今月の音遊人
今月の音遊人:矢野顕子さん 「わたしにとって音は遊びであり、仕事であり、趣味でもあるんです」
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近代フルートの父、タファネル芸術の真髄を豊かな音楽性で表現したニューアルバム/ザビエル・ラック『タファネル 至高のファンタジスト』
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2018.7.4
tagged: フルート, ザビエル・ラック, タファネル 至高のファンタジスト
フルートはいうまでもなく古い歴史をもつが(遡る気になれば紀元前にまでルーツを追い求めることができるだろう)、近代フルートの歴史において堅固な土台を築き上げたのが、テオバルト・ベームを筆頭とする楽器製作にも携わったフルート奏者たち。彼らによって機能が充実し、楽器としての可能性を広げたフルートは新しい時代を迎えることとなる。1844年にフランスのボルドーで生まれ、1908年にパリで没したポール・タファネルは、そうした新時代を生きたリーダー的存在の一人である。フルート奏者やフルート音楽の愛好家にとっては重要な存在であるものの、実はこの作曲家を軸としてプログラムが組まれるコンサートやCDは少ないといえるだろう。
オーストラリアのシドニーに生まれ、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団をはじめとする世界各地の一流オーケストラで演奏してきたザビエル・ラックは、神戸女学院大学音楽学部で若く将来性のある学生たちを教える中、この企画『タファネル 至高のファンタジスト』を思いついたという。19世紀後半から20世紀に至る時代に書かれた諸作品が楽器の可能性を広げ、華麗な音楽を奏でる楽器だという印象を与え、結果的に現代の私たちがイメージする魅力的なフルート像を作り上げたということだ。このCDに収録されている作品たちは、その立役者であり証言者だといえるだろう。
CDはまず、タファネル自身による「トマの『ミニョン』による大幻想曲」で始まる。19世紀はフルートに限らず、人気オペラのアリアなどを引用してヴィルトゥオーゾ・ピースに仕立てる「幻想曲(ファンタジー)」や「変奏曲(バリエーション)」が大流行した。この曲はアンブロワーズ・トマというフランスの人気作曲家が書いたオペラ『ミニョン』から、名アリアと称される「君よ知るや南の国」ほかのメロディを引用。前半は歌う楽器としての表現力を、後半は幅広い音域の中で縦横無尽に飛び回るような音楽により、細かな音も美しく再現できる楽器の能力と演奏者の技量を試すような構成になっている。言い換えるなら、この1曲で演奏者の音楽性や能力がわかってしまうような作品だということだろう。
こうした傾向は同じタファネルによる「トマの『フランチェスカ・ダ・リミニ』による幻想曲」と「ウェーバーの『魔弾の射手』による幻想曲」、そして前半の陰りある雰囲気が印象深い「アンダンテ・パストラールとスケルツェッティーノ」にも共通している。こうした作品におけるザビエル・ラックの演奏は、澄んだ音色と伸びやかに歌う節回しにより、青空の中を気持ちよく伸びていく飛行機雲のような音楽だという印象さえ受ける。もちろん躍動的な部分における音も安定しており、どんなに細かな音であっても一音一音がしっかりと形を作っているため、音楽が常に安定している(つまり安心して聴ける)といえるだろう。
タファネル同様にフルート奏者・作曲家・指揮者として活躍したデンマークのアンデルセン(アナセン)も、19世紀においてフルートの可能性を広げた一人。このCDの中でもっとも大規模な作品である「コンツェルトシュトゥック(小協奏曲)」も、タファネルの「幻想曲」と同じスタイルの作品である。「カルメン幻想曲」の作曲者として知られるフランス人フルート奏者・作曲家のボルンによる「バラードと小鬼たちの踊り」(この曲はタファネルに献呈されている)もまた、「歌+舞曲」というスタイルで同じ系列に並ぶ曲だといえるだろう。ここでもラックの丁寧な演奏が音楽に自然な流れを与えている(言うまでもないことだが、曲に命を吹き込み、魅力的な音楽に育て上げるのは演奏者なのだ)。
さらに、フォーレがタファネルに献呈した「小品(ヴォカリーズ=エチュード)」、そしてフルートの名曲として名高いグルックの「精霊の踊り」は、もの憂げな音色が心に迫る作品。これもまたフルートならではの魅力であり、ラックのメランコリックな音がドラマを感じさせてくれる。フルートを演奏する方はもちろん、フルート音楽やフランス音楽がお好きなリスナーの方にも、ぜひおすすめしたい一枚だ。
なお追加情報ながら、ブックレットにはラック自身の執筆による詳細な解説文、作曲家の紹介および曲目解説が掲載されている。演奏者による解説文は曲に対するアプローチを知り、演奏を深く味わう上でも重要なものなので、ぜひご一読を。
発売元:カメラータ・トウキョウ
発売日:2017年2月25日
料金:2,800円(税抜)
使用楽器:ヤマハ ハンドメイドフルート「イデアル」
出演:ザビエル・ラック(フルート)、岡本知也(ピアノ)
日時:2018年7月14日(土)19:00開演(18:30開場)
会場:ヤマハ銀座コンサートサロン(東京都中央区銀座7-9-14 ヤマハ銀座ビル6F)
料金:2,000円(税込)
定員:80名 全席自由(要予約)
文/ オヤマダアツシ
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