今月の音遊人
今月の音遊人:松井秀太郎さん「言葉にできない感情や想いがあっても、音楽が関わることで向き合える」
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映像を音で彩り、オーディエンスの心を大きく動かす劇伴音楽。心に残るシーンを音楽とともに記憶している人も多いのではないだろうか。
こうした映像のための音楽は、どのようにつくり出されているのか。アニメを中心に数々のヒット作を手がける劇伴音楽作家の加藤達也さんに伺った。
「劇伴音楽の目的は、音楽そのものが輝くのではなく、映像や舞台などを音楽の演出によって輝かせること。音楽を付けることで、観る方たちの感情を何倍も揺さぶることができるのが醍醐味です」
そう話す加藤さんは、テレビアニメや映画作品に引っ張りだこ。ひと口に劇伴音楽といっても、作品によって求められる音楽はまったく異なるため、毎回が新たなチャレンジだという。
「たとえば僕がアーティストとして音楽活動をしていたら、たぶん発注される仕事は限定されたジャンルだと思います。でも、劇伴作家は基本的には何でもできないといけないので、カメレオンのような存在。とはいえ、ただ求められたものを作ればいい仕事だったら、これほど長続きしていないと思います。そのときどきの自分自身のカラーを投影しつつ、作品に寄り添うことを意識していますね。それはこの仕事の特徴でもあり、楽しみでもあります」
では、実際に劇伴音楽の制作はどのように進められるのだろう。
テレビと映画では、その制作過程は異なるという。ケースバイケースだが、テレビの場合は基本的に映像がまだ出来上がっていない段階で作曲。監督や音響監督が曲のイメージを指定した「音楽メニュー表」を作成し、打ち合わせで具体的に詰めていくケースが多い。
「音楽的なジャンル、使ってほしい楽器などを細かく指定する現場もありますし、イメージやキーワードだけをいただいてそこから着想してつくることもたくさんあります」
テレビシリーズなら、1クールで40~50曲。映像がないにもかかわらず、これをまとめて作曲・納品する。音響監督がそこから選曲し、シーンに振り当てていくのが一般的なプロセスだ。
「曲の数だけメニューがあるのですが、そこに書いてある通りに作曲すればいいかといえばそうでもないんです。別のシーンで使われることも往々にしてあるので、汎用性が高い楽曲をつくったり、逆にスペシャリティなものをつくったり。ときにはメニュー表から逸脱した楽曲をつくることで、全体のバランスが取れたり抑揚ができたりするので、そういった対応力も必要になります」
一方、映画の場合は、映像に合わせて作曲する「フィルム・スコアリング」という工程で進められる。ストライクゾーンが狭いため、そこに命中させる難しさはあるものの、役者の芝居やキャラクターの表情に寄り添って音楽をつくることができる。
「いずれにしても、僕の場合はメロディーが天から下りてくることはないので(笑)、鍵盤に向き合うプロセスは必ず必要です。ある程度向き合ったらアウトプットして、仕事場ではなくて自宅で聴いたり、自分で口ずさんだり。生活のなかでちょっと別の視点で考えるようにしています」
納品後は、映像にセリフや効果音、劇伴音楽を合わせ込むダビングという作業に移る。加藤さんはこのダビングの作業にも同席。作品により合った音楽の使い方を提案するなど、ブラッシュアップの場になるという。
2018年11月には加藤さんが劇伴音楽を担当したTVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』発のアイドルグループによる東京ドーム公演が実現、11万人の観衆の前で、加藤さんはフルオーケストラの指揮者を務めた。「劇伴音楽は決して作品の主役になるものではないのですが、そういったものがフォーカスされて楽しんでもらえるのは嬉しいことです」
幼少時からエレクトーンを習っていた加藤さんは、中学生のときには打ち込みで作曲を開始。その後は、DTMでヴォーカル曲をつくるようになった。高校時代はバンド活動などもしていたが、テニス部の部活がメインで音楽の道に進もうという思いはあまりなかった。
「高校3年生で部活を引退し、燃え尽き症候群に。そんなとき母親がいろいろな大学の資料を集めてきたのですが、そのなかで興味があったのが東京音楽大学でした。いろいろな人との出会いに助けられて、運よく入れました。ただ、大学時代もとくに劇伴音楽を中心にやろうという気持ちはまだなかったですね」
劇伴音楽に携わるようになったのは、大学卒業後に同大学教授の三枝成彰さんの事務所から声がかかったのがきっかけだ。三枝さんの事務所でさまざまな現場を踏むなか、導かれるように劇伴音楽の世界へ。「ひとつのターニングポイントとなった」と自身が語るTVアニメ『境界線上のホライゾン』や劇伴音楽としては革新的なポップな世界観を紡いだTVアニメ『Free!』、前述の『ラブライブ!サンシャイン!!』など数多くの劇伴音楽を世に送り出してきた。そして、それらには「コンセプトに沿いつつも、自分の感覚や琴線に触れるものだけをつくりたい」という強い思いが貫かれている。
「これから挑戦したいのは海外進出。アニメは、海外とのリレーションが高いコンテンツだと思うんです。2019年は初の海外でのレコーディングも予定しています。それと実写コンテンツの音楽。あとはコンサートを含め、普段は裏方の仕事である劇伴の世界をもっとオープンに発信する機会を増やしていきたいです」
Q.今の仕事に就いていなかったらどんな仕事を?
A.ディズニーランドのアトラクションを考える人になりたかったです。映画やキャラクターの世界観をライドやショーで表現する。すごい夢があることですよね。いつかアトラクションの音楽に携われたらいいですね。
Q.子どもの頃はどんな仕事をしたいと思っていましたか?
A.漫画家になりたくて、絵を書いていました。でも昔から多趣味で、スポーツも好きだったのでスポーツ関連の仕事とか、ギタリストとか……いろいろです。
Q.好きな音楽を教えてください。
A.アイスランドのミュージシャン、ビョークやシガー・ロスは大学時代からよく聴いています。オーストラリアやイギリスのロックなど、僕はどうも島国の音楽が好きらしいです。でもジャンルレスで、テイラー・スウィフトやサカナクションなどチャートにのるようなポップスも好き。オーケストラのコンサートに行ったりもします。
Q.最近行ったライブは?
A.最近休みが全然なくて、行けていないのですが……映画『モテキ』の挿入歌なども担当し、現在は活動を休止してしまっている「N’夙川BOYS」のライブが良かった。代官山の小さなライブハウスで、最初は一番後ろでひっそり観ていたのですが、気が付いたら最前列でヴォーカルのダイブを受け止めていました(笑)。
Q.好きな劇伴作品はありますか?
A.学生のときからジョン・ウィリアムズの作品が好きでした。とくに最近感銘を受けたのはスティーヴン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス出演の映画『ターミナル』の劇伴音楽です。ジョン・ウィリアムズの音楽というと、金管楽器が高なる華やかなイメージがあるのですが、この映画はジャズのオーケストラがとても美しいんです。サウンドトラックもよく聴いていますね。
Q.お休みの日はどんなことをして過ごしていますか?
A.最近は時間がなくてできないのですが、もし休みが取れたらビーチリゾートでゆっくりしたいですね。
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●TVアニメ『Free-Dive to the Future-』オリジナルサウンドトラック Deep Blue Harmony
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応募締切:2019年2月24日(日)23:59
当選発表:CDの発送をもって代えさせていただきますので、予めご了承ください。