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高精度でエモーショナルな交響楽的ピアニズム、ロンドンで同時自動演奏/ジョージ・ハリオノ ピアノコンサート
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2024.12.17
高精度でエモーショナルな響きだ。2024年11月16日、東京・銀座のヤマハホールで開かれた「ジョージ・ハリオノ ピアノコンサート」。研ぎ澄まされた持続音と一糸乱れないリズムが、ベートーヴェンやロシアの作品で感情を揺さぶるピアノの交響楽をもたらした。この公演では自動演奏機能付きピアノを使用。ハリオノの生演奏データを英ロンドン会場の同種のピアノに送信し、リアルタイムの自動演奏を実現させた。ハリオノの繊細なタッチやペダル操作が無人で同時再現される日英1人2ライブとなった。
ハリオノは2023年チャイコフスキー国際コンクール第2位の若手英国人ピアニストで、日本でも人気上昇中。開演前、ステージの背景に「ヤマハ・ミュージック・ロンドン」の会場が投影された。日英両会場に同じピアノ(ディスクラビア エンスパイア)を設置し、ハリオノの生演奏をロンドンでアコースティックに自動演奏させる試みだ。
1曲目はベートーヴェン『ピアノ・ソナタ第17番ニ短調「テンペスト」Op.31-2』。属和音から始まる第1楽章冒頭のラルゴの序奏では、柔らかいタッチで幻想的な雰囲気を出す。主部のアレグロでは精巧なリズムと明晰な音色を印象付ける。メリハリのある演奏がこのソナタの静動の対比を描く。的確なペダル操作による澄み切った持続音や滑らかな分散和音も素晴らしい。第2楽章アダージョでは緩やかな音の重なり合いが明瞭に浮かび上がった。
1曲目が終わるとロンドン会場がまた映し出された。「感情が生き生きと伝わってくる」「遅延なく演奏が届いている」とロンドンの来場者たちが感想を述べる。2曲目はロシア国民楽派のグリンカの歌曲をバラキレフが編曲した『ひばり』。美旋律を引き立てる清澄な音色、速い分散和音で聴かせる夢見心地の滑らかな響きが印象深かった。
続くバラキレフの東洋風幻想曲『イスラメイ』では、オクターブの高速奏法の正確さに驚く。速い分散和音での艶やかなスラーは幻想的なイメージを醸し出した。チャイコフスキーの『ドゥムカ―ロシアの農村風景 ハ短調Op.59』とストラヴィンスキー(アゴスティ編曲)の組曲『火の鳥』では、音価や音高の自在な管理がさらにシンフォニックな劇的効果を上げた。最強音でやや響きが混濁する感もあったが、新鮮な交響楽的ピアニズムだ。全プログラムを通じて消音の美しさも際立つ。最後はスタンディングオベーション。
アンコールはブラームス『6つの小品Op.118』から第2曲「間奏曲イ長調」。持続音と和声の繊細な運びは一段と研ぎ澄まされ、静謐な小品の交響楽的美しさを浮き彫りにした。極めつけはグリーグの『ペールギュント第1組曲』から4曲目「山の魔王の宮殿にて」。超高速のオクターブ奏法はまさに魔王の超絶技巧。ハリオノのような秀演が世界各地で同時自動演奏されるようになれば、ピアノコンサートは新たなグローバル時代に入るだろう。
池上輝彦〔いけがみ・てるひこ〕
音楽ジャーナリスト。日本経済新聞社シニアメディアプロデューサー。早稲田大学卒。証券部・産業部記者を経て欧州総局フランクフルト支局長、文化部編集委員、映像報道部シニア・エディターを歴任。音楽レビュー、映像付き音楽連載記事「ビジュアル音楽堂」などを執筆。クラシック音楽専門誌での批評、CDライナーノーツ、公演プログラムノートの執筆も手掛ける。
日本経済新聞社記者紹介
文/ 池上輝彦
photo/ Ayumi Kakamu
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tagged: ヤマハホール, 音楽ライターの眼, ジョージ・ハリオノ
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