今月の音遊人
今月の音遊人:曽根麻央さん 「音楽は、目に見えないからこそ、立体的なのだと思います」
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指揮者のインタビューはとても有意義で、新たな発見がいくつもあり、作品論、解釈、音楽に対する考えはもとより、オーケストラといかに対峙するかを聞くことができ、その人の人間性をも垣間見ることができる。
日本を代表する指揮者のひとり、尾髙忠明のインタビューも、短時間ながら非常に濃密な時間を過ごすことができ、マエストロのこれまでの活動と経験に耳を傾けるうちに、1冊の本が書けるのではないかという気持ちが生まれるほどだった。
尾髙忠明は桐朋学園大学で斉藤秀雄に、ウィーン国立アカデミーではハンス・スワロフスキーに師事し、長いキャリアのなかで国内外の数多くのオーケストラを指揮している。受賞歴も多く、1999年には英国エルガー協会より日本人初のエルガー・メダルを贈られている。
英国とのつながりは深く、つい先ごろもBBC Promsを指揮してきたばかりである。このロンドンを中心に毎夏行われている世界最大級のクラシック・ミュージック・フェスティバルには32回も出演。今回共演したBBCウェールズ・ナショナル管弦楽団では桂冠指揮者を務め、今後も指揮台に立つ予定だという。
「Promsは特別なコンサートです。聴衆がとてもリラックスし、ステージと一体となって音楽を楽しむ。常に心が高揚します」
2017年には大阪フィルハーモニー交響楽団のミュージック・アドヴァイザーに、18年には音楽監督に就任した。就任後に行ったベートーヴェンの交響曲全曲演奏が高い評価を得、第49回JXTG音楽賞 洋楽部門本賞の受賞につながった。この賞は、1966年に児童文化賞、71年に音楽賞が創設され、約半世紀にわたって我が国の児童文化・音楽文化の発展に大きな業績をあげられた個人または団体を顕彰している。
「賞をいただいて本当に光栄ですし、大阪フィルのみなさんとも喜びを分かち合いました。ベートーヴェンの交響曲全曲演奏を聴いて選んでくださったわけですから、それが一番うれしいですね。私は大阪フィルとの仕事を始めるにあたり、ぜひベートーヴェンで新たな世界を拓き、オーケストラとの絆を深めたかった。だれのまねでもない、自分たちのベートーヴェンを生み出したかったのです」
今春から「ブラームス・チクルス」が始まり、ブラームスの交響曲全4曲に取り組んでいる。
なお、2020年1月21日には大阪フィルの東京公演が組まれ、スティーヴン・イッサーリスをソリストに迎えてエルガーのチェロ協奏曲と、ブルックナーの交響曲第3番が予定されている。
伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー