今月の音遊人
今月の音遊人:塩谷哲さん 「僕の作る音楽が“ポップ”なのは、二人の天才音楽家の影響かもしれませんね」
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今月の音遊人:林英哲さん「感情までを揺り動かす太鼓の力は、民族や国が違っても通じるものなんです」
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2023.1.5
それまでの伝統には無かった太鼓演奏の技法を開拓し、力強い生命力が伝わる新しい太鼓音楽を創出して世界的にも高く評価されている林英哲さん。今もなお進化を続けるその音楽に対する想いを伺いました。
その時期や年代で違うので、これが一番というのは言いにくいのですが、ここ数年の活動が制限された期間中にYouTubeにあったビートルズ曲をカラオケで歌ってみたらほぼ歌えた。ビートルズは僕が中学生の時に接したので、一番多感な時期に聴いていたというか、人生で最初に自分で意図して聴いたのは、やはりビートルズだと思います。
中学一年生の時に借りたシングル盤の『シー・ラブズ・ユー』にはまったんです。「ビートルズ」だと知らずに聴いて“これ何だろう”って。だから、まず音だけで気に入ったんです。たぶん世界中のティーンエイジャーが同じような感じでビートルズを知ったんだと思います。音楽の魅力ってすごいですよね。
『シー・ラブズ・ユー』は、ドラムの短いフレーズからいきなり歌い出すイントロがとても良かったし、他の曲も、ちょっと変拍子が入っていたり、アレンジが変わっていたりするのも新鮮でしたね。
1982年にソロ奏者として活動を始めた時に、経験を積むためにどんなジャンルの人とも一緒にやろうと思ったんですが、そういう時にも「ビートルズ」をお互いの共通項として話を進めることができた。そんな点でも助けられました。
目覚まし時計が鳴れば起きるし、ドアのチャイムが鳴れば出る、というふうに音には行動を促す力があると思います。絵を見て走り出すようなことはないけれど、音は物理的に行動を起こすきっかけになる。そういうおもしろさがあるんです。
サッカーには『ユール・ネヴァー・ウォーク・アローン』という有名な応援歌があって、もともと『回転木馬』というミュージカルのために作られた曲で、決して歌いやすくはないと思うんですけど、ヨーロッパのスタジアムで何万人が大合唱しているのを見ると感動しますし、それも音楽の力なのかもしれません。
自分の体験で言えば、国籍や人種とは関係なく、僕の演奏に涙を流して聴いてくださる方がいるんです。また、心身の問題を抱えている方からは「演奏を聴いてなんだか治ったような気がする」とよく言われました。だから、音楽の効能として人間を前向きにさせる力があると感じます。
歌詞やメロディーがある音楽は、受け取る側によっては伝わりにくい場合もあるかもしれません。例えば、僕たちがいきなり中東の言葉の音楽を耳にして涙が出るかというと、聴き慣れていないと難しいですよね。でも、太鼓の音楽にはもっと直接的な、空気振動が感情までを揺り動かす力があって、それは民族や国が違っても通じるものなんです。実際に、数年前に中東で公演をした時には涙を流している方がいましたから、太鼓の音には人間の根源的な部分に触れる力があるのかなという気がしています。ですから僕にとって音楽は、人の心に届くように演奏するもの。だからこそおろそかにできないんです。
音楽を仕事にしてしまったせいか、音で遊ぶという感覚が残念ながら無いんです。僕の場合は太鼓の始め方が特殊で、楽しいことを始めようという導入部が無かったのと、今までとは違う演奏スタイルなので肉体的に本当にしんどい、ということもあるからでしょうね。
では「音で遊ぶ」って何かなと考えると、テレビで観る「街角ピアノ」を思い浮かべます。アマチュアの人は、なぜあんなにも楽しそうに楽器を演奏するんだろう、うらやましいなと思います。でも、振り返ってみると、自分が中学生の時にビートルズの『シー・ラブズ・ユー』にはまって、ドラムの練習をしよう!とスティックと教則本を買って段ボール箱を叩き始めたころは“楽しいことをやりたい”という感覚が確かにありました。ですから、仕事としての太鼓とは別に、趣味としてまたドラムや他の楽器をやってみたら楽しめるかもしれませんね。
林英哲〔はやし・えいてつ〕
1952年2月2日生まれ。広島県出身。「佐渡・鬼太鼓座」「鼓童」の創設に関わり、同座のトッププレイヤーとして数多くの世界ツアーをこなす一方で、主なレパートリー曲を作編曲。11年間のグループ活動の後、82年にソロ活動を開始。以後、太鼓独奏者として日本の伝統には無かった大太鼓ソロ奏法の創造、多種多様な太鼓群を用いた独自奏法の創作など、前例の無い太鼓ソリストという分野を開拓。世界に向けて日本から発信する新しい音楽としてのオリジナルな太鼓表現を築き上げ、国境・ジャンルを越えて今なお新たな創作活動に取り組み、国内外で広く活躍中。
オフィシャルサイト
文/ 前田祥丈
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