Web音遊人(みゅーじん)

ショパンコンクール - Web音遊人

ヤマハピアノを輝かせるため、チーム一丸で全力を尽くした「ショパンコンクール」

2013年春、ヤマハのポーランド支店長としてウィーンからワルシャワに移った田所武寛氏は、ワルシャワの街を車で走りながら、ウィーンのラジオのクラシック音楽番組から流れる華やかなワルツを聴き、「この街並にこの音楽は似合わない……」と感じていた。ショパンの『マズルカ』のCDをかけると、どこかもの悲し気な雰囲気の街並に、それはピタリとはまった。

5年に1回、ワルシャワの国立フィルハーモニーホールで開催されるショパン国際ピアノコンクール。ポーランド支店にやってきた田所氏にとって、ヤマハとして1985年から築いてきた素地が土台にあるコンクールは重要な業務の一つだった。
大きな役割のひとつが情報収集。「ショパン演奏に必要な楽器の特性」といった、ショパン生誕の地だからこそ得られる情報を求め、動いた。「ショパン弾き、イコール審査員。だから、現地のピアニストからショパン演奏に必要な音作りの情報を得ることは、コンクールで弾かれるピアノの調整にも役立つことになる」と考え、審査員でもあるピアニストのコンサートには何度も足を運んだ。

ショパンコンクール - Web音遊人

元ポーランド支店長 田所武寛氏

ショパンに特化した楽器の特性とは何か。一例はシフトペダルだという。「ショパンの演奏では、シフトペダルを踏んだ瞬間に音色が変化し過ぎないことが求められるとわかりました。静かに歌う演奏表現のなかでシフトペダルが効き過ぎると、音がたたなくなってしまう。こうした情報を技術チームと共有しました」
ピアノは生き物。数値化できない微妙なニュアンスをピアノの調整に活かすには、ポーランドに住み、街に漂う空気感と文化の香りを肌で感じながら、生きた情報を得ることがとても大事だ。「ポーランドで聴くショパンは、日本で聴いていたショパンとは印象が違っていました」

一方、ポーランドのショパン協会との関係づくりにも力を入れた。協会主催のイベントをサポートするなど、地道な活動を通じて「ショパンコンクールの成功に貢献したい」という思いを表わし、信頼を得た。そして今回、ヤマハはポーランド・ショパン協会でピアノメーカーとして初となる、公式パートナーとなった。
また、ホールスタッフとの関係構築も欠かせない。コンクール以外のピアノフェスティバルにもピアノを提供し、国立フィルハーモニーホールにたびたび足を運ぶうちに、スタッフたちと気軽に挨拶を交わせる関係に。すると、コンクールでのピアノの調整などもスムーズに行うことができた。同時にホールの音響特性なども事前に把握できたのは大きな収穫だった。

ショパンコンクール - Web音遊人

ポーランド支店スタッフ(2015年10月当時)

2015年10月3日、ショパンコンクールが幕を開ける。ヤマハが投入したのはコンクールのために選定され、ショパンに特化した弾き込みと調整をしたフルコンサートグランドピアノ「CFX」。予備予選からも好評だったCFXが、一次予選前の選定終了時点で最も多く選ばれていると協会のオフィシャルサイトで報じられると、世界が騒然となった。
「これだけ世界が見ているのかと、その反響の大きさに驚きました。そして、技術チームとも一丸となって、我々ができることは全部やろうと、ギアをフルモードにしたのです」

元々準備していた練習室のみでは足りず、急遽ポーランド支店の一室を練習室に変えてコンテスタントたちに提供した。昼夜を問わず、休日返上でコンテスタントたちの希望に応じる。ステージ上のCFXの調整も、与えられた時間に何ができるか、いかに効率よく最高の状態に仕上げるかを考え、文字通り寝る間を惜しんで全力でやり抜いた。
「コンテスタントからのリクエストは、みなさんにほぼ満足していただけるようクリアできたと思います。ショパン協会に協力しながら、正々堂々とピアノを提供し、ピアノの品質と私たちの対応の両面で認められたことは、今回のショパンコンクールに関わったスタッフ全員の誇りです」

ショパンコンクール - Web音遊人

練習室として開放されたポーランド支店の一室

2015年10月20日、2週間あまりにわたって行われたコンクールはグランドファイナルの結果発表をもって幕を閉じた。コンクール全体を通して高い選定率を誇り、ファイナリストの5人がヤマハを弾く、という快挙を達成。しかし今回は、惜しくも「優勝ピアノ」にはなれなかった。その悔しさと、できることのすべてをやり切ったという思いで、田所氏は涙が止まらなかった。「人と人との絆や熱い思い」に突き動かされるように、全身全霊を傾け、駆け抜けた日々は終わった。
「今回、ホスト支店として、先輩たちが長年積み上げてきた実績の上で、最大限に自分のできることをやり尽くしました。これからも、ヤマハピアノをさらに輝かせていくために、同じ思いをもった多くのスタッフとひとつの目標に向かって集中的に取り組み、この貴重な経験を活かして努力を続けていきます」
音の進化を求め続ける道に終わりはない。さらなる高みに向かって、CFXはすでに新たな歩みを始めている。

 

第17回ショパン国際ピアノコンクール – ピアノをめぐる物語

▼ピアノ調律技術者 花岡昌範氏
演奏者の想いが聴き手に伝わったとき、調律技術者としての喜びを感じた

▼ピアニスト シャルル・リシャール=アムラン氏
このピアノなら自分の意図する表現に応えてくれると思った

 

特集

村松崇継

今月の音遊人

今月の音遊人:村松崇継さん「音・音楽は親友、そしてピアノは人生をともに歩む相棒なのかもしれません」

2058views

音楽ライターの眼

ジェフ・ベックとレミー・キルミスター(モーターヘッド)、1986年の“幻”の共演

6387views

楽器探訪 - ステージア「ELC-02」

楽器探訪 Anothertake

持ち運び可能なエレクトーン「ELC-02」、自由な発想でカジュアルに遊ぶ

30051views

楽器のあれこれQ&A

エレクトーンについて、知っておきたいことや気をつけたいこと

25170views

大人の楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

11187views

オトノ仕事人

音楽フェスのブッキングや制作をディレクションする/イベントディレクターの仕事

12550views

ホール自慢を聞きましょう

歴史ある“不死鳥の街”から新時代の芸術文化を発信/フェニーチェ堺

8106views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

2746views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

22023views

われら音遊人:Kakky(カッキー)

われら音遊人

われら音遊人:オカリナの豊かな表現力で聴いている人たちを笑顔に!

7914views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

すべては、あの日の「無料体験レッスン」から始まった

5191views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9667views

大人の楽器練習機

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:世界的ピアニスト上原彩子がチェロ1日体験レッスン

16890views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

12572views

音楽ライターの眼

連載14[多様性とジャズ]傑作『ミンガス・アー・アム』に包括された3つの特色

1330views

コレペティトゥーアのお仕事

オトノ仕事人

高い演奏技術と幅広い知識で歌手の表現力を引き出す/コレペティトゥーアの仕事(前編)

19025views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:仕事もバンドも、常に真剣勝負!

9449views

楽器探訪 - ステージア「ELC-02」

楽器探訪 Anothertake

持ち運び可能なエレクトーン「ELC-02」、自由な発想でカジュアルに遊ぶ

30051views

アクトシティ浜松 中ホール

ホール自慢を聞きましょう

生活の中に音楽がある町、浜松市民の音楽拠点となる音楽ホール/アクトシティ浜松 中ホール

14007views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は人前で演奏してこそ、上達していくものなのだろう

7929views

楽器のあれこれQ&A

モチベーションがアップ!ピアノを楽しく効率的に練習するコツ

40939views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

8975views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

24789views