Web音遊人(みゅーじん)

森山威男

稀代のドラマー森山威男が初めて語る「スイングするドラミングと藝大時代」/森山威男インタビュー

初期の山下洋輔トリオのドラマー、森山威男。1974年にドイツで開催された「メールス・ジャズフェスティバル」での圧倒的なプレイは今も語り継がれている。これまでほとんど演奏について語ってこなかった森山が、自著『森山威男 スイングの核心』出版を機に、山下洋輔トリオ時代のドラミング、そして学生時代についても語った。

『メールス・ジャズフェスティバル』での熱狂は、ヨーロッパでの山下洋輔トリオの人気に火をつけた。無名の日本の若者が「いきなりドーンというすごい音で、集中力もエネルギーもずっと落ちないまま10分も演奏し続けた」ことに度肝を抜かれた聴衆は、演奏が終わった瞬間、「シーンとなって、その次にウワーっと湧いた」という。「一途なところとやる気が絶えない。今、振り返ってもすごい演奏だった」と森山は語る。演奏後はいつも体重が4キロも減り、人から話しかけられても答えられないほど消耗した。したたり落ちる汗が靴からあふれ出るほどだった。

1969年から1975年にかけて山下洋輔トリオに在籍した森山は、自身が独自に編み出した唯一無二のドラミングによって、スイングするフリースタイルを生み出した。「いつでも全部が鳴っている」ドラムは、複雑に入り組んだ5拍子に両手足の音がずれて入り、聴き手に一定のビートをまったく感じさせない。演奏のスピードは超高速。3人の絡み合うサウンドに「演奏している当人同士しかわからない」という絶妙な間の瞬間が訪れると、その間合いがスイングを生んだ。
「僕らは、なぜやるのかの理由も思いも、感性も一致していた。ヨーロッパにも一緒にやらせてくれというプレイヤーがいましたが、とても他の人とはできません。そういう演奏でした」

この革新的なドラミングを編み出した森山は東京藝術大学音楽学部器楽科の卒業生。ドラムを叩きたい一心から両親を説得するために受験し、合格はしたものの、大学になじめず、孤独と劣等感にさいなまれた「暗く寂しい青春時代」(著書より)を過ごした。
ただオーケストラは好きで、学生時代には日本フィルハーモニー交響楽団でパーカッションを演奏したこともある。
「音楽に入り込んで音楽全体を楽しみ、指揮者と同じ気持ちで叩きました。たとえばシンバルも、叩くところまでに自分の気持ちが高揚していかないと面白くない。ストラヴィンスキーのダイナミクスには興奮しましたね。ドラムを叩く時も、頭の中ではオーケストラの壮大な音が鳴っていました」

そして、「自分のドラムが駄目だとは思わなかった。自分には何かができる」(著書より)と、ジャズの世界に飛び込む。やがて山下と出会い、トリオが結成された。結成当時の演奏を森山はこう振り返る。
「お客さんが居ようが居まいが、とにかく叩いた。バスドラムのペダルが折れると足でバスドラムを蹴った。お金は電車賃ぐらいしかもらえなかったが、笑いがでるほどうれしかった。その頃から私は一生懸命が好きになった」(著書より)

「3人ともがソロのようにやたら自分を出して、でもおたがいに影響を受けていた」という山下洋輔トリオのプレイスタイルは、いわゆる一般ウケするものではなかったが、根強いファンがついた。「誰かに評価されたくてやっているわけではない」という精神を少しもブレることなく貫き通したドラマー人生は、協調ばかりが求められる今の時代にとても刺激的だ。

そんな森山のドラミングを、6台のカメラを駆使して手足を別々に撮影した貴重な映像とともに分析、解説した書『森山威男 スイングの核心』が発売された。一途にドラムを叩き続けた森山の「人生の核心」は、読み手みずからが生き方や考え方の指針を得る原動力になるに違いない。

■インフォメーション

『森山威男 スイングの核心(DVD付)』
森山威男 スイングの核心
発売元:ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス
発売日:2017年11月30日
料金:5,400円(税込)
詳細はこちら

 

特集

今月の音遊人:姿月あさとさん「自分が救われたり癒やされたりするのは、やはり音楽の力だと思います」

今月の音遊人

今月の音遊人:姿月あさとさん「自分が救われたり癒やされたりするのは、やはり音楽の力だと思います」

15767views

トゥ・ウルフ

音楽ライターの眼

サザン・ロックの“2匹の狼”トゥ・ウルフがデビュー。南部の炎は燃え続ける

631views

サイレントブラス

楽器探訪 Anothertake

“練習”の枠を超え人とつながる楽しさを「サイレントブラス」

6628views

楽器のあれこれQ&A

エレキギター初心者を脱したい!ステップアップ練習法と2本目購入時のアドバイス

7744views

【動画公開中】沖縄民謡アーティスト上間綾乃がバイオリンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】沖縄民謡アーティスト上間綾乃がバイオリンに挑戦!

10518views

オトノ仕事人

音楽をやりたい子どもたちの力になりたい/地域音楽コーディネーターの仕事

11763views

しらかわホール

ホール自慢を聞きましょう

豊潤な響きと贅沢な空間が多くの人を魅了する/三井住友海上しらかわホール

16411views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

7914views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

11660views

みどりの森保育園ママさんブラス

われら音遊人

われら音遊人:子育て中のママさんたちの 音楽活動を応援!

7949views

山口正介さん

パイドパイパー・ダイアリー

「自転車を漕ぐように」。これが長時間の演奏に耐える秘訣らしい

6947views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11844views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

11298views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

21816views

音楽ライターの眼

【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#029 「ジャズは難しい」という固定観念を覆す確信犯的ラヴ・ソング集~ジョン・コルトレーン『バラード』編

2909views

音や音楽の“聴こえ”をサポートし、豊かな人生を届ける/補聴器を世の中に広める仕事

オトノ仕事人

音や音楽の“聴こえ”をサポートし、豊かな人生を届ける/補聴器を世の中に広める仕事

4318views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:仕事もバンドも、常に真剣勝負!

10506views

reface

楽器探訪 Anothertake

個性が異なる4機種の特徴、その楽しみ方とは?

9374views

札幌コンサートホールKitara - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

あたたかみのあるデザインと音響を両立した、北海道を代表する音楽の殿堂/札幌コンサートホールKitara 大ホール

20404views

パイドパイパー・ダイアリー

こうしてわたしは「演奏が楽しくてしょうがない」 という心境になりました

9665views

初心者におすすめのエレキギターとレッスンのコツ!

楽器のあれこれQ&A

初心者におすすめのエレキギターと知っておきたい練習のコツ

27628views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

6511views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11844views