Web音遊人(みゅーじん)

ブルースの伝統を未来へと受け継ぐ2大アーティスト、クリストーン・“キングフィッシュ”・イングラム&セバスチャン・レイン

2019年、ブルースの古くて新しい波が到来しようとしている。

アフリカからの伝統を受け継ぎ、20世紀初頭にアメリカで生まれたブルース・ミュージックは、時代と共に変化を遂げてきた。1960年代にイギリスの若者たち(ローリング・ストーンズ、ヤードバーズ、アニマルズ)がアメリカにブルースを逆輸入、1980年代にはスティーヴィ・レイ・ヴォーンやロバート・クレイの登場でブルースが再注目されている。

1980年代後半から1990年代前半にはB.B.キング、バディ・ガイ、ジョン・リー・フッカー、アルバート・コリンズらアメリカのベテラン黒人ブルースメンが白人ロック・ミュージシャンをゲストに迎えた作品で大復活。1990年代半ばにはケニー・ウェイン・シェパード、ジョニー・ラングら十代のブルース・ギタリストがセンセーションを巻き起こすことになった。また“ファット・ポッサム”レーベルなどのプリミティヴなダウンホーム・ブルースもこの時期に“再発見”されている。

21世紀に入ってからもホワイト・ストライプスやブラック・キーズがブルースのイディオムを取り入れたサウンドで人気を博し、ジョー・ボナマッサやゲイリー・クラーク・ジュニアなどのニュー・スターが生まれるなど、ブルースは世界の音楽リスナーの心を揺さぶり続けている。

そして2019年、注目されているのが、トラディショナル・ブルースへの原点回帰だ。時流に乗ってモダンな要素を取り入れるのでなく、20世紀のブルース黄金期と直接の接点を持つアーティストたちが登場、ブルース復活の狼煙(のろし)を上げている。本記事ではそんなムーヴメントを代表する2アーティストを紹介してみよう。

クリストーン・“キングフィッシュ”・イングラム

“ブルースの申し子”と呼ばれるブライテスト・スターがクリストーン・“キングフィッシュ”・イングラムだ。

1999年、ロバート・ジョンソン、マディ・ウォーターズ、ハウリン・ウルフらが活動したブルースの聖地、ミシシッピ州クラークスデイルに生まれたクリストーン。ハウンド・ドッグ・テイラー、アルバート・コリンズ、ジョニー・ウィンターらが在籍してきた名門レーベル「アリゲーター・レコーズ」と契約。デビュー・アルバム『Kingfish』にはバディ・ガイとケヴ・モがゲスト参加している。

そのアタックが強いエレクトリック・ギターはロック的というよりも、フレディ・キングを思わせるパワフルなもので、“大型魚 Kingfish”の異名を取る体躯に任せたプレイは聴く者を圧倒。アコースティック・ギターを爪弾くプレイにも説得力があり、20歳という若さを感じさせない円熟すら感じさせる。

バディとの共演曲「フレッシュ・アウト」やソウル・バラード「ザッツ・ファイン・バイ・ミー」での味わい深いギターとヴォーカルなどもブルースの伝統、若いエネルギー、そしてクリストーンならではの個性を持ち備えている。

セバスチャン・レイン

セバスチャン・レインはまさに“血統書付き”のアーティストだ。

彼の祖父はジミー・ロジャース。マディ・ウォーターズやリトル・ウォルターとの共演で知られ、自らも「ウォーキング・バイ・マイセルフ」「ザッツ・オールライト」をヒットさせている伝説的ブルースマンだ。前者はゲイリー・ムーアやジョニー・ウィンターのヴァージョンでもお馴染みだろう。

また、父親のジミー・D・レインも自らの活動と並行してハニーボーイ・エドワーズやヒューバート・サムリン、パイントップ・パーキンスらの作品に参加、ミック・ジャガーやB.B.キングと共演するなど、人気と実力を兼ね備えたブルース・ギタリストとして評価されてきた。二代続けて“シカゴ・ブルース・ホール・オブ・フェイム”殿堂入りブルースメンの家系を受け継ぐのがセバスチャンなのだ。

デビュー・アルバム『Walkin’ By Myself』はブルースのヴォキャブラリを持ちながら、スリー・コードやペンタトニックのスケールに限定することなく、ロックやフォークの要素も取り入れたエレクトリック・シンガー・ソングライター・アルバムとなっている。

「5歳のときに祖父ジミー・ロジャースが亡くなった」というから、1992年生まれと推測されるセバスチャンだが、さまざまなスタイルのバンドでセッション・ギタリストとして活動してきたこともあり、そのギター・プレイには良い意味での安定感がある。

とはいえ、彼のブルース・プレイヤーとしての凄味は、アルバムに収録された前述のクリストーンとの共演曲「キャットフィッシュ・ブルース」で聴くことができる。ロバート・ペットウェイによるヴァージョンやマディ・ウォーターズが改作した「ローリン・ストーン」で知られるこの曲での2人のギター・ソロの応酬は、火を噴かんばかりだ。

アルバムの最初には祖父ジミー・ロジャースの「ウォーキング・バイ・マイセルフ」と祖父・父親のインタビュー音源が収録されており、ブルースのバトンをセバスチャンが受け継ぐことへの決意表明となっているのも興味深い。

なお『Walkin’ By Myself』にはエリック・ゲイルズとの共演曲「ジェゼベル」も収録されている。エリックは1974年生まれと、2人と比べてやや上の世代のアーティストだが、新しい世代のブルース系プレイヤーとの交流を活発に行っており、彼のアルバム『Middle Of The Road』(2017)にはクリストーンとゲイリー・クラーク・ジュニア、最新作『The Bookends』(2019)にはドイル・ブラムホールIIやベス・ハートがゲスト参加している。エリックのギターにも世代を超えたパッションが宿っており、クリストーンやセバスチャンと共に聴かれるべきアーティストだ。

クリストーン・“キングフィッシュ”・イングラムとセバスチャン・レインは、豊潤なブルースの歴史と真っ向から向き合うことで、独自のアイデンティティを浮かび上がらせるアーティストだ。ブルースの伝統を未来へと受け継いでいく2人、要注目である。

■アルバムインフォメーション

『Christone “Kingfish” Ingram「Fresh Out (featuring Buddy Guy)」』

発売元:Alligator Records
※ダウンロード/ストリーミング
詳細はこちら

『Sebastian Lane「Walkin’ By Myself」(海外盤)』

発売元:Sebastian Lane
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に850以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

 

特集

今月の音遊人 押尾コータロー

今月の音遊人

今月の音遊人:押尾コータローさん「人は誰もが“音で遊ぶ人”、すなわち“音遊人”なんです」

16315views

樫本大進、キリル・ゲルシュタイン

音楽ライターの眼

初共演にして、火花散るようにエキサイティングな一夜/樫本大進&キリル・ゲルシュタイン プレミアム・コンサート

4709views

ギター文化館

楽器探訪 Anothertake

歴史的ギターの音を生で聴けるコンサートも開催!

7084views

エレキギター

楽器のあれこれQ&A

エレキギターのサウンドメイクについて教えて!

120views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若手サクソフォン奏者 住谷美帆がバイオリンに挑戦!

8942views

コレペティトゥーアのお仕事

オトノ仕事人

高い演奏技術と幅広い知識で歌手の表現力を引き出す/コレペティトゥーアの仕事(前編)

19293views

サラマンカホール(Web音遊人)

ホール自慢を聞きましょう

まるでヨーロッパの教会にいるような雰囲気に包まれるクラシック音楽専用ホール/サラマンカホール

20685views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

2976views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

歴史的価値の高い鍵盤楽器が並ぶ「民音音楽博物館」

23819views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:仕事もバンドも、常に真剣勝負!

9520views

パイドパイパー・ダイアリー

こうしてわたしは「演奏が楽しくてしょうがない」 という心境になりました

8399views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9824views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

9522views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

30302views

ジャズとデュオの新たな関係性を考える

音楽ライターの眼

ジャズとデュオの新たな関係性を考えるvol.7

4948views

宮崎秀生

オトノ仕事人

ホールや劇場をそれぞれの目的にあった、よりよい音響空間にする専門家/音響コンサルタントの仕事

1445views

われら音遊人:クラノワ・カルーク・ オーケストラ

われら音遊人

われら音遊人:同一楽器でハーモニーを奏でる クラリネット合奏団

8087views

楽器探訪 Anothertake

空間を包み込む豊かな響き「フリューゲルホルン」

4102views

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

ホール自慢を聞きましょう

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

13923views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

泣いているのはどっちだ!?サクソフォン、それとも自分?

5816views

楽器のあれこれQ&A

ウクレレを始めてみたい!初心者が知りたいあれこれ5つ

4490views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

10617views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29502views