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新しい響きを聴き続けることで、変わる。音楽に新たな可能性をもとめて/藤田真央インタビュー
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2020.5.7
2019年は「ライジングスター」という称号がぴったりな活躍だったと言えるだろう。小学生の頃からさまざまな音楽コンクールで名をあげ、2016年に18歳で「浜松国際ピアノアカデミーコンクール」第1位を獲得。2019年6月には「チャイコフスキー国際コンクール」ピアノ部門で第2位に輝き、一方では話題になった映画『蜜蜂と遠雷』で個性的な風間塵(演じたのは鈴鹿央士)というコンテスタントの演奏吹き替えをするなど、藤田真央という名前がさまざまな形でクローズアップされた。
「チャイコフスキー国際コンクールに関しては、もう少しいろいろな準備をしていけばよかったなと思います。ファイナルではチャイコフスキーの協奏曲第1番とラフマニノフの協奏曲第3番を同じ日に弾きましたが、この2曲なら余裕で弾けるだろうと思ってしまった。でも実際はチャイコフスキーが終わり、2曲めのラフマニノフの第1楽章を弾き終えた段階でいっぱいいっぱいになってしまって、体力不足を実感してしまいました。でも、そういう経験ができたこと自体が今後の演奏活動に役立つと思いますし、1位を獲得したアレクサンドル・カントロフがあまりにも素晴らしい演奏だったので、2位という自分の結果には納得です」
もう一度チャレンジは?という問いに「うーん、今回は2位でしたからね。ゲームみたいにセーブできて、次回も2位のレベルからスタートできるなら!」と、笑いと共に面白い答えが返ってきた。そうしたキャラクターもまた、彼の音楽の一部になっているのだろう。
2020年10月からは生活の拠点を東京からドイツのベルリンへ移し、「ハンス・アイスラー音楽大学ベルリン」で敬愛するキリル・ゲルシュタイン氏に師事しながら、自分の音楽をさらに極めたいという。
「以前に訪れた際、サイモン・ラトルが指揮するベルリン・フィルの演奏でシューマンやブラームスの曲をフィルハーモニーで聴き、特にチェロやコントラバス、ファゴットなど低音のピアニッシモに感動してしまって、あの響きをもっと体験したいと思ったのです。芸術監督がキリル・ペトレンコに替わって、また新しい響きが聴けると期待していますし、それを聴き続けることで自分の音楽が変化するのではないかという思いもあります」
まだ20代前半。あらゆるものが吸収の対象であり、まだまだ変化しながら音楽を深めていく可能性も大きいだろう。レパートリーもさらに広げていきたいという。
「これまではモーツァルトやベートーヴェン、ショパン、チャイコフスキー、ラフマニノフといった作曲家を追求してきましたが、ドビュッシーやラヴェルなどのフランス音楽が少なく、今とても興味がありますね。特にプーランクのピアノ協奏曲が大好きで、依頼があればいつでも弾けるくらい準備をしています。フランスの近代音楽は和声やメロディラインがとらえきれないこともありますけれど、プーランクのように古典へ回帰しているタイプの音楽は魅力的ですし、ピアノ・ソロの曲もシャンソンのような歌心が素晴らしい。ショパンと同じ時代を生きたシャルル・ヴァランタン・アルカンというフランスの作曲家も、やはりピアノ・ヴィルトゥオーゾで興味深い作品を書いていますから、リサイタルで取り上げていくつもりです」
2019年が注目を集めた一年だとするなら、2020年は広く認められた才能を多方面に披露する一年になるだろう。私たちはさまざまな機会に「新しい藤田真央」を堪能し、その音楽的成長を共有するチャンスをすでに得ているのだ。
『ショパン:スケルツォ/即興曲』
発売元:ナクソス・ジャパン
発売日:2019年10月16日
価格:2,500円(税抜)
詳細はこちら
『蜜蜂と遠雷』
発売元:ナクソス・ジャパン
発売日:2019年9月4日
価格:3,000円(税抜)
詳細はこちら
最新の公演情報につきましては、オフィシャルサイトでご確認ください。
藤田真央オフィシャルサイト