今月の音遊人
今月の音遊人:藤田真央さん「底辺にある和音の上に内声が乗り、そこにポーンとひとつの音を出す。その響きの融合が理想の音です」
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ベストな演奏をするために、基本的なからだの使い方を徹底分析/『音楽家ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと アレクサンダー・テクニークとボディ・マッピング』
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2018.6.15
tagged: ブックレビュー
きちんと練習しているのに、思ったようにパフォーマンスが向上しない。肩、ひじ、手首などからだが痛い。本番になると緊張してしまい、いつものように演奏ができない……。そんな悩みを抱える音楽家は少なくないのではないだろうか。
もしかしたら、それは“からだの使い方の癖”に原因があるのかもしれない。その癖が不要な緊張を生み、ストレスや痛み、疲労などをつくり出している可能性があるのだ。つまり、自分で自分の邪魔をしているわけだ。ところが、やっかいなことに癖は無意識のうちに行ってしまうもので、自分ではなかなか気づきにくい。では、どうすればいいのだろう。 その答えを導いてくれる一冊が『音楽家ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと―アレクサンダー・テクニークとボディ・マッピング』。音楽家がからだの動きを正確に知り、コンディションを整えるための6時間コースの講座をテキスト化したものだ。
本書で紹介されているアレクサンダー・テクニークとは、自分の邪魔をしている不必要な緊張に気づき、これをやめていくことを学習する方法。19世紀のオーストラリア人俳優、F.M.アレクサンダーが発見したものだ。あるとき、舞台の上で声がかすれ、出なくなってしまったアレクサンダーは、その原因は喉などの構造ではなく、使い方にあるのではないかと考えた。そこで、鏡の前に立ち、声を出そうとするときに自分がやっていることを観察。すると、声を出そうとする瞬間に首の後ろを縮めるという自分の癖に気づいたという。反対に首の力を緩めると、声が楽に出る。そして、首の緊張がなければ、頭が脊髄にかけるプレッシャーが減り、頭と首と脊髄の関係がよくなれば、からだ全体がよくなることに気付いたのだ。
このメソッドはその後世界中に広まったが、アレクサンダー・テクニーク教師として長い経験をもつ著者は、ボディ・マッピングによりこの学習がさらに効率が良くなることを発見した。ボディ・マッピングとは、自分の頭で認識している自分の肉体の配置図と現実とのズレを解消し、効率的でスムーズな動作を身につけること。これらふたつのメソッドにより、さらなる学習の成果を望むことができる。 本書では、頭、首、脊椎、胴体、脚、腕、手などの基本構造や正しい状態、使い方などを紹介。ふだん何気なくからだを動かしている多くの人にとっては、目からウロコが落ちるような内容だろう。さらに、呼吸法や運動と脳との関係、演奏に適した姿勢などを習得し、自分の癖によって生まれる負荷を取り去っていく。その結果、生来からだが持っている能力を自分自身が邪魔することなく発揮できるようになるというわけだ。
教則本や医学書のような専門用語ではなく、平易な言葉とイラストで説明することで、誰でもすぐに実践できる構成。音楽家などの表現者はもちろん、さまざまな職業の人にも役立ちそうな一冊だ。
『音楽家ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと アレクサンダー・テクニークとボディ・マッピング 』
著者:バーバラ・コナブル
本文イラスト:ベンジャミン・コナブル
訳:片桐ユズル+小野ひとみ
発売元:誠信書房
発売日:2000年10月20日(2008年1月15日第14刷発行)
価格:2,000円(税抜)