Web音遊人(みゅーじん)

トランスアコースティックギター

ギタリストを虜にする気持ちよい演奏感。アコギ単体でエフェクト音を鳴らせる「トランスアコースティックギター」/開発者インタビュー

アコギの生音にエフェクトがかけられる秘密とは?

アンプやスピーカーを使わず、アコースティックギター(アコギ)本体だけで、エフェクト(リバーブ・コーラス)をかけた演奏ができる「トランスアコースティック(TA)ギター」。2016年に「LL/LSシリーズ」、2018年1月に「FG/FSシリーズ」をベースとするモデルが発売され、現在のラインナップは全4色・10モデルに。エフェクトによって音に厚みや広がりができ、気持ちよい演奏感を得られるアコギとして注目を集めています。

アコギ単体でエフェクト音が鳴らせるのはヤマハ独自の技術「TransAcoustic™」によるもので、技術の中枢となるのがアクチュエーターと呼ばれる加振器。リバーブやコーラスがかかったエフェクト音(信号)を振動に変換し、奏者が鳴らした音(原音)に重ねて鳴らすことで、自然で心地良い響きを実現します。つまりアクチュエーターは、“楽器を振動させる”というアコースティック楽器と同じ原理で、エフェクト音を鳴らすことを可能にするわけです。

なお加振器自体は一般的な装置で、楽器に搭載する研究は以前から行われていたそう。「2014年のことになりますが、ギター好きの技術者がアコギに搭載した試作品を制作したことが、商品化への大きなきっかけとなりました。アンプにつないでいないアコギから、エフェクトがかかった音が聴こえてきたときの驚きは今でも忘れられません」と、開発を担当する柴田拓也さん。

開発担当の柴田拓也さん

ヤマハ入社以来、アコギの設計に携わってきた開発担当の柴田拓也さん。中学生のとき、ゆずの音楽が好きになったことをきっかけにアコギを始めたそう。

試作品を弾いて、「世界を驚かせるすごいギターができる」と確信した開発陣。アコギにアクチュエーターのような音響機器を搭載するのは初めての経験でしたが、Line 6*のスタッフからも多くのアイディア、アドバイスをもらうことで、商品化の実現に向けて走り出しました。
*米国の楽器・音響機器メーカー、現在はYamaha Guitar Group

様々な分野のスペシャリストの知恵を結集

開発で最大の難関となったのは、伝統的なギターのフォルムや構造は変えず、アクチュエーターをギター内部のどこに、どのように取り付けるかということ。表板に付けるか、裏板に付けるかというところで迷いに迷ったといいますが、決め手となったのは、聴き手ではなく、弾き手に心地良さを感じて欲しいという思いだったといいます。
「シミュレーターで計測してみると、数値上は表板に付けたほうが音や響きが良いという結果が出ましたが、自分達で弾いてみて気持ちよく、臨場感があったのは裏板でした。裏板を選択することで、『奏者が気持ちよく弾けるギター』というTAギターのコンセプトがより明確になりました」

トランスアコースティックギター

アクチュエーターは、奏者に振動が効果的に伝わりやすい裏板の内部に搭載。裏板への取り付け方は、ギター本来の発音に影響を与えにくいように工夫されています。

ほとんどが木材で出来ており、湿度によって形状が微細に変化するギターに、金属で出来たアクチュエーターをどのように取り付けるかも難題だったそう。
「既存のノウハウがないので、当初はあらゆる取り付け法を片っ端から試しては失敗していましたが、音響機器の特性をよく知るオーディオの部署のスタッフや、先に商品化されていたトランスアコースティックピアノの開発者に協力を仰ぐことで、ベストの方法を導き出すことができました」

電気を使っていることを奏者に感じさせないデザイン

TA機能は電池で駆動しますが、外観はアコギに限りなく近いこともTAギターの特徴。リバーブ・コーラスのかかり具合の調整や、TA機能をオン・オフする3つのツマミも、デジタル表示などがないシンプルな造りになっています。
「電気を使っていることを、できるだけ奏者に感じさせないデザインにしたいと思いました。またギター本来の鳴りに影響を与えないように、電装システムを小型化し、ボディの加工を最小限にしています」と柴田さん。

ボディの基本色は、木材の色を生かした「ビンテージティント」。またボディの塗装をピッキングから守るピックガードは、ボディの色・木目を生かすよう透明になっています。

トランスアコースティックギター

(写真左)③の「TAスイッチ」は、外部アンプの出力ボリューム調整のツマミも兼ねている。(写真右)このボディカラーがビンテージティント。よく見ると、透明のビックガードが貼られているのがわかる。

気が向いたときにさっと手に取り、アンプ・スピーカー無しにエフェクト音を鳴らせるTAギター。TAスイッチをオフにすれば通常のアコギになり、外部のアンプ・スピーカーとつなぐとエレクトリックアコースティックギターにもなるため、自宅で弾くだけでなく、音楽仲間とのセッションやライブなど、幅広いシチュエーションで楽しめるところも大きな魅力です。

柴田さんも毎日のように自宅で弾いているそうですが、エフェクトがかかることで演奏がうまくなったように感じるため、つい夢中になって弾き続けてしまうとか。
「私自身もそうですが、アコギのギタリストの多くは、ギター一本で美しい生音を鳴らすことにこだわりを持っていると思います。ですが、エフェクトがかかった音に包まれる気持ちよさを知ると、もう元には戻れないかもしれません(笑)」

これからアコギを習いたい人はもちろん、お気に入りの曲をもっと気持ちよく弾きたい人、昔やっていたギターに再びトライしたい人は、ぜひ店頭で、TAギターの気持ちよさを体験してみてはいかがでしょうか。


Yamaha TransAcoustic Guitar – FG-TA/FS-TA

■トランスアコースティック™ギター

ギター内部にアクチュエーター(加振器)を搭載することにより、アンプを使わずにリバーブやコーラス等のエフェクトをギターの生音にかけられるアコースティックギター。
詳細はこちら

 

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