Web音遊人(みゅーじん)

シューベルトとギター、その微妙な関係を解き明かしてオマージュを捧げる意欲作/鈴木大介インタビュー

2020年7月12日20時より、鈴木大介YouTubeチャンネルで、ヤマハホール無観客公演を無料配信します。 ぜひ、ご覧ください!
■演奏曲目(予定)
バッハ:組曲ト長調BWV1009、ベートーベン:アダージョ カンタービレ、シューベルト:セレナーデ、ショパン:ノクターンOp.9-2、タレガ:アラビア風奇想曲、バリオス:森に夢みる

シューベルトはギターの名手だった、というエピソードを耳にしているクラシック音楽ファンは多いだろう。有名な伝記(とはいえフィクション満載の)映画『未完成交響楽』の中でもそれを裏付けるような場面があるなど、ギターとの結びつきは長く語られてきた。現在はやや誇張された伝説として考えられているものの、彼が生きた19世紀初頭、ギターは私たちの想像以上に普及しており、当時はまだ歴史の浅かったピアノよりも家庭で親しまれていた可能性は否定できない。
こうした視点と社会背景をひも解きつつ、シューベルトとその時代、さらには作風の影響を受けた後世の作品などを集めたのが、鈴木大介による『シューベルトを讃えて』というアルバムだ。
「シューベルトもギターを持っていて、新しい歌曲を披露する際に弾き聴かせたと伝えられていますし、当時のウィーンでも流行していたであろうビーダーマイヤー(日常的なものに注目するライフスタイル)の影響で手軽だったギターを弾く人は多く、シューベルトの歌曲をギターのために編曲したり、ギター伴奏で歌える楽譜もありました。そうしたことからも『シューベルト=ギター』という説が根強かったのでしょう。ギター愛好家になじみ深いディアベリやコストといった19世紀の作曲家たちも歌曲のギター伴奏譜を作っていますし、確かに長く親しまれてはいたのです」

しかし鈴木はそうした歌曲の伴奏譜などを並べず、シューベルトの音楽とクラシックギターとの関係を広い視点で俯瞰するべく、後世の作曲家たちがシューベルトを意識して書いた曲などもセレクトし、独自のプログラムを組んだ。有名なピアノ曲『楽興の時』から第2番と第3番を筆頭に(ちなみにこの2曲はヤマハのクラシックギターGC82Sで演奏)、20世紀メキシコの作曲家ポンセによる「シューベルトを讃えて」というニックネームが付いたギター・ソナタ(シューベルトの作曲技法を研究したうえで書かれた佳曲)、19世紀前半~中盤を生きたギタリスト、メルツの編曲によるシューベルトの歌曲(有名な『セレナーデ』ほか6曲)などが続く。
「現在のギタリストやギター音楽ファンにとって、シューベルトは決して近しい存在とはいえませんが、僕はむしろシューベルトを通じて、ギターをピアノなどと並ぶ“クラシック音楽の楽器”として認知してほしい。また、19世紀になって神や王侯貴族のために音楽を書いていた時代から脱却し、そうした時代を生きたシューベルトの音楽がもつ個人主義的な側面が、ギターという存在とリンクするのではないかとも思います」

ギターを通じてシューベルトの音楽を再認識するこの1枚は、既存の評価へ一石を投じる問題作なのかもしれない。

鈴木大介〔すずき・だいすけ〕
作曲家・武満徹に認められて注目され、1995年のデビュー以降、クラシックを軸とした多彩なコンサート活動、CD録音によりギターの可能性を大きく広げる。新作の初演も多数あり、ジャズや映画音楽などジャンルを超えた曲も演奏。NHK-FM『気ままにクラシック』でパーソナリティを務めるなど、ギター界のみならず人気を博している。
オフィシャルサイトはこちら

■アルバムインフォメーション

『シューベルトを讃えて』

レーベル:アールアンフィニ
企画制作:ソニー・ミュージックダイレクト
発売元:ミューズエンターテインメント
発売日:2020年3月18日
価格:3,000円(税抜)
詳細はこちら

特集

生田絵梨花

今月の音遊人

今月の音遊人:生田絵梨花さん「ステージに立つと“音楽って楽しい!”という思いが、いっそう強くなります」

14213views

フジ・ロック・フェスティバル'18にボブ・ディランが参戦。歴史的イベントをたっぷり楽しむには

音楽ライターの眼

FUJI ROCK FESTIVAL’18にボブ・ディランが参戦。歴史的イベントをたっぷり楽しむには

6621views

reface シリーズ

楽器探訪 Anothertake

ひざの上に乗せてその場で音が出せる!新感覚のシンセサイザー「reface」シリーズ

15869views

SE ArtistModel

楽器のあれこれQ&A

クラリネット入門!始める前に知りたい5つの基本

771views

桑原あい

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若きジャズピアニスト桑原あいがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

17089views

オトノ仕事人

音楽フェスのブッキングや制作をディレクションする/イベントディレクターの仕事

15021views

荘銀タクト鶴岡

ホール自慢を聞きましょう

ステージと客席の一体感と、自然で明快な音が味わえるホール/荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

14342views

ズーラシアン・フィル・ハーモニー

こどもと楽しむMusicナビ

スーパープレイヤーの動物たちが繰り広げるステージに親子で夢中!/ズーラシアンブラス

17070views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

15587views

われら音遊人ー021Hアンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:元クラスメイトだけで結成。あのころも今も、同じ思いを共有!

6683views

山口正介 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

この感覚を体験すると「音楽がやみつきになる」

9415views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

35087views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若手サクソフォン奏者 住谷美帆がバイオリンに挑戦!

10703views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

25217views

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase58)バッハ「7つのトッカータ」、バロックよりもロックな情熱、粗削りの若書きが映す衝動

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase59)バッハ「7つのトッカータ」、バロックよりもロックな情熱、粗削りの若書きが映す衝動

772views

JTBロイヤルロード銀座

オトノ仕事人

日本では出逢えない海外の音楽体験ツアーを楽しんでいただく/海外への音楽旅行の企画の仕事

8309views

われら音遊人:Kakky(カッキー)

われら音遊人

われら音遊人:オカリナの豊かな表現力で聴いている人たちを笑顔に!

9443views

音楽を楽しむ気持ちに届ける「ELC-02」のデザインと機能

楽器探訪 Anothertake

【動画】「楽しさ」をまるごと運ぼう!「ELC-02」の分解、組み立て手順

21215views

札幌コンサートホールKitara - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

あたたかみのあるデザインと音響を両立した、北海道を代表する音楽の殿堂/札幌コンサートホールKitara 大ホール

20412views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

音楽知識ゼロ&50代半ばからスタートしたサクソフォンのレッスン

8948views

暖房

楽器のあれこれQ&A

ピアノを最適な状態に保つには?暖房を入れた室内での注意点や対策

64917views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

6516views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11857views