今月の音遊人
今月の音遊人:藤井フミヤさん「音や音楽は心に栄養を与えてくれて、どんなときも味方になってくれるもの」
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10月初旬、ちょうどノーベル賞の各賞が発表された同じ週に、スウェーデンのストックホルムにおいて、クラシック音楽におけるノーベル賞とも目されるビルギット・ニルソン賞の授賞式が行われた。クラシック音楽の分野において優れた業績を上げたアーティストあるいは団体に与えられる同賞を今回受賞したのは名門オーケストラのウィーン・フィルハーモニー管弦楽団である。
この賞は、スウェーデンを代表するオペラ歌手であったソプラノのビルギット・ニルソン(1918~2005)が生前、自分の資産をもとに設立したもので、賞金は100万ドル。2年あるいは3年ごとに、現役で活躍している傑出した歌手、指揮者あるいは音楽団体に授与される。
今回、ウィーン・フィルが選ばれた理由としては、このオーケストラの奏者が全員ウィーン国立歌劇場のメンバーを兼ねており、日頃からオーケストラ界のみならずオペラ界にも大きく貢献していることが挙げられる。またニルソン自身、このオーケストラと強い結びつきを持っていたことも考慮されたにちがいない。彼女は同歌劇場に200回以上も登場し、ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』のイゾルデ役や『ニーベルングの指環』のブリュンヒルデ役、リヒャルト・シュトラウスの『エレクトラ』やプッチーニの『トゥーランドット』のタイトルロールなど、数々のドラマティック・ソプラノの役を歌い、その圧倒的な歌唱力と存在感で一世を風靡した。
授賞式はノーベル賞の授賞式と同じく、ストックホルムのコンサート・ホールにおいて、スウェーデン国王カール16世グスタフとシルヴィア王妃を迎えて行われた。ウィーン・フィルのほとんどのメンバーが、前の晩のオペラ公演を終えてストックホルムに駆けつけ、式典では、前回の受賞者でもあるリッカルド・ムーティの指揮のもとで記念演奏を行った。とりわけ、『トリスタンとイゾルデ』からの「愛の死」の管弦楽版は、ニルソンの偉業に敬意を表した心のこもった名演となった。
なお、記者会見において、ウィーン・フィルの楽団長でバイオリン奏者のアンドレアス・グロスバウアーは、この栄誉ある賞を受賞した喜びを語ると同時に、賞金の使い途として、ウィーン・フィルの膨大な歴史的文書のデジタル化、およびそれらの文書を一般公開できる施設の設立に全額を使うことを発表した。
ウィーン・フィルといえば、毎年恒例の華やかなニューイヤー・コンサートを通じて世界中で親しまれているが、とりわけナチスの支配下では不名誉な歴史もあり、「そうした過去を記憶および記録することによって、オーケストラの未来を保証したい」とグロスバウアー氏は話した。
ビルギット・ニルソンは賞金の使い途にはいっさい条件を付けなかったが、愛するオーケストラのこの決定にはきっと賛同したにちがいない。
文/ 後藤菜穂子
photo/ Jan-Olav Wedin
tagged: クラシック, ビルギット・ニルソン賞, ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
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