今月の音遊人
今月の音遊人:上野通明さん「ステージで弾いているときが、とにかく幸せです」
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すばらしく心に響く演奏を聴くと、「ああ、同時代に生きていてよかった」とつくづく感じる。世界中のオペラファンの心をいまもなお強くつかんでいる歌手のプラシド・ドミンゴも、そのひとりである。
ルチアーノ・パヴァロッティ、ホセ・カレーラスとともに「3大テノール」と呼ばれてオペラファンのみならず広い聴衆に愛されてきたドミンゴだが、現在も彼だけがオペラの舞台でうたい続けている。
ドミンゴといえば、2011年の震災後いち早く日本に駆け付け、日本人の深い悲しみに寄り添い、明日への希望の光を灯すために同年4月13日にサントリーホールでコンサートを開いたことが思い出される。彼は、2017年にデビュー50周年という節目の年を迎えたが、いまなお不世出の歌手として、イタリア、ドイツ、フランスオペラをレパートリーにし、いまや147ロール(役柄)以上を手中に収めている。ワーグナーにも挑戦して世界中の注目を集めたが、2011年ごろからはバリトンに転向し、現在は「ヴェルディ・バリトン」といわれるヴェルディのオペラのバリトン役を中心に、世界各地の舞台に立っている。
近年、ドミンゴにインタビューしたのは2016年9月18日、ロサンゼルス・オペラでのこと。前日はヴェルディの「マクベス」が初日を迎え、彼はその主役をうたい、深夜までパーティが行われた。しかし、翌日は疲れも見せず、まるでオペラの主人公のような輝かしい雰囲気をまといながら、颯爽とインタビュー会場に登場したのである。
「いまはバリトンの役柄に魅せられています。ヒーロー役のテノールとは異なり、バリトンは深い歌声と表現力と演技が要求される。特にヴェルディが描き出した父親役は、声が成熟しないとうたえません。ようやく私はその域に達したと思っています」
いつまでうたえるか定かではないが、納得いく歌がうたえる間は全身全霊を賭けて自分の生き方を歌に託し、聴衆に語りかけたいと真摯に語った。
ドミンゴは1941年1月21日スペイン生まれ。いまやキャリアの最終章に入り、オペラ歌手として舞台に立つこと、コンサート歌手としてオーケストラをバックにうたうことのみならず、後進の指導にも積極的にかかわっている。そんなドミンゴが、2017年3月以来3年ぶりに来日し、コンサートを行うことになった。共演は、いま世界中から熱い視線を浴びているソプラノのサイオア・エルナンデス。2009年以来各地の国際コンクールで優勝の栄冠に輝き、2018年ミラノ・スカラ座のシーズン開幕のヴェルディ「アッティラ」のオダベッラ役でデビューした。2020年9月にはミラノ・スカラ座の日本公演でプッチーニの歌劇「トスカ」のタイトルロールをうたうことになっている注目株である。勢いに満ちたサイオア・エルナンデスは、ヨーロッパ各地のオペラハウスから引っ張りだこの人気。その歌声をいち早く東京で聴くことができる。ドミンゴとのデュオにも期待したい。
オペラ・アリアからミュージカルまで心躍るfavorite songs!
日時:2020年1月28日(火)19:00開演
会場:東京国際フォーラム ホールA
オペラ・アリア、オペレッタなど、スーパースターが極めるオペラの神髄!
日時:2020年1月31日(金)19:00開演
会場:サントリーホール
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伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー