今月の音遊人
今月の音遊人:松居慶子さん「音楽は生きとし生けるものにとって栄養のようなもの」
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ピアノを教えることに悩んだら……成功のメソッドを学べる小説仕立ての実用書/『夢をかなえたピアノ講師 ゼロからの180日 物語で学ぶ指導者としてどう生きるか』
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2019.3.18
音楽大学ピアノ科を卒業後、2年ほどイタリアでの留学も経験した。音楽の道で生きていこうと思っていたのに、仕事がない。お金のために始めたピアノ教室も、ついに生徒がひとりもいなくなった──。
そんなどん底から始まる本書は、ピアノ講師失格の烙印を押された主人公が、音楽を教える幸せに気づくまでを描いた小説仕立ての実用書だ。
絶望的な状況に置かれていた主人公は、ある日不思議なオーラを放つ男性と出会う。「幸せな人生を送る秘訣を教えてください!」。意を決してそう頼むが、男性の口から出た言葉は「残念ながら、このままではあなたはピアノ講師として成功できないでしょう」というものだった。しかし、提示された課題をクリアすることで、男性から月に一度の講義を受けられることになる。与えられた期間は半年。
思い描いた人生を歩んでいくための大前提から、ピアノ講師のあり方や指導者マインド、外に視野を広げつながる重要性、さらには報酬についての捉え方まで。指導者としてどう生きるべきかが、物語のなかで綴られていく。
ページが進むとともに、主人公が少しずつ成長していくプロセスは爽快だ。考え方が変われば、行動が変わる。主人公は教えを実践しながら自ら学び、多くの人々との出会いから気づきを得る。その結果、知らず知らずのうちに人生は好循環することに。そして、最後には自分だけの幸せの「答え」にたどり着く。
男性が教える10のポイントを柱に生き方を示唆するという、実用書的要素はしっかりと抑えつつ、ストーリー仕立てで読みやすくわかりやすい。また、フィクションではあるが、ピアノ指導者でもある著者の経験がふんだんに盛り込まれているため、リアリティあふれた設定だ。主人公の心の動きを追い、物語に惹き込まれていくうちに、成長の過程を一緒に体得できるだろう。
十人十色の生徒と向き合うピアノ指導者の仕事は、常に順風満帆というわけにはいかないかもしれない。生徒が練習してこない。何度注意しても直らない。ピアノの楽しさを伝えたい。長く続けてほしい。保護者との付き合いが難しい……壁にぶち当たったり、不安や迷いを抱いたりすることも少なくないだろう。本書には、そうした指導者たちへのヒントが詰め込まれている。
男性の講義やそれを受けて主人公が始めた日課やワークは、単純なことながら目からウロコの内容。ピアノ指導者やこれからそれを目指す人はもちろん、ピアノとは無縁の人にとっても、自らの人生を輝かせる一助になるに違いない。
『夢をかなえたピアノ講師 ゼロからの180日~物語で学ぶ指導者としてどう生きるか』
著者:藤 拓弘
発売元:音楽之友社
発売日:2018年9月25日
価格:1,850円(税抜)