Web音遊人(みゅーじん)

ロシアピアニズムの“響きの正体”を探りピアノ奏法を変える可能性に迫る1冊/「響き」に革命を起こすロシアピアニズム~色彩あふれる演奏を目指して~

ピアノを弾く人なら誰もが、豊かな音色、美しい響きやレガートを手に入れたいと思うはず。そんなピアノ愛好家にとって、ピアノ奏法について根本的なことを説いた『「響き」に革命を起こすロシアピアニズム』は衝撃的な書だ。著者は約30年間、ロシアピアニズムの奏法を研究し、教育活動も行う大野眞嗣。学生時代、ラフマニノフの『協奏曲第三番』を練習していたとき、「ホロヴィッツやアルゲリッチの演奏は、5の指(小指)だけでメロディを作る部分でも綺麗にレガートで歌うのに、自分はいくら練習してもそうはならない。これは根本的に何かが違うのではないか」と疑問を持ったことから、奏法への探求が始まった。

何が違うのかを知るために留学し、ロシアピアニズムに目覚めた。ロシアピアニズムとは、「豊かな倍音によりベルベットのような光沢のある音色を基調とし、無限の音色で真のレガートやカンタービレを実現し、大ホールの最上階まで届く弱音からオーケストラに負けない強音まで表現可能」な奏法のこと(本書より)。鍵となるのは倍音だ。しかし残念ながら、日本人は倍音への感覚が薄いのだという。

「多くの日本人は、弾いた瞬間に鳴る立ち上がりの音、『基音』を聴いて演奏しています。その理由のひとつは、子音と母音の結合で一音節を作る日本語の特性にあるのではないかと思います。また、高温多湿の気象条件と木造家屋も影響しているでしょう。音が響かないので倍音を聴く習慣がないのです」

基音の聴き取りが主流の日本のピアノ教育も一因と考えられるため、プロ、アマ問わず、これはピアノを演奏するすべての人に関わること。ではどうしたらいいのか。「耳を開いて倍音を感じ取り、響きで音楽を作る」のだという。その方法を、日本人の感覚で理解できるよう具体的に解き明かすのが本書だ。

「ロシアピアニズムの奏法は技術的に弾きやすく、合理的な奏法の一面もあるので、大人になってからでも上達します。もちろん、奏法にはさまざまな考え方がありますので、これだけが正しいとは思っていません。ただ、私はロシアピアニズムの奏法による演奏が好きなのです。それを共有してくださる方がいるとしたら、ぜひ読んでいただきたいですね」

音大生や音大を目指す学生、ピアノ指導者、一般のピアノ愛好家など、ピアノに直接的に関わる人はもちろん、楽器を演奏しない人も読み物としても楽しめる内容。ネイガウス、ポゴレリッチといった名が並ぶ「ロシアピアニズムの代表的ピアニスト」の章も実に興味深い。

■インフォメーション

『「響き」に革命を起こすロシアピアニズム~色彩あふれる演奏を目指して~』
著者:大野眞嗣
発売元:ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス
価格:2,000円(税抜)
詳細はこちら

 

大野眞嗣(おおの・しんじ)
1965年東京生まれ。桐朋学園大学およびモーツァルテウム音楽院(オーストリア)にて学ぶ。ヨーロッパ在住中、ドミトリー・バシキーロフ、タチアナ・ニコラーエワ両氏との出会いからロシアピアニズムに目覚め、現在まで研究を続けている。自身のブログ「大野眞嗣 ロシアピアニズムをつぶやく」を通じて日本にロシアピアニズムの奏法を広める執筆活動を継続中。
大野眞嗣オフィシャルサイト:https://www.onoshinji.jp

 

特集

前橋汀子

今月の音遊人

今月の音遊人:前橋汀子さん「同じ曲を何千回、何万回演奏しても、つねに新しい発見や見え方があるのです」

1708views

音楽ライターの眼

ジャズ・ピアノ6連弾を振り返りながらジャズとクラシックの“分け目”を考えてみる

3553views

変えるべきもの、変えざるべきものを見極める

楽器探訪 Anothertake

変えるべきもの、変えざるべきものを見極める

13801views

楽器のあれこれQ&A

エレクトーンについて、知っておきたいことや気をつけたいこと

23500views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

11284views

オペラ劇場の音楽スタッフの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

舞台上の小さなボックスから指揮者や歌手に大きな安心を届ける/オペラ劇場の音楽スタッフの仕事(後編)

12126views

HAKUJU HALL(白寿ホール)

ホール自慢を聞きましょう

心身ともにリラックスできる贅沢な音楽空間/Hakuju Hall(ハクジュホール)

20119views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

9648views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

17632views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:人を楽しませたい!それが4人の共通の思い

5549views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

泣いているのはどっちだ!?サクソフォン、それとも自分?

4969views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

23337views

【動画公開中】沖縄民謡アーティスト上間綾乃がバイオリンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】沖縄民謡アーティスト上間綾乃がバイオリンに挑戦!

8334views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

8975views

音楽ライターの眼

連載48[ジャズ事始め]“アジア”から“江戸”へと回遊を始めた21世紀初頭の日本のジャズ

1130views

オトノ仕事人

新たな音を生み出して音で空間を表現する/サウンド・スペース・コンポーザーの仕事

5562views

AOSABA

われら音遊人

われら音遊人:大所帯で人も音も自由、そこが面白い!

10543views

楽器探訪 - ステージア「ELC-02」

楽器探訪 Anothertake

持ち運び可能なエレクトーン「ELC-02」、自由な発想でカジュアルに遊ぶ

28382views

サラマンカホール(Web音遊人)

ホール自慢を聞きましょう

まるでヨーロッパの教会にいるような雰囲気に包まれるクラシック音楽専用ホール/サラマンカホール

18667views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

いまやサクソフォンは趣味となったが、最初は映画音楽だった

5973views

楽器のあれこれQ&A

エレキギター初心者を脱したい!ステップアップ練習法と2本目購入時のアドバイス

2602views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

2243views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

23337views