ジミ・ヘンドリックス“新作”『ボース・サイズ・オブ・ザ・スカイ』をエクスペリエンスせよ

  • ALL
  • ニュース
  • レビュー
  • レッスン
  • プレイ
  • 楽器・オーディオ
  • アーティスト
  • 会員限定企画
ジミ・ヘンドリックス
音楽ライターの眼
ジミ・ヘンドリックス“新作”『ボース・サイズ・オブ・ザ・スカイ』をエクスペリエンスせよ
2018.3.22
1543 views

ジミ・ヘンドリックスの“ニュー・アルバム”『ボース・サイズ・オブ・ザ・スカイ』が2018年3月に発表された。

1970年9月18日に27歳で亡くなったジミだが、生前に膨大な音源を残してきた。彼が信頼を置いていたエンジニア/プロデューサーのエディ・クレイマーは「ジミは少しでも時間があればスタジオで実験をしていた」と語っているが、ジョン・マクダーモット著『ジミ・ヘンドリックス/レコーディング・セッション1963-1970』に記された日ごとのスタジオ作業を見ると、ツアー中であってもロンドンのオリンピック・スタジオやニューヨークのレコード・プラントなどでレコーディングを行ってきた。1970年には自分が使うためにエレクトリック・レディ・スタジオを建てたものの、数週間しか使わずに亡くなってしまった。もし彼が生き続けていたらこのスタジオでどんな音楽が生まれていたのだろうと、猛烈なファンタジーをかき立てられる。

これまでジミの遺した音源はさまざまな形でリリースされてきたが、現在では遺族が設立した「エクスペリエンス・ヘンドリックス」が管理。マクダーモットやクレイマーの監修下で、系統立った発掘作業が行われている。1997年には生前のジミの発言やメモから、彼が構想していた“4作目のアルバム”を可能な限り忠実に再現した『ファースト・レイズ・オブ・ザ・ニュー・ライジング・サン』が発表された。

そして『ヴァリーズ・オブ・ネプチューン』(2010)、『ピープル、ヘル・アンド・エンジェルズ』(2013)に続くスタジオ未発表音源集“三部作”の最終章としてリリースされたのが”『ボース・サイズ・オブ・ザ・スカイ』である。

1968年から1970年、ニューヨークのレコード・プラントでの未発表スタジオ音源を中心とした本作。唯一ロンドンのオリンピック・スタジオでの曲はインストゥルメンタル「スウィート・エンジェル」だ。ジミの死後「エンジェル」として発表されることになる曲の初期テイクで、あえて“レコード・プラント縛り”ルールを破ってまで収録したのも納得の極上ギター・プレイを聴くことができる。

本作にはジミのスタジオでの試行錯誤の軌跡が収められているが、ダラダラしたジャムはなく、全13曲と、きっちり完成されたテイクが並んでいる。マディ・ウォーターズの「アイム・ア・マン」、ギター・スリムの「シングス・アイ・ユースド・トゥ・ドゥ」(ジョニー・ウィンターとの共演!)などブルース・カヴァーも無駄のないソリッドな演奏だ。実際にはかなりラフなジャム音源も存在するそうだが、エディ・クレイマーは「延々と続く即興ジャムでなく、曲として楽しめるものを入れた」と語っている。

スティーヴン・スティルスが参加した「20ドル・ファイン」と「ウッドストック」も本作のハイライトだ。スティーヴンはジミの親しい友人であり、ミュージシャンとして尊敬しあう間柄で、ニューヨークでスケジュールが合うと“シーン・クラブ”で共演して、レコード・プラントでセッションを行っていたという。「ウッドストック」はジョニ・ミッチェルの書いた曲で、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングが『デジャ・ヴ』に収録する以前のヴァージョンだ。

なんと“三部作”すべてに「ヒア・マイ・トレイン・ア・カミン」が収録されているのも興味深い。いずれも1969年4月あるいは5月に録音されたものだが、それぞれアレンジやフィーリングがかなり異なっており、比べて聴くことで、この曲の魅力をさらに多角的にエクスペリエンスできる。

本作の最後の2曲「センド・マイ・ラヴ・トゥ・リンダ」「チェロキー・ミスト」はどちらも未完成だった曲だ。クレイマーは「あと1年もあれば、まったく異なった進化を遂げていただろう」と語るが、さまざまな可能性に想いを馳せ、余韻を残しながら幕を下ろすのが『ボース・サイズ・オブ・ザ・スカイ』をさらに魅力的にしている。

クレイマーによると、ジミのスタジオ未発表音源アルバムはひとまず“打ち止め” だという。これまで数多くのレア音源を集めたアルバムが発表され、また『ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス~アンリリースト&レア・マスターズ plus』や『ウェスト・コースト・シアトル・ボーイ』といったボックス・セットにも初登場トラックが多数収録されてきたので、さすがに仕方ないだろうか。

だがクレイマーによると、「世界がお祭りになるようなすごい未発表ライヴ」がいくつも発表されることになるという。詳細はまだ明かされていないが、これまで歴史的音楽をいくつも発掘してきたクレイマーゆえ、そうとうな出来映えのものが期待できそうだ。

その死から48年、未だ新しいジミをエクスペリエンスできる我々は果報者である。

■アルバムインフォメーション

『ボース・サイズ・オブ・ザ・スカイ』
ボース・サイズ・オブ・ザ・スカイ
発売元:ソニー・ミュージックエンタテインメント
発売日:2018年3月14日
料金:2,400円(税抜)
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に850以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

 

ヤマハ 音遊人(みゅーじん)Facebook
Web音遊人の更新情報などをお知らせします。ぜひ「いいね!」をお願いします!
ヤマハ 音遊人(みゅーじん)Facebook

文/ 山崎智之