの楽器練習記

【動画公開中】将来を嘱望される実力派ピアニスト、岩崎洵奈がアルトサクソフォンに初挑戦!

11814views

オトノ仕事人

大好きな音楽を自由な発想で探求し、確かな技術を磨き続ける/ピアニストYouTuberの仕事

46037views

ホール自慢を聞きましょう

ウィーンの品格と本格派の音楽を堪能できる大阪の極上空間/いずみホール

7062views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

9056views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

歴史的価値の高い鍵盤楽器が並ぶ「民音音楽博物館」

24638views

武豊吹奏楽団

われら音遊人

われら音遊人: 地域の人たちの喜ぶ顔を見るために苦しいときも前に進み続ける

1927views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

贅沢な、サクソフォン初期設定講習会

5592views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26127views

桑原あい

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若きジャズピアニスト桑原あいがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

15650views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

31420views

メタリカ

音楽ライターの眼

メタリカの誇るグラミー賞メタル部門最多受賞

916views

楽器博物館の学芸員の仕事 Web音遊人

オトノ仕事人

楽器のデモンストレーション、解説、管理までをこなすマルチプレイヤー/楽器博物館の学芸員の仕事(前編)

11887views

われら音遊人ー021Hアンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:元クラスメイトだけで結成。あのころも今も、同じ思いを共有!

5753views

82Z

楽器探訪 Anothertake

アンバー仕上げが生む新感覚のヴィンテージ/カスタムサクソフォン「82Z」

3941views

ザ・シンフォニーホール

ホール自慢を聞きましょう

歴史と伝統、風格を受け継ぐクラシック音楽専用ホール/ザ・シンフォニーホール

24774views

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい 山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい

5655views

EZ-310

楽器のあれこれQ&A

初めての鍵盤楽器を楽しく演奏して上達する方法

812views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

7056views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30897views