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今月の音遊人:岡本真夜さん「親や友達に言えない思いも、ピアノに聴いてもらっていました」
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北欧ロックンロールの“王者”グルシファーが22年ぶりの新作『Same Drug New High』で復活
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2026.2.9
1950年代に生まれたロックンロールはさまざまな変化を経てきた。デトロイトのロックやガレージ・パンク、ハードコア・パンク、ヘヴィ・メタルなどの要素を加えて進化しながら、1990年代後半から2000年代初頭にかけて一大ムーヴメントが勃発している。
スウェーデンから世界に打って出たヘラコプターズ、アメリカのポップ・パンク・ブームの代表レーベル“エピタフ”で爆走しまくったジーク、ニルヴァーナ亡き後の“サブ・ポップ”レーベルを支えたスーパーサッカーズ、エロでお下劣な美学のナッシュヴィル・プッシー、オランダの爆走王ピーター・パン・スピードロックなどは日本でもライヴを行うなど、この現象は地球規模のものとなっている。やはり来日経験のあるエレクトリック・フランケンシュタインのサル・カンゾニエリが監修したシリーズ『A Fistful Of Rock’n’Roll』はVol.13までリリースされたが、世界中から200バンド以上を収録。シーンの盛り上がりを集約した(2019年から新シリーズ『A Fistful More of Rock & Roll』も開始)。
興味深いことに、このムーヴメントには名前がなかった。この時期、流行りの音楽には“グランジ”“オルタナティヴ”“ニュー・メタル”といったサブジャンル名が付けられたが、一連のバンドは“ハイ・エナジー・ロックンロール”“爆走系ロックンロール”などいくつかの呼称が試みられながら、結局シンプルな“ロックンロール”で収まっている。もっとも虚飾を排除して突っ走るピュアなサウンドには変なネーミングは不要で、“ロックンロール”の一言で十分だとも言える。
そんなロックンロール・ムーヴメントの震源地のひとつが北欧だった。スウェーデンのヘラコプターズは疾走するロックンロールで世界のファンを魅了、2025年にも来日公演を行うなど、息の長い人気を誇っている。それに加えてスプリット・シングルなどでアンダーグラウンドでのみ知られてきたバンドを表舞台に引っ張り出し、またユニオン・カーバイド・プロダクションズやソニックス・ランデヴー・バンドなど先達からの影響を公言して彼らに新たな脚光を浴びせるなど、シーンに多大な貢献をしている。ギタリストのドレゲンが独立して結成したバックヤード・ベイビーズも人気バンドだし、ハードコア・スーパースターは21世紀に入ってTVシリーズ『ピースメイカー』で使われて再評価された。ピープショウズ、パフボールなど、スウェーデンは爆走先進国だ。
さらにノルウェーからはターボネグロやWEなどがメインストリームに進出。北欧ロックンロールのゴッドファーザーといえるハノイ・ロックスを生んだフィンランドからはフレイミング・サイドバーンズが登場している。デンマークの“バッド・アフロ・レコーズ”からコンピレーション・シリーズ『Pushing Scandinavian Rock To The Man!』がリリースされるなど(Vol.3までが出た)北欧ロックンロールはひとつの潮流として世界を魅了してきた。
そんな北欧ロックンロールで2026年、最大の話題を呼んでいるのがグルシファーのニュー・アルバム『Same Drug New High』だ。
グルシファーは1994年、ノルウェーのオスロで結成。シングル『God’s Chosen Dealer』でデビューしている。北欧とヨーロッパを精力的にツアー、自らの作品と並行してヘラコプターズ、エレクトリック・フランケンシュタイン、マーダー・シティ・デヴィルズら国外の盟友たちとのスプリット・シングルも発表。3作目のアルバム『Tender Is The Savage』(2000)はラモーンズらを手がけたダニエル・レイがプロデュース、日本盤CDも発売されている。(このときのカタカナ表記はグルーシファーだった。)
ビフ・マリブ(ヴォーカル)とキャプテン・プーン(ギター)を音楽性の軸にしてドライヴ感が爆発、キャッチーなメロディと歌えるコーラスで攻めるロックンロールが支持を得て、彼らは“キングズ・オブ・ロック”=“王者”と呼ばれるように。それが根拠のない大言壮語でないことを証明するようにメインストリームに浮上し、4作目のアルバム『Automatic Thrill』(2004)はノルウェーのナショナル・チャートで2位というヒットを記録した。いよいよロックンロールのトップ・スターの座を奪取せんとするところで、バンドは突如解散を発表する。その決断は実際には急なものではなく、ピークにある状態で散りたいと常に考えていたという。
それぞれのメンバーは別のバンドでの活動、ビフはノルウェーで部数3位の新聞Dagens Næringslivの政治記者としてTVコメンテイターなども務めてきたが、グルシファーに向けた情熱が再燃、2017年に再結成を果たすことになった。当初はライヴ活動に専念してきた彼らだが、クリエイティヴな衝動に突き動かされ、2026年1月に約22年ぶりのアルバム『Same Drug New High』が発表されている。
アルバムに先駆けて公開されたシングル『The Idiot』『Armadas』『I’m Ready』を筆頭に、スピード感と歌えるフックのあるロックンロールが全開。当然のようにスローな曲はナシで、全11曲フル・スロットルで駆け抜ける。
世界のロックンロール・ファンが世代を超えて首を振り、拳を突き上げて、一緒に歌うことが出来る本作だが、1990年代から彼らを知るオールド・ファンの想いがこみ上げるのが『1996』だ。初期を彷彿とさせるハイ・エナジーなサウンドに乗せて若く、貧しく、ハングリーで希望に満ちていた時代を描くこのナンバー。ビフ本人によると自分たちの若き日、1994年頃をイメージして書いた歌詞だが、既に『1994』という曲を発表しており、ヘラコプターズも『1995』を発表していることから、消去法で『1996』にしたという。
『Another Night, Another City』もラモーンズやハノイ・ロックスを思わせるパンク・ロックに、一瞬のつもりが一生になっていた……と述懐する一節は、彼らとロックンロールの道を並走してきたファンが目をウルウルさせるだろう。
昔と同じロックンロールと、まるっきり新しいハイ。『Same Drug New High』を引っ提げて、グルシファーは北欧からツアーを開始している。現時点では日本盤リリースの噂もなく、来日の可能性は低いが、いくつものロックンロール・ドリームを実現させてきた彼らゆえ、その日が来ることを信じて、再びアルバムに針を下ろしたい。

発売元:Steamhammer
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文/ 山崎智之
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tagged: 音楽ライターの眼, グルシファー, Gluecifer
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