今月の音遊人
今月の音遊人:新妻聖子さん「あの歌声を聴いたとき、私がなりたいのはこれだ!と確信しました」
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ひとりとして取り残すことなく、誰もが楽しめる世界を創出/演出家の仕事
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2024.12.6
tagged: クリスマス・ワンダーランド, オトノ仕事人, 演出家, 金谷かほり, ブロードウェイ
舞台やコンサート、テーマパークショーなどの芸術性やエンターテイメント性を高め、観客の心を動かす演出家。あたかも空間に魔法をかけるかのようなその仕事は、どのようにして行われているのか。
名立たるアーティストのライブやさまざまなショー、舞台公演など幅広い分野で活躍する金谷かほりさんに仕事の内容や、情熱をかけて挑んだ今冬開催の『ブロードウェイ クリスマス・ワンダーランド』の見どころなどを聞いた。
B’sや倉木麻衣、Little Glee Monsterらのライブから、新作歌舞伎『ファイナルファンタジーX』、『ワンピース・オン・アイス』、『ワンピース音宴〜イーストブルー編~』、『ドラゴンクエスト ライブスペクタルツアー』などのステージ、さらに現在大ヒット上映中の韓国ロッテワールドのナイトパレード『World of Lights』。これまで手がけてきた仕事は、数えきれない。
いかにして楽しんでもらうのか、どんな手法で見せるのか。テーマを決めることは、演出家の仕事のスタートであり要だ。それに沿った演出プランを練り、各専門家と協力しながらイメージしたものをつくり上げていく。
「いろいろなケースがありますが、テーマ―パークの演出の場合はストーリーの制作から使用する音楽の作詞、さらに作曲家への委嘱、収録の立ち合いまでのすべてを担うことも多くあります。コンサートではセットリストをつくったり、ときにはMCのアドバイスをしたり。また、セットデザイナーと話し合ってファンに喜んでもらえるようなステージセットをつくったりします。舞台で原作がある場合は、脚本家の方とじっくりとお話しする時間を取ることも多いですね」
ダンサーや役者へのアドバイスも、演出家の仕事のひとつだ。尾上菊之助さんが企画し、話題を呼んだ新作歌舞伎『ファイナルファンタジーX』ではそうそうたる歌舞伎役者たちがそろうなか、「自分たちにダメ出しをしてほしい」と頼まれたこともあった。
「これほどの役者さんたちにダメ出し?と思ったのですが、2年以上かけて考えてきた舞台だったので、何か少しでもお伝えできるものがあれば、と。言葉を選んで丁寧にご説明したら3時間が経っていました。人生で一番緊張した時間でした」
ひとつの舞台やショーが興行にこぎつけるまで、費やす時間は最低でも1〜2年。そして、その多くがひとりで考える時間になるという。
「いつも、ひたすら椅子に座って考え続けています。これ、いいかも!というアイディアが生まれたときが、この仕事をしていて最初の楽しい時間です。そこから組み立てていく楽しさもありますし、お客様が恋人を見るような目でステージやショーを見つめ、最後にそれが拍手に変わっていくところが好きですね」
ともかく、観客に楽しんでもらうことが第一。ドラマチックで老若男女の心に響く演出は金谷さんの真骨頂だが、それゆえ盛り過ぎてしまうのが悪い癖だと本人は笑う。
「誰ひとりとして取り残さず、いろいろな人に楽しんでもらいたいという気持ちからそうなってしまうんです」
中学、高校時代には器械体操とダンスに打ち込んだ。卒業後は東京ディズニーランドのオープニングキャストのオーディションに見事合格し、2年間ショーの表舞台で活躍する。海外から来ていた上司に「ショーの演出をやってみないか?」と声をかけられたのが、演出家としてのキャリアのスタートだ。
「子どものころからずっと、絵本が大好きでした。今となっては、美術と想像で出来ている絵本は演出に似ていると感じています」
まだ字が書けなかった幼児期、母親は彼女に対して「つくり話ばかりしている」といっていたそうだ。その後、字が書けるようになると創作した物語を母親は喜んで読んでくれた。
たて笛が好きだった少女にフルートを勧めてくれたのも母親。中学、高校時代にはフルートを習い、夢中になって吹いた。
「私にとって、音楽はエモーション。お客様の感情を引き出すのは音楽だと信じてこの仕事をしています」
音楽の力をあらためて痛感したひとつが、城田優さんとの共同演出作品『TOKYO〜the city of music and love〜』。東京の魅力をショーという形で世界に発信するこの新たなエンターテインメントでは、東京を表現するためにミュージカル楽曲やディズニー、J-POPなど多彩な音楽を登場させた。
「そこから、新たに閃いたこともありますね」
さらに、ふたりでクリエーションするという初めての経験から学ぶことも多かったという。
「細部を見ている城田さんと、割と大きく見ている私。そして、出演もされている城田さんならではの視点もありました。とても楽しい時間でしたし、次の作品をつくる力と自分のなかの財産になりましたね」
世界で活躍する金谷さんには各国に友人がおり、彼らもまた新たな視点を授け、視野を広げてくれる存在だ。
「 “劇場ごと自分の作品”という友人たちがいます。 たとえば、ラスベガスで行われているシルク・ド・ソレイユの『KÀ』。ひとりの演出家のアイディアが、あの壮大な舞台装置を備えた劇場をつくったんです。世界にはそんな人がたくさんいますが、一人目の日本人になるのが憧れです」
40年近くのキャリアを持ちつつも、エンターテインメントへの情熱は尽きることはない。
2024年12月14日(土)から25日(水)にかけては、金谷さんが手がける『ブロードウェイ クリスマス・ワンダーランド2024』が東急シアターオーブで開催される。
2016年の日本初演以来、劇場で楽しむクリスマスとして愛され続け、7回目を迎える今年、金谷さんによる新演出版で届けられる。
クリスマスソングが大好きだという金谷さんにとって念願のショーであり、全身全霊で演出に臨む。出演は、世界で活躍するシンガーやダンサーが集まるグループのアメリカ・カンパニー。11月からアメリカにわたり、彼らとショーをつくり上げてきた。
ゴスペルからポップスまで胸が高鳴るクリスマスソングの数々や、ダンサーたちによる華麗なラインダンスやタップ、舞台上に現れるスケートリンクでのスケートショー……。多彩なアイディアに満ちた圧巻のステージ演出に期待が高まる。全編英語での公演だが、言語にかかわらず没入し、心躍る世界をつくり出せるのが金谷さんだ。
「クリスマスソングって、特別なジャンルだと思うんです。なぜ、こんなにも愛やワクワク感が染み出てくるのか不思議ですよね。ポップスでもクリスマスソングとして有名になったものはずっとクリスマスソングとして愛され続けますし、賛美歌から派生したような曲はキリスト教徒ではない人の心にも響きます。普遍的な人間の清らかな部分に触れてくるところがすごいと思うんです。そうした音楽の楽しさとその音を表現する踊りが見どころです。目と耳で楽しんでいただき、それがお客様の心にギフトとして届くといいなと思っています」
輝きを放ち、感動を引き連れてくる金谷さんの魔法を、この冬ぜひ体感してほしい。
Q.子どものころになりたかった職業は?
A.職業ではありませんが、体操選手のナディア・コマネチになろうと思っていました。テレビで満点を取ったその姿を見たときが、私にとって生まれて初めてやる気が出た瞬間でしたね。地元には体操クラブがなかったので、見よう見まねで宙返りをしながら砂場に飛び込んでいったり、鉄棒をしたり。中学からは器械体操を始め、夢中になりました。今でも憧れの存在で、彼女のインスタグラムもフォローしています。
Q.趣味は?
A.筋トレとポールダンスです。どちらもコロナがまん延していた時期に始めました。最初は何もできなかったのですが、今ではベンチプレスで40㎏上げています。ポールダンスはやっている友人がいたのでトライしてみたところ、体操をやっていたせいか意外と出来たので楽しくなって続けていますね。肉体と精神はつながっているので、気力が落ちることなく常に好奇心が働く人間でいるためにも健康を考えています。
Q.好きな音楽は?
バレエに励んでいた時期もあったせいかチャイコフスキーが好きです。彼の人生と重ね合わせて「この楽しい曲のなかにもこんなに暗い調べがある」とか、「この時代だからこんな音楽が生まれたのか」など見出しながら楽しんでいます。家で聴くのはクラシックが多く、ショパンも好きです。
Q.座右の銘は?
祖父は8段を保持する柔道家で、1964年の東京オリンピックでは審判員を務めていました。そんな自慢の祖父がいつも言っていたのは「どんな小さな山でもてっぺんに登れ」ということ。「裾野からはてっぺんは見えないけれど、てっぺんからはすべてが見える」と。今の私は、まだまだ五合目ぐらい。でも祖父が本当に言いたかったのは、てっぺんはなくて常に上を目指せということだったのかもしれませんね。
日時:2024年12月14日(土)〜12月25日(水)
会場:東急シアターオーブ(東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ11F)
共同演出:金谷かほり
出演:アメリカ・カンパニー
料金(税込):全席指定 S席11,800円 A席7,800円
詳細はこちら
文/ 福田素子
photo/ 宮地たか子(1、6枚目)
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