今月の音遊人
今月の音遊人:甲田まひるさん「すべての活動の土台は音楽。それなしでは表現にはなりません」
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2019年8月7日、本サイトで紹介した、ジョージア(旧グルジア)出身の若手ピアニスト、マリアム・バタシヴィリ。彼女は2014年、オランダ・ユトレヒトで開催されたリスト国際ピアノ・コンクールで優勝の栄冠に輝いた逸材で、コンクール後は「リストのスペシャリスト」として国内外で幅広く活躍。ワーナー・クラシックスと専属契約も結び、デビュー・アルバムがリリースされた(2019年9月3日輸入盤CD、デジタル同時配信)。
バタシヴィリがデビュー作に選んだのは、リストとショパン。オープニングはリストの「孤独の中の神の祝福」で、リストとショパンの練習曲でアルバムを閉じるというこだわりのプログラム構成である。そんな彼女は、同年7月19・20日には上岡敏之指揮新日本フィルの定期演奏会“トパーズ”(トリフォニー・シリーズ)のソリストとして出演。サン=サーンスのピアノ協奏曲第2番を演奏した。
バタシヴィリの演奏は、真摯で深遠で内省的な抒情に包まれている。サン=サーンスのオルガンの手法を感じさせる作品をときに繊細に、またあるときは華麗に、そして超絶技巧をごく自然に奏で、作品の奥に潜んでいる魅力に迫り、聴き手を作品へと近づけた。
サイトで紹介したインタビューは、このときに終演後の楽屋で行ったものである。彼女はひとつひとつの質問に注意深く耳を傾け、誠心誠意ことばを尽くして語った。その実直さと誠意が私の気持ちをとらえ、演奏同様のひたむきさに心が動かされた。バタシヴィリはとてもスリムで小柄。ステージ衣裳もけっしてドレスは着用せず、パンツスーツを好むそうだ。上の写真は、そのインタビュー中のワンショットである。
→【過去記事】ジョージアから世界の舞台へと飛翔したピアニスト、マリアム・バタシヴィリ
そのバタシヴィリが、コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響を鑑み、自宅で30分ほどの演奏を行い、動画を配信した。
曲目は
1. Andante spianato et grande polonaise brillante in E-flat major, Op. 22 by F. Chopin
2. Consolation in D flat major No.3 s.172 by F. Liszt
3. Ring from six polish songs s.480 by F.Chopin/F.Liszt
4. Bacchanal from six polish songs s.480 by F.Chopin/F.Liszt
4. Minuet in G major op.14/1 by I.J. Paderewski
ぜひ、ひとりでも多くの人に見聴きしてほしいと願い、今回はこの演奏を紹介したいと思う。いまは来日公演も中止、国内のアーティストのコンサートも延期という状態が続いている。マリアム・バタシヴィリの演奏は、活力と癒しと前に進む勇気を与えてくれる。
伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー