今月の音遊人
今月の音遊人:小沼ようすけさん「本気で挑まなければ音楽の快感と至福は得られない」
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どこまでもナチュラルな、5人のトップ奏者の絶妙な触れあい/“2 TENORS” featuring 三木俊雄&Eric Alexander
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2017.11.13
tagged: 音楽ライターの眼, 2 TENORS”featuring 三木俊雄&Eric Alexander, 三木俊雄, アレキサンダー
最近は、リビングの一角にミニステージをしつらえたり、半地下スタジオを作ったりして、週末などに音楽好きが集まって和やかにライヴを楽しむ、そんな人たちが増えたが、2017年10月19日にヤマハホールで開催されたライヴはまるでそんな風情。トップ奏者5人がくつろぎの空間で上質の音楽をゆったり聴かせてくれた。しかも、三木俊雄とエリック・アレキサンダーによるダブルテナーサックスという贅沢な編成。バトル的なステージではなく、聴き手の想像力に働きかけながら芳醇なひとときを紡いでいくスタイルで、サウンドに身をまかせて音楽に浸れるのが心地いい。
プログラムも、三木の「Stop & Go」や椎名豊(ピアノ)の「Movin’ Forces」といったオリジナル曲に、ジョン・コルトレーンの「Soul Eyes」、今やNHK BSプレミアム「美の壺」でもおなじみの「モーニン」など、スタンダードも織り交ぜての親しみやすいナンバー。
まず、フロントマン2人の楽器に視線が集まる。三木は、実に珍しいサックスを携えて登場した。えび茶系のラッカーが美しい輝きを放ち、軽快でいてどこか懐かしさを感じる音色で、1曲目の「Stop & Go」からノリよくリードしていく。あとで知ったのだが、2017年11月発売のテナーサックス(ヤマハYTS-82ZASP)を早々に使用したとのこと。ビンテージ・サウンドを意識しながら開発されたそうだ。
対するアレキサンダーの表面塗装のない黄銅色のサックスは使い込まれていて、見るからにジャズ黄金期のオールド楽器を彷彿するが、実に鳴りがよく、マイクにも自在に乗って音が飛んでくる。まさに奏者と一体化していて、彼のほぼ直立不動の演奏フォームを見ていると、まるでスーパーマンのクラーク・ケントが、スーツ姿で吹いているかのよう。神業を駆使しつつもスマートな独特の音色で、三木の温もりのあるテナーとの妙味がたまらない。
一方、リズム隊の椎名 、パット・グリン(ベース)、 広瀬潤次(ドラム)の力みのない絆は、手入れの行き届いた木立を吹き抜ける風を感じながら深呼吸する心地よさを思い起こさせる。「モーニン」は好例。アレンジした主題を終始大切に生かしながら、三木、アレキサンダー、椎名、広瀬と、ソロのバトンが流れるように受け渡されていく。なかでも、広瀬のドラムはまさに脱力系でありながら、音粒の芯や輪郭がくっきり見えるリズムが弾んで、メンバーの心を紡いでいるのが伝わってくる。
また「Papillon」では、三木がシームレスな演奏でムーディーに演出するなか、椎名が夢想するかのようなピアノを聴かせ、アレキサンダーがグリンのベースと静かに語り合うなど、時の流れはどこまでもナチュラル。時折、5人それぞれの演奏が独立して見える瞬間を感じたりもするのだが、絶妙に触れあっており、演奏の重なる密度や距離感の変化も聴き手の心地よさや集中力に関わるのだと、改めて思い知らされた。
前半の「Estate」で三木が、後半の「Soul Eyes」でアレキサンダーが抜けて、4人編成で演奏するなど、ステージの表情も変えつつ、あっという間の2時間。
最後は、もともとトリオ曲の「Movin’ Forces」を、サックスのツインやソロ、ピアノソロ、ドラムソロなど、まるでフルコース料理のようなバリエーションで演奏。三木やアレキサンダーのテンションも自ずと上がって、熱気に包まれてのエンディング。まさにくつろぎの美味しいひとときだった。
原納暢子〔はらのう・のぶこ〕
音楽ジャーナリスト・評論家。奈良女子大学卒業後、新聞社の音楽記者、放送記者をふりだしに「人の心が豊かになる音楽情報」や「文化の底上げにつながる評論」を企画取材、執筆編集し、新聞、雑誌、Web、放送などで発信。近年は演奏会やレクチャーコンサート、音楽旅行のプロデュースも。書籍『200DVD 映像で聴くクラシック』『200CD クラシック音楽の聴き方上手』、佐藤しのぶアートグラビア「OPERA ALBUM」ほか。
Lucie 原納暢子
文/ 原納暢子
photo/ 森島興一
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