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ブルースの伝統を未来へと受け継ぐ2大アーティスト、クリストーン・“キングフィッシュ”・イングラム&セバスチャン・レイン
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2019.3.14
tagged: ブルース, クリストーン・“キングフィッシュ”・イングラム, セバスチャン・レイン
2019年、ブルースの古くて新しい波が到来しようとしている。
アフリカからの伝統を受け継ぎ、20世紀初頭にアメリカで生まれたブルース・ミュージックは、時代と共に変化を遂げてきた。1960年代にイギリスの若者たち(ローリング・ストーンズ、ヤードバーズ、アニマルズ)がアメリカにブルースを逆輸入、1980年代にはスティーヴィ・レイ・ヴォーンやロバート・クレイの登場でブルースが再注目されている。
1980年代後半から1990年代前半にはB.B.キング、バディ・ガイ、ジョン・リー・フッカー、アルバート・コリンズらアメリカのベテラン黒人ブルースメンが白人ロック・ミュージシャンをゲストに迎えた作品で大復活。1990年代半ばにはケニー・ウェイン・シェパード、ジョニー・ラングら十代のブルース・ギタリストがセンセーションを巻き起こすことになった。また“ファット・ポッサム”レーベルなどのプリミティヴなダウンホーム・ブルースもこの時期に“再発見”されている。
21世紀に入ってからもホワイト・ストライプスやブラック・キーズがブルースのイディオムを取り入れたサウンドで人気を博し、ジョー・ボナマッサやゲイリー・クラーク・ジュニアなどのニュー・スターが生まれるなど、ブルースは世界の音楽リスナーの心を揺さぶり続けている。
そして2019年、注目されているのが、トラディショナル・ブルースへの原点回帰だ。時流に乗ってモダンな要素を取り入れるのでなく、20世紀のブルース黄金期と直接の接点を持つアーティストたちが登場、ブルース復活の狼煙(のろし)を上げている。本記事ではそんなムーヴメントを代表する2アーティストを紹介してみよう。
“ブルースの申し子”と呼ばれるブライテスト・スターがクリストーン・“キングフィッシュ”・イングラムだ。
1999年、ロバート・ジョンソン、マディ・ウォーターズ、ハウリン・ウルフらが活動したブルースの聖地、ミシシッピ州クラークスデイルに生まれたクリストーン。ハウンド・ドッグ・テイラー、アルバート・コリンズ、ジョニー・ウィンターらが在籍してきた名門レーベル「アリゲーター・レコーズ」と契約。デビュー・アルバム『Kingfish』にはバディ・ガイとケヴ・モがゲスト参加している。
そのアタックが強いエレクトリック・ギターはロック的というよりも、フレディ・キングを思わせるパワフルなもので、“大型魚 Kingfish”の異名を取る体躯に任せたプレイは聴く者を圧倒。アコースティック・ギターを爪弾くプレイにも説得力があり、20歳という若さを感じさせない円熟すら感じさせる。
バディとの共演曲「フレッシュ・アウト」やソウル・バラード「ザッツ・ファイン・バイ・ミー」での味わい深いギターとヴォーカルなどもブルースの伝統、若いエネルギー、そしてクリストーンならではの個性を持ち備えている。
セバスチャン・レインはまさに“血統書付き”のアーティストだ。
彼の祖父はジミー・ロジャース。マディ・ウォーターズやリトル・ウォルターとの共演で知られ、自らも「ウォーキング・バイ・マイセルフ」「ザッツ・オールライト」をヒットさせている伝説的ブルースマンだ。前者はゲイリー・ムーアやジョニー・ウィンターのヴァージョンでもお馴染みだろう。
また、父親のジミー・D・レインも自らの活動と並行してハニーボーイ・エドワーズやヒューバート・サムリン、パイントップ・パーキンスらの作品に参加、ミック・ジャガーやB.B.キングと共演するなど、人気と実力を兼ね備えたブルース・ギタリストとして評価されてきた。二代続けて“シカゴ・ブルース・ホール・オブ・フェイム”殿堂入りブルースメンの家系を受け継ぐのがセバスチャンなのだ。
デビュー・アルバム『Walkin’ By Myself』はブルースのヴォキャブラリを持ちながら、スリー・コードやペンタトニックのスケールに限定することなく、ロックやフォークの要素も取り入れたエレクトリック・シンガー・ソングライター・アルバムとなっている。
「5歳のときに祖父ジミー・ロジャースが亡くなった」というから、1992年生まれと推測されるセバスチャンだが、さまざまなスタイルのバンドでセッション・ギタリストとして活動してきたこともあり、そのギター・プレイには良い意味での安定感がある。
とはいえ、彼のブルース・プレイヤーとしての凄味は、アルバムに収録された前述のクリストーンとの共演曲「キャットフィッシュ・ブルース」で聴くことができる。ロバート・ペットウェイによるヴァージョンやマディ・ウォーターズが改作した「ローリン・ストーン」で知られるこの曲での2人のギター・ソロの応酬は、火を噴かんばかりだ。
アルバムの最初には祖父ジミー・ロジャースの「ウォーキング・バイ・マイセルフ」と祖父・父親のインタビュー音源が収録されており、ブルースのバトンをセバスチャンが受け継ぐことへの決意表明となっているのも興味深い。
なお『Walkin’ By Myself』にはエリック・ゲイルズとの共演曲「ジェゼベル」も収録されている。エリックは1974年生まれと、2人と比べてやや上の世代のアーティストだが、新しい世代のブルース系プレイヤーとの交流を活発に行っており、彼のアルバム『Middle Of The Road』(2017)にはクリストーンとゲイリー・クラーク・ジュニア、最新作『The Bookends』(2019)にはドイル・ブラムホールIIやベス・ハートがゲスト参加している。エリックのギターにも世代を超えたパッションが宿っており、クリストーンやセバスチャンと共に聴かれるべきアーティストだ。
クリストーン・“キングフィッシュ”・イングラムとセバスチャン・レインは、豊潤なブルースの歴史と真っ向から向き合うことで、独自のアイデンティティを浮かび上がらせるアーティストだ。ブルースの伝統を未来へと受け継いでいく2人、要注目である。
『Christone “Kingfish” Ingram「Fresh Out (featuring Buddy Guy)」』
発売元:Alligator Records
※ダウンロード/ストリーミング
『Sebastian Lane「Walkin’ By Myself」(海外盤)』
発売元:Sebastian Lane
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に850以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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