Web音遊人(みゅーじん)

連載40[ジャズ事始め]佐藤允彦が“ランドゥーガ”で試みた“民謡”という手つかずの方法論

夏と言えば野外フェス、野外フェスと言えばジャズ──だった時代があった。

1977年から1992年までの主に7月末、“ライブ・アンダー・ザ・スカイ”という大規模な野外フェスがほぼ毎年(1982年のみ中止)、開催されていたからだ。

ボクも発表されるプログラムと出演者を穴が開くほど見比べながら、どの日のチケットを購入するか悩んだものだった。

そのひとつに、1990年の“ランドゥーガ”のステージがあった。

“ランドゥーガ”は、“ライブ・アンダー・ザ・スカイ”出演のオファーを受けた佐藤允彦の呼びかけで結成されたワンタイム・パフォーマンス・バンドだった(実際には2日にわたって2ステージが実施された)。

この2ステージはそのままレコーディングされ、2ヵ月後にはリリースされることが決まっていた。このことは、ジャズフェスにありがちな不確定要素の多いジャムセッションを想定した企画ではなかったことを意味する。

つまり、そのステージをエポックにすることが、佐藤允彦のみならず、出演者たち全員に課せられていたということだ。

出演者は以下のとおり。佐藤允彦(キーボード)、アレックス・アクーニャ(ドラムス)、レイ・アンダーソン(トロンボーン)、ナナ・バスコンセロス(パーカッション)、土方隆行(ギター)、峰厚介(サックス)、岡沢章(ベース)、高田みどり(パーカッション)、梅津和時(サックス)、スペシャルゲスト:ウェイン・ショーター(サックス)。

佐藤允彦は、「(出演オファーに対して)いわゆる普通のジャズをやってもしょうがない。とりあえず野外だし、きめ細かな音楽をやるより、強い音楽をやろうと思った」(アルバム『ランドゥーガ〜セレクト・ライブ・アンダー・ザ・スカイ ’90』添付ブックレットの解説文から引用)と語っている。

その“強い音楽”とは、「民謡をやりたい」という想いとリンクしたものだった。

「ジャズは発生以来さまざまな他分野の音楽から影響を受けたり、表現法をとりいれたりして進化してきた。その範囲は、西ヨーロッパの古典音楽から近代現代音楽、ラテン・アメリカ諸国、ブラジル、インド、アラブ諸国の民族音楽まで、全世界にわたっているのだが、不思議なことに日本(日本の伝統音楽)を発信地とするものがジャズを変革したということをかつて聞いたことがない」(引用:同前)

佐藤允彦はまず、「民族的出自の異なるミュージシャン達が演奏すれば、そこに新たなエネルギー源が生まれるのではないだろうか」(引用:同前)と考え、先述のメンバーを選んでステージに臨むことにした。

そして彼らに渡した譜面は、ジャズにとってほぼ手つかずだった“日本の伝統音楽=民謡”をモチーフにした楽曲だった。

次回は、アルバム『ランドゥーガ〜セレクト・ライブ・アンダー・ザ・スカイ ’90』に収録された7曲について、掘り下げてみたい。

「ジャズ事始め」全編 >

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook

特集

大江千里 さん- 今月の音遊人 

今月の音遊人

今月の音遊人:大江千里さん「バッハのインベンションには、ポップスやジャズに通じる要素もある気がするんです」

16553views

ジャズとデュオの新たな関係性を考える

音楽ライターの眼

ジャズとデュオの新たな関係性を考えるvol.1

3437views

ギター文化館

楽器探訪 Anothertake

歴史的ギターの音を生で聴けるコンサートも開催!

6921views

楽器上達の心強い味方「サイレント™シリーズ」&「サイレントブラス™」

楽器のあれこれQ&A

楽器上達の心強い味方「サイレント™シリーズ」&「サイレントブラス™」

37681views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ギタリスト木村大とピアニスト榊原大がトランペットに挑戦!

6943views

一瀬忍

オトノ仕事人

ピアノとピアニストの絆を築く、アーティストリレーションの仕事

3024views

グランツたけた

ホール自慢を聞きましょう

美しい歌声の響くホールで、瀧廉太郎愛にあふれる街が新しい時代を創造/グランツたけた(竹田市総合文化ホール)

6763views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

7128views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

10918views

われら音遊人

われら音遊人:アンサンブル仲間が集う仲よしサークル

9066views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

クラス分けもまた楽しみ、レッスン通いスタート

4588views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

28819views

大人の楽器練習機

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:世界的ピアニスト上原彩子がチェロ1日体験レッスン

16736views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

29545views

バッハにオマージュを捧げる弦楽器奏者たちの味わい深い録音

音楽ライターの眼

バッハにオマージュを捧げる弦楽器奏者たちの味わい深い録音、おすすめのアルバム5枚

5216views

コレペティトゥーアのお仕事

オトノ仕事人

歌手・演奏者と共に観客を魅了する音楽を作り上げたい/コレペティトゥーアの仕事(後編)

7209views

ゲッゲロゾリステン

われら音遊人

われら音遊人:“ルールを作らない”ことが楽しく音楽を続ける秘訣

1271views

Venova(ヴェノーヴァ)

楽器探訪 Anothertake

やさしい指使いと豊かな音色を両立させた、「分岐管」と「蛇行管」

1views

人が集まり発信する交流の場として、地域活性化の原動力に/いわき芸術文化交流館アリオス

ホール自慢を聞きましょう

おでかけ?たんけん?ホール独自のプランで人々の厚い信頼を獲得/いわき芸術文化交流館アリオス

7111views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

音楽知識ゼロ&50代半ばからスタートしたサクソフォンのレッスン

7538views

日ごろからできるピアノのお手入れ

楽器のあれこれQ&A

日ごろからできるピアノのお手入れ

63354views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

2678views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

28819views