今月の音遊人
今月の音遊人:辻󠄀井伸行さん「ピアノは身体の一部、大切な友だちのようなものです」
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トークとピアノが心地よい、和やかな昼下がり/飯森範親と辿る芸術Vol.2
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2019.4.18
tagged: ピアノ, ピアニスト, 飯森範親, 金子三勇士, レクチャーコンサート
レクチャーコンサートは、音楽に関する知識や理解が増すだけでなく、解説者や奏者の人柄に触れられたりして、得した気分を味わえる。開催が平日の昼下がりともなると、お出かけ人口も限られるので、自然とリラックスモードに。この日はそんな水曜の13時開演。指揮者の飯森範親が、19世紀のウィーンで活躍した代表的音楽家をハプスブルク家との関わりを軸に映像とトークで紹介し、ピアニストの金子三勇士がそれぞれの作品を演奏するという趣向だった。
当時のウィーンは、13世紀から続くハプスブルク朝の末期。皇帝フランツ・ヨーゼフ1世(1830~1916)とエリーザベト妃(1837~98)の時代で、リストやブラームスらが活躍していた。だが飯森は、その前時代つまり神童モーツァルト(1756~91)が、女帝マリア・テレジア(1717~80)に可愛がられた頃から話を始めた。そして、ウィーンで生まれ育ったシューベルトは「貧しい市民作曲家でしたが、ハプスブルク家が援助していた学校でサリエリに学んでいました」、ドイツ人のベートーヴェンは「テレジアの末っ子、マクシミリアンの援助でウィーン留学するんです」など、次代の音楽家に影響を与えた面々とハプスブルク家との意外な接点も語るのだった。
一方、金子の演奏は、飯森の話のトーンと違和感なく聴きやすかった。こういう場で、いきなり大音量や感情過多な音で迫って来られると、観客は困惑する。解説の前後に小品や作品の一部の演奏をするのは、見た目ほどに簡単ではないのだ。前半を締めくくったベートーヴェンの『悲愴ソナタ』も、安定した打鍵で両手のフレーズが呼応、ペダルの響きも大げさではなく、弾き手の思いがじんわりと伝わってくる心地がした。
休憩の後、ようやくヨーゼフ1世とエリーザベトの時代に突入。1848年に18歳で即位し、54年にエリーザベトと結婚、第一次世界大戦の最中に亡くなるまで68年も国王だったヨーゼフ1世だが、国は67年からオーストリア=ハンガリー二重帝国となり、じりじりと衰退……。そんななかで活躍したリストやブルックナー、ブラームスの作品を金子が演奏。また、日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれ、ハンガリー国立リスト音楽院で学んだ金子は、この日を楽しみにしていたといい、飯森との歓談では「日本とハンガリーの外交150年の節目の年に、ハンガリーの血をひく人間として、国のディープな時代を考えるいい機会をいただけた」旨を、感慨深げに語った。締めくくりは、リストの『ハンガリー狂詩曲第2番』。遊び心を感じる見事なテンポ感で弾ききるとブラボーが飛び交った。
ちなみに、舞台壁面に映された多数の映像には、飯森と金子が撮ったウィーンやハンガリーのスナップも盛り込まれていた。飯森が「どちらの国にもドナウ川が流れているんですよ」と促すと、金子が『美しく青きドナウ』をアンコールで即興演奏。さすがにこればかりは、思いを発散するかのパフォーマンスで、ドナウ川はみるみる水かさを増し……。終演後、ホワイエでは「若さあふれるドナウだった」「随分、大きな河だったわね(笑)」など、ほほえましい会話が交わされていた。
原納暢子〔はらのう・のぶこ〕
音楽ジャーナリスト・評論家。奈良女子大学卒業後、新聞社の音楽記者、放送記者をふりだしに「人の心が豊かになる音楽情報」や「文化の底上げにつながる評論」を企画取材、執筆編集し、新聞、雑誌、Web、放送などで発信。近年は演奏会やレクチャーコンサート、音楽旅行のプロデュースも。書籍『200DVD 映像で聴くクラシック』『200CD クラシック音楽の聴き方上手』、佐藤しのぶアートグラビア「OPERA ALBUM」ほか。
Lucie 原納暢子
文/ 原納暢子
photo/ Ayumi Kakamu
tagged: ピアノ, ピアニスト, 飯森範親, 金子三勇士, レクチャーコンサート
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