今月の音遊人
今月の音遊人:さだまさしさん「僕にとって音楽は、最高に好きなものであり、最強に嫌いなもの」
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バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンに新たな光を当てたニューアルバム『connect』/清塚信也インタビュー
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2018.12.14
映画やドラマの音楽を手がけるなど、近年はコンポーザー・ピアニストとしても活躍している清塚信也が、最新アルバム『connect』をリリースした。タイトルに込められた意味は、クラシック音楽と現代の人々を「コネクト=つなげる」すること。バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンの作品に新たな光を当てるようなその演奏は、決してクラシックへの原点回帰ではなく、むしろ一歩前へと進んだ清塚の境地を示すものである。
「これまでもクラシックを身近に感じていただけるような活動をしてきましたが、最近はテレビ番組などを通してクラシックという文化を面白く、広く皆さんにお伝えする機会をいただくことが多くなり、よりいっそう“コネクター”としての役割を意識するようになりました」
その役割を見つけるまでは、中学生の頃からずっとクラシックを演奏するとき、どこかで「違和感」「しっくりこない感じ」を味わっていたという。
「僕にとって音楽というのは“新作”なんですよ。新しく書かれた曲を聴くというのが音楽。そういう意味で、新作があまりないクラシックに対して違和感を覚えていたのだと思います。それと、僕は小さい人間なので、ベートーヴェンやモーツァルトなどのことを、同じ音楽家としてライバル視しているところがあるんですよね。たとえばコンサートでショパンの曲を演奏し、MCでショパンがいかに素晴らしい音楽家であったかを話すとき、じつはちょっと悔しいんです。“ああ、またショパンの株を上げちゃったよ”って(笑)」
そうやってつねに自身がクラシックを演奏する意味を自問自答してきた清塚だからこそ、これまでとは違う角度からクラシックを捉えることができるのだろう。
「ですから今回のアルバムでは、偉大な作曲家を崇めるのではなく、曲にまつわるストーリーを語ることができたらと。クラシックの楽しみ方のひとつに“ミステリー”という要素があると思うんです。まだ解き明かされていない謎があるからこそ、僕たちははるか昔に思いを馳せ、あれこれ推測してワクワクする。ロマンですよね。そんなことを考えながら、自分がストーリーテラーになって、ミステリーに引き込まれるようなプログラムを組んでみました」
アルバムはバッハのイギリス組曲第3番からスタートする。「バッハはかくあるべき」という呪縛から完全に解き放たれた、鮮烈でエモーショナルな演奏にハッとさせられる。
「この曲では、バッハの音楽を現代にトリップさせるという形でコネクトしています。つまり、バッハの時代の鍵盤楽器は、強弱がほとんどつけられなければ機動性もない、大きな音もあまり出せない、もちろんペダルもない、レガートもできないような楽器でした。そのような楽器で作られたバッハの音楽を、現代のグランドピアノの機能をフルに使って弾いたらどうなるか。それを聴いていただきたくて、いろいろなパフォーマンスができるこの曲を選びました。録音はヤマハのコンサートグランドピアノCFXで。まさにその意図を余すところなく表現できたと思います」
次のモーツァルトのピアノ・ソナタ第14番も、ときに爆発する激情と夢想の間を行き来するような、ドラマティックな表現が衝撃的だ。
「我々はモーツァルトの本音、核心をほとんど知らないと思うんです。天真爛漫なイメージがありますが、彼の人生は決して幸せなものではありませんでした。旅回りをさせられた幼少時代、厳しいお父さんへのコンプレックスを抱え、柔らかな心に傷がついたまま大人になってしまったモーツァルト。彼が音楽を通して本当に表現したかったのは、怒りや不安、苦悩を表すような悲劇的な音楽だったのではないでしょうか。けれど、当時の貴族社会では、そのような音楽は必要とされていなかった。モーツァルトの感性は、当時の100年先を行っていたのでしょうね。このソナタは、そんな彼の怒りや音楽へのパッションが表出された数少ない先駆的な曲だと思います。さらに、ここから先の話はあくまで僕の推測なのですが、ベートーヴェンはモーツァルトのこの曲をバイブルにしていたのではないかと。第2楽章のある部分とそっくり同じメロディが、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番『悲愴』に登場するんです。どう、ミステリーでしょう?」
そして3曲目、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14番『月光』では、有名な第1楽章をゆっくりとしたテンポで、まるでアンビエントのように聴かせる清塚。ここでも現代的な感性が光っている。
「要は解釈なんですよ、クラシックは。僕らが知っている歴史というのは、推測でしかない。だからといって自分の好き勝手に演奏していいかというと、それだけではたぶん楽しくなくなってしまうんです。なにかルールがあったほうが、結局は楽しい。ではそのルールはなにかというと、作曲家について知り、こういう人だったのかと思いを巡らせ、自分なりにその音楽を解釈すること。そこを見出すことができれば、楽しく演奏できるのではないでしょうか」
『connect』
発売元:ユニバーサルミュージック
発売日:2018年12月12日
価格:3,240円(税込)
文/ 原典子
photo/ 宮地たか子
tagged: クラシック, アルバム, 清塚信也, connect
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