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ジューダス・プリースト、新作『インヴィンシブル・シールド』を発表。「“盾”は攻撃の手段」
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2024.3.21
tagged: 音楽ライターの眼, ジューダス・プリースト, インヴィンシブル・シールド
『インヴィンシブル・シールド』はジューダス・プリースト流ヘヴィ・メタルを結晶化させたアルバムである。
1974年にアルバム『ロッカ・ローラ』でデビュー。「俺たちは工業都市のバーミンガム出身。金属が粉末になって空気中を舞っていて、それを呼吸して育ってきたから血中をメタルが流れている」とヴォーカリストのロブ・ハルフォードが語るとおり、ヘヴィ・メタルを全身で体現するバンドとして50年間突き進んできた。『ブリティッシュ・スティール』(1980)『復讐の叫び Screaming For Vengeance』(1982)『ペインキラー』(1990)などの名盤を生み出した彼らだが、『インヴィンシブル・シールド』はそれを聴き込んできた熱心な信者も、本作で初めて彼らの音楽に触れる新しい世代の音楽リスナーをも魅了する、ギター・リフとスクリーム、重低音リズムで襲撃する。
『パニック・アタック』『ザ・サーペント・アンド・ザ・キング』『インヴィンシブル・シールド』と、力尽くで首を振らせるスピード・ナンバー3連打で突入。緩急を付けてテンポを落とすことがあっても、痒いところを掻いて掻いて、鋼鉄の血が噴き出すまで掻きむしる。
もちろんロブ・ハルフォードのヴォーカル、グレン・ティプトンのギター、イアン・ヒルのベースなど、初期からバンドを支えてきた要素が貫かれている(グレンは闘病中だが作曲面で関わっており、ギターでも限定参加している)こともあるが、バンドの音楽性を客観視できる“外部の目”があることも貢献しているだろう。2011年からギタリストとして参加しているリッチー・フォークナーはギターを始めたころからプリーストの曲をコピー、カヴァー・バンドもやっていたという筋金入りのファンで、プリーストかくあるべしという確たるヴィジョンを持っている。それはプロデューサーのアンディ・スニープも同様だ。
ロブは海外インタビューで「そうじゃない!って何度も尻を叩かれた」と語っている。
最近ではプロデューサーがベテラン・アーティストの持ち味を引き出すケースも多く、アンドリュー・ワットがオジー・オズボーン、イギー・ポップ、ザ・ローリング・ストーンズを手がけて、“いかにもの”オジー節・イギー節・ストーンズ節を聴かせていた。本作も同様で、あえて策を弄することなく、“メタル・ゴッズ”ならではの盤石のヘヴィ・メタルに焦点を絞っている。
(この“メタル・ゴッズ”という表現は『ブリティッシュ・スティール』収録曲から取ったものだが、ロボットが意志を持って反逆を起こし、レーザー光線で人間を殺しまくって“鋼鉄神”となる歌詞。映画『ターミネーター』(1984)やAIシンギュラリティを先取りしたともいわれる)
『死の国の彼方に Beyond the Realms of Death』に代表される叙情系ナンバーはないし、『ユナイテッド』『テイク・オン・ザ・ワールド』のようなファンの連帯を歌い上げる曲もない。もちろんこれといった新機軸もない。だが、それは守りの姿勢ではない。ロブは『インヴィンシブル・シールド』というタイトルについて「“シールド=盾”は防御だけではない。敵陣に向かって押し込んでいく攻撃の手段でもあるんだ」と主張しているが、本作の音楽性を象徴したものだといえる。
『インヴィンシブル・シールド』は全11曲のスタンダード・エディションに加え、3曲のボーナス・トラックを加えたデラックス・エディションも発売される。3曲いずれも良いのでデラックスがオススメだが、注目なのはボブ・ハリガンJrが書いた『ザ・ロジャー』だろう。1980年代に『運命の鎖 (Take These) Chains』『叛旗の下に Some Heads Are Gonna Roll』を提供した外部ソングライターの彼だが、今回の曲はマリー・ベロック=ローンズの小説『下宿人』(1911)をモチーフにしたもの(と思われる)。1927年にアルフレッド・ヒッチコックが映画化もしているこの物語は霧のロンドンで謎の下宿人が連続殺人鬼・切り裂きジャックではないか?……と思わせるもので、プリーストの初期の代表曲のひとつ『切り裂きジャック The Ripper』へのアンサー・ソングと解釈することも可能だ。
ヘヴィ・メタル界のトップ・バンドとして君臨してきたジューダス・プリーストだが、“重鎮”らしからぬフットワークの軽さも持ち備えている。1992年、カリフォルニア州コスタメサでのオジー・オズボーンの“引退コンサート”でブラック・サバスがオープニングを務めたとき、当時ヴォーカリストだったロニー・ジェイムズ・ディオが「オジーの前座なんかやれるか」と脱退したため、急遽ロブが代役を務めたこともあった(ただし彼は当時プリーストを脱退していた)。また2019年、“DOWNLOAD JAPAN”フェスのヘッドライナーとして出演予定だったオジーがキャンセルした際にはプリーストが代打出演している。2023年、カリフォルニアの“ポワー・トリップ”フェスでもオジーがキャンセル、代打を務めたのは記憶に新しい。バーミンガムの同郷で頼みやすいのかもしれないが、全部ブラック・サバスあるいはオジー絡みというのが興味深い。
ヘヴィ・メタルの頂点に就きながら、1980年の“モンスターズ・オブ・ロック”フェスや1983年の“USフェスティバル”など、歴史のターニングポイントにおいては意外と?ヘッドライナーになっていないプリースト。だがヘヴィ・メタル・ファンにとって、彼らは永遠の魂のヘッドライナーなのである。
発売元:ソニーミュージック・ジャパン
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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