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英国スペース・ロックの君主ホークウィンドが新作『ソムニア(夢)』を発表
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2021.11.4
スペース・ロックの覇者として半世紀以上のあいだ君臨してきたホークウィンドが2021年、ニュー・アルバム『ソムニア(夢)』を発表した。
1960年代末、スウィンギング・ロンドンのヒッピー・シーンから登場、1970年代のプログレッシヴ・ロックやハード・ロック/ヘヴィ・メタルのファンからも支持され、1990年代にはトランス/レイヴのリスナー層から再評価を得てきた。現在イギリスでは自らがヘッドライナーを務める夏のイベント“ホークフェスト”も開催されるなど、世代を超えた人気を誇っている。日本でも彼らは伝説的なバンドとして信奉されており、2011年4月に初の日本上陸が発表されるも東日本大震災の影響で中止に。2015年4月に遂に初来日公演が実現、ファンを喜ばせた。
『ソムニア(夢)』はレコード会社の資料によると“オリジナル・スタジオ・アルバムとしては34作目”とされている。デビュー作『ホークウィンド』(1970)から『宇宙の探求』(1971)、『絶体絶命』(1975)などの名盤、元クリームのジンジャー・ベイカーが参加した『宇宙遊泳』(1980)、アシッド/トランス感溢れる『It Is The Business Of The Future To Be Dangerous』(1993)など多くの名盤アルバムを発表してきた彼らゆえ、34作目というのは少なすぎる?……とも思われるのだが、新曲半分&セルフ・カヴァー半分のアルバムやライヴ作品も多く、バンドの不動のリーダーであるデイヴ・ブロックも”公式アルバム”と”コンピレーション”について「正直、自分の中で両者を区別していない」と語っており、正確な数字は不明である。
エリック・クラプトンのゲスト参加が話題を呼んだ『ロード・トゥ・ユートピア』(2018/バンド史上最悪のジャケット・アートともいわれる)、硬派のスペース・ロックとアコースティックの二段構えの『オール・アボード・ザ・スカイラーク』(2019)、ホークウィンド・ライト・オーケストラ名義の『カーニヴォラス』(2020)など、近年もコンスタントに高品質の作品を発表し続けてきた彼らの最新作である『ソムニア(夢)』もまた、世界中のファンの期待に応える作品だ。
執拗に反復されるリフとギターのフィードバック、シンセのスペーシーなエフェクトがせめぎ合う『ストレンジ・エンカウンターズ』、夢見心地のレイドバックした『アルキオネ』、“スペース・レゲエ”とでも呼ぶべき?『羊を数えて』など、それぞれの曲が異なった個性を放っており、それでいてホークウィンド以外にはあり得ないアイデンティティを持っている。かなり緩く“ソムニア=睡眠”をテーマとする本作だが、その軸を成す『イッツ・オンリー・ア・ドリーム』〜『メディテイション』〜『スウィート・ドリームス』の3連曲は、まるでこのアルバム自体が夢の一部であり、パッと目が覚めたら存在しなくなるのではないかと思えるほどだ。
本作のレコーディングはデイヴ・ブロック(ヴォーカル、ギター、ベース、キーボード)、リチャード・チャドウィック(ドラムス、パーカッション)、マグナス・マ−ティン(ヴォーカル、ギター、ベース、キーボード)という、ロック・バンドとしては最小限のトリオ編成で行われた。壮大な外宇宙よりも、どこまでもインナー・スペースを掘り下げていく、“もうひとつの”スペース・ロックを表現したのが本作だといえる。1970年代の“黄金時代”があってこそバンドが神格化されていることは確かであるものの、初めてホークウィンドに触れたリスナーにも十分以上に魅力が伝わる作品だろう。本作を入口にしてバンドの豊潤な宇宙にハマっていくリスナーも少なからずいそうだ。
ホークウィンドに在籍してきたメンバーや作品数は膨大なもので、熱心なファンであってもその情報量をフォローするのは困難だ。それゆえに、2021年だけでも数々の詳細な資料本が刊行されている。Dave Thompson著『Encyclopaedia Hawkwindia』はアルファベット順に人名やトピックを列記したまさに“ホークウィンド百科全書”で、好きなところからペラペラ読むことが出来る。Joe Banks著の『Days Of The Underground: Radical Escapism In The Age Of Paranoia』はメンバー達の異なる視点や時代背景を交えながら、1980年までの軌跡をフォローしている。Duncan Harris著『On Track… Every Album, Every Song』は“全曲解説”本で、さまざまな資料本や雑誌などから丁寧にピックアップしたものだ。さらに2021年10月にはMartin Popoff著『A Visual Biography』が刊行される。これはタイトル通り、テキストとレアな写真やレコード・ジャケット、ポスター、雑誌広告などヴィジュアルを交えている。4冊それぞれ異なった視点からバンドに光を当てており、ぜひ全部押さえておきたい。
さらにファーストから『ソムニア(夢)』まで50年の歴史から全81曲をピックアップしたCD6枚組アンソロジー『Dust Of Time 1969-2021』も発売される。『シルヴァー・マシーン』『ブレインストーム』などの名曲から最新作の『ストレンジ・エンカウンターズ』まで、そのキャリアを一望出来るのが嬉しい。
どこまでもディープなホークウィンドの宇宙、今からでも遅くない。シルヴァー・マシーンに乗って旅立とうではないか。
アルバム『ソムニア(夢)』
発売元:BELLE ANTIQUE
発売日:2021年9月25日
価格:2,970円(税込)
詳細はこちら
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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tagged: アルバム, 音楽ライターの眼, ホークウィンド, ソムニア
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