今月の音遊人
今月の音遊人:矢野顕子さん 「わたしにとって音は遊びであり、仕事であり、趣味でもあるんです」
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アマオケの実態を本音で紹介、演奏する人も聴く人も必読の白書/アマチュアオーケストラに乾杯!素顔の休日音楽家たち
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2016.5.11
tagged: ブックレビュー, アマチュアオーケストラに乾杯! 素顔の休日音楽家たち, 畑農敏哉
アマチュアこそ、音楽の本道である。
そう言われても、すぐには賛同できない人も多いのではないだろうか。選ばれしプロこそが音楽のメインストリーム。そう考える方が一般的だからだ。
しかし、本書では、作曲家・指揮者であり、アマチュアオーケストラ(アマオケ)の指揮にも情熱を傾けた故・芥川也寸志のこんな言葉を紹介している。
「プロとはある特別の才能をもった、ある特別の人間のことだろうから、音楽がそんな特別なもののために存在するなどということは、到底考えることは出来ない。あえて言えば、音楽はみんなのものであり、“みんな”を代表するもののことを、アマチュアと言ってよいであろう。この意味から言えば、アマチュアこそ、音楽の本道である」
なるほど、そう言われれば納得がいく。考えてみれば当たり前のようでもあり、しかし気付いていなかったこの指摘は、すべての音楽愛好家たちに喜びと自信を与えてくれるのではないだろうか。本書では、そんなアマチュアのなかでもアマオケに焦点をあてている。
日本は1,000団体以上のアマオケがあり、しかもその数は年々増えているという。今、アマオケが熱いのだ。
著者の畑農敏哉(はたのとしや)は、中学3年生のときに市民オケ(長崎交響楽団)に入団して以来、コントラバス奏者として活動してきた。通信社での記者生活を経てテレビ局に勤める傍ら、社会人生活を通していくつかのアマオケに所属し、2012年には自らアマオケをつくって演奏会を開くまでになった。
アマオケをこよなく愛する著者はまず、ふたつの思い込みを払拭するべく、野球などに例えながらわかりやすく説いていく。
ひとつめの思い込みは、アマチュアはプロに比べて劣っていると考えられていること。しかし、プロ野球だけが野球ではなく、高校野球を見て感動する人がいるように、アマチュアは時にプロよりも大きな感動を呼ぶ力を持っていると著者はいう。
ふたつめは、高尚で華やか、お金がかかるといったオーケストラに対するイメージ。野球の社会人チームにも草野球から企業の野球部までさまざまな種類があるように、アマオケにもいろいろな形態があることを紹介する。
こうしてアマオケの素顔をみせたところで、その実態に深く切り込んでいく展開が面白い。音楽面はもちろん、ヒト・カネ・モノといった運営面までを本音で解説。著者がオケを立ち上げ、演奏会を終えるまでの記録やコントラバス奏者の休日密着レポートなど、リアルな記述も興味深く、読み進めていくうちにアマオケの世界に引き込まれていく。
アマオケに所属している人にとっては、思わず「そうそう!」と共感したり「なるほど!」と参考になったりする内容。これから始めようかと考えている人には、背中を押す一冊となるはずだ。そして、これまでアマオケとの接点がなかった人は興味を抱き、演奏会に足を運ぶきっかけになるだろう。
演奏する人、聴く人……音楽はすべての人のためのもの。読み終わるころにはそう実感する。
『アマチュアオーケストラに乾杯!素顔の休日音楽家たち』
著者:畑農敏哉
発売元:NTT出版
発売日:2015年4月23日
価格:1,700円(税抜)