Web音遊人(みゅーじん)

2 TENORS”featuring 三木俊雄&Eric Alexander

どこまでもナチュラルな、5人のトップ奏者の絶妙な触れあい/“2 TENORS” featuring 三木俊雄&Eric Alexander

最近は、リビングの一角にミニステージをしつらえたり、半地下スタジオを作ったりして、週末などに音楽好きが集まって和やかにライヴを楽しむ、そんな人たちが増えたが、2017年10月19日にヤマハホールで開催されたライヴはまるでそんな風情。トップ奏者5人がくつろぎの空間で上質の音楽をゆったり聴かせてくれた。しかも、三木俊雄とエリック・アレキサンダーによるダブルテナーサックスという贅沢な編成。バトル的なステージではなく、聴き手の想像力に働きかけながら芳醇なひとときを紡いでいくスタイルで、サウンドに身をまかせて音楽に浸れるのが心地いい。

プログラムも、三木の「Stop & Go」や椎名豊(ピアノ)の「Movin’ Forces」といったオリジナル曲に、ジョン・コルトレーンの「Soul Eyes」、今やNHK BSプレミアム「美の壺」でもおなじみの「モーニン」など、スタンダードも織り交ぜての親しみやすいナンバー。

まず、フロントマン2人の楽器に視線が集まる。三木は、実に珍しいサックスを携えて登場した。えび茶系のラッカーが美しい輝きを放ち、軽快でいてどこか懐かしさを感じる音色で、1曲目の「Stop & Go」からノリよくリードしていく。あとで知ったのだが、2017年11月発売のテナーサックス(ヤマハYTS-82ZASP)を早々に使用したとのこと。ビンテージ・サウンドを意識しながら開発されたそうだ。

対するアレキサンダーの表面塗装のない黄銅色のサックスは使い込まれていて、見るからにジャズ黄金期のオールド楽器を彷彿するが、実に鳴りがよく、マイクにも自在に乗って音が飛んでくる。まさに奏者と一体化していて、彼のほぼ直立不動の演奏フォームを見ていると、まるでスーパーマンのクラーク・ケントが、スーツ姿で吹いているかのよう。神業を駆使しつつもスマートな独特の音色で、三木の温もりのあるテナーとの妙味がたまらない。

2 TENORS”featuring 三木俊雄&Eric Alexander

一方、リズム隊の椎名 、パット・グリン(ベース)、 広瀬潤次(ドラム)の力みのない絆は、手入れの行き届いた木立を吹き抜ける風を感じながら深呼吸する心地よさを思い起こさせる。「モーニン」は好例。アレンジした主題を終始大切に生かしながら、三木、アレキサンダー、椎名、広瀬と、ソロのバトンが流れるように受け渡されていく。なかでも、広瀬のドラムはまさに脱力系でありながら、音粒の芯や輪郭がくっきり見えるリズムが弾んで、メンバーの心を紡いでいるのが伝わってくる。

また「Papillon」では、三木がシームレスな演奏でムーディーに演出するなか、椎名が夢想するかのようなピアノを聴かせ、アレキサンダーがグリンのベースと静かに語り合うなど、時の流れはどこまでもナチュラル。時折、5人それぞれの演奏が独立して見える瞬間を感じたりもするのだが、絶妙に触れあっており、演奏の重なる密度や距離感の変化も聴き手の心地よさや集中力に関わるのだと、改めて思い知らされた。

前半の「Estate」で三木が、後半の「Soul Eyes」でアレキサンダーが抜けて、4人編成で演奏するなど、ステージの表情も変えつつ、あっという間の2時間。

最後は、もともとトリオ曲の「Movin’ Forces」を、サックスのツインやソロ、ピアノソロ、ドラムソロなど、まるでフルコース料理のようなバリエーションで演奏。三木やアレキサンダーのテンションも自ずと上がって、熱気に包まれてのエンディング。まさにくつろぎの美味しいひとときだった。

2 TENORS”featuring 三木俊雄&Eric Alexander

2 TENORS”featuring 三木俊雄&Eric Alexander

原納暢子〔はらのう・のぶこ〕
音楽ジャーナリスト・評論家。奈良女子大学卒業後、新聞社の音楽記者、放送記者をふりだしに「人の心が豊かになる音楽情報」や「文化の底上げにつながる評論」を企画取材、執筆編集し、新聞、雑誌、Web、放送などで発信。近年は演奏会やレクチャーコンサート、音楽旅行のプロデュースも。書籍『200DVD 映像で聴くクラシック』『200CD クラシック音楽の聴き方上手』、佐藤しのぶアートグラビア「OPERA ALBUM」ほか。
Lucie 原納暢子

 

特集

今月の音遊人:葉加瀬太郎さん

今月の音遊人

今月の音遊人:葉加瀬太郎さん「音楽は自分にとって《究極のひまつぶし》。それは、この世の中でいちばん面白いことだから」

13212views

音楽ライターの眼

自分好みの“AIコルトレーン”はジャズの発展に寄与するのか?

2768views

楽器探訪 Anothertake

ピアノならではのシンプルで美しいデザインと、最新のデジタル技術を両立

7101views

楽器のあれこれQ&A リコーダー

楽器のあれこれQ&A

リコーダーを長く楽しむためのお手入れ方法

12283views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

10428views

オトノ仕事人 ボイストレーナー

オトノ仕事人

歌うときは、体全部が楽器となるように/ボイストレーナーの仕事(前編)

26887views

HAKUJU HALL(白寿ホール)

ホール自慢を聞きましょう

心身ともにリラックスできる贅沢な音楽空間/Hakuju Hall(ハクジュホール)

24953views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

9559views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

33791views

われら音遊人:音楽仲間の夫婦2組で結成、深い絆が奏でるハーモニー

われら音遊人

われら音遊人:音楽仲間の夫婦2組で結成、深い絆が奏でるハーモニー

7729views

山口正介さん

パイドパイパー・ダイアリー

「自転車を漕ぐように」。これが長時間の演奏に耐える秘訣らしい

6562views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10924views

ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

14149views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

14717views

音楽ライターの眼

さまざまな音楽、溶け合う楽器の音色、それらが届ける平和の祈り:井上鑑「TOKYO INSTALLATION 2022- Birds of Tokyo『願いを乗せて飛び立つうた』」

1496views

宮崎秀生

オトノ仕事人

ホールや劇場をそれぞれの目的にあった、よりよい音響空間にする専門家/音響コンサルタントの仕事

3607views

われら音遊人:音楽仲間の夫婦2組で結成、深い絆が奏でるハーモニー

われら音遊人

われら音遊人:音楽仲間の夫婦2組で結成、深い絆が奏でるハーモニー

7729views

楽器探訪 Anothertake

ピアノならではのシンプルで美しいデザインと、最新のデジタル技術を両立

7101views

HAKUJU HALL(白寿ホール)

ホール自慢を聞きましょう

心身ともにリラックスできる贅沢な音楽空間/Hakuju Hall(ハクジュホール)

24953views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

だから続けられる!サクソフォンレッスン10年目

5241views

楽器のあれこれQ&A

いつも清潔にしておきたい!ピアニカのお手入れ、お掃除方法

357748views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

10626views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10924views