Web音遊人(みゅーじん)

【優待チケット】作曲家に新作を委嘱することでサクソフォンのレパートリーを増やしていきたい/田中靖人インタビュー

日本を代表するサクソフォン奏者として、幅広いフィールドで活躍する田中靖人。このたびヤマハホールで、彼のために作曲・編曲された作品を集めた特別なリサイタルが2021年11月7日(日)に開催される。2020年6月に予定されていたが、コロナ禍のため延期となっていた公演である。

大切にしているのは情熱や愛情

「2020年は、僕が東京でデビューリサイタルを開催してから30年にあたる年でした。30年前はフランスやアメリカの近現代作品などを演奏しましたが、ジャズやロックのミュージシャンが自分たちのオリジナル曲だけでライブをするように、いつかオリジナル曲のレパートリーを並べて、コンサートをするのが夢でした。サクソフォンは歴史的に新しい楽器ですから、さまざまな作曲家に委嘱することでレパートリーを増やしていきたいという想いもあり、コンサートのたびに委嘱してきた作品が、作曲と編曲を合わせると40曲以上になっていました。それならばと、この機会に委嘱作品だけを集めたリサイタルを開催することにしたのです」

ソロでのデビューリサイタルの前年(1989年)に、田中は東京佼成ウインドオーケストラに入団。現在はコンサートマスターとして楽団を牽引している。また、須川展也、彦坂眞一郎、新井靖志と創設したサクソフォン四重奏団、トルヴェール・クヮルテットがデビューリサイタルを開催したのも同じ1989年。どの活動においても、30年以上にわたる息の長い取り組みを続けてきた。

「続けているとその先に良いことがあると、いつも自分に言い聞かせています。いちばん大切にしているのは情熱や愛情ですね。佼成ウインドでは伝統的なレパートリーを何十年も演奏することがあるわけですが、毎回新鮮であること、演奏するたびに新しい発見があるよう心がけています。トルヴェールも結成当初から演奏しているレパートリーがありますが、リハーサルや本番中に4人のうち誰かが、不意にそれまでとまったく違うことをやってみることがあります。『それ、いいね!』となって、そこから新しいものが生まれる瞬間は楽しいですね。そのための情熱であり、作品への愛情なのだと思っています」

ジャンルの違いではなく、スタイルや語法の違い

今回のリサイタル・プログラムの大半は、作曲家の長生淳による作曲・編曲作品で構成されているが、彼とも25年以上の付き合いになる。

「冒頭で演奏するアルベニスの『イベリア第1集 より セビーリャの聖体祭』はピアノ曲で知られていますが、僕からは長生さんに、原曲に忠実に、同じ調で、同じ長さでと編曲をお願いしていました。けれど長生さんから上がってきた編曲版は、サクソフォンらしいフレーズを織り込みながら、さらにアクティブになっていて。楽譜が波線だけになっている箇所があり、『これは?』と聞いたら、『ここはもう、自由に演奏してください。最終的に最後のところに到達していればOKです』とのこと。お互いよく知っている仲だからこそ、できることではありますね」

長生の人となりについて、「普段はもの静かで、僕がずっと話をしていても頷くだけ。それだけに、時折ぼそぼそっと呟く一言の深みがすごいんです。独特のユーモアもありますし。夜中に踊りながら作曲するそうですよ」と嬉しそうに話す田中。そんな彼から見た長生作品の魅力とは?

「長生さんの作品は、演奏する側にとっては非常に難易度の高いものが多いですが、聴く側にはそう聞こえないところが魅力だと思います。たくさんの音がちりばめられているような難しい音楽でも、ひとつの塊になって聞こえるというか、ぐっと人の気持ちに入ってくる。基本的にはメロディックで、美しいハーモニーが使われているのですが、そこから発展して変容していく部分に難解な響きが織り込まれていたりして、その対比や色の変化にストーリー性があるんですね。『変奏曲』や『ユア カインドネス』などを聴いていただくと、その感じがおわかりいただけると思います」

バイオリンの大森潤子を迎えてラストに演奏される『チガイノワカルYJ』は、田中が大好きなハンガリーのロマバンド風のメロディが散りばめられた『ツィゴイネルワイゼン』のパロディ。クラシックに軸足を置きつつ、あらゆる表現の可能性を追求する彼は、「クラシック、ポップス、ジャズというのはジャンルの違いではなく、スタイルや語法の違い」だと語る。

「そんな発想に至ったのは、サクソフォンという楽器だったからかもしれません。ピアノは長いクラシック音楽の歴史の中に膨大なレパートリーがありますが、サクソフォンのための作品が書かれたのは近現代になってから。ストラヴィンスキーはジャズのスタイルを取り入れた作品を書きましたが、それと同じように、現代の作曲家にジャズを取り入れた作品を書いてもらえばいいのでは、と考えるようになりました。そうやって生まれた曲を、自分の本籍であるクラシックの目線で演奏する。つまりクラシカルサクソフォンの音色で、語法やスタイルを変えてジャズを表現するわけです。そう考えると、ジャンルの違いを、スタイルや語法の違いとして捉えることができるのではないでしょうか」

来たるリサイタルでは、サクソフォンという楽器の新たな可能性を見出すことができるに違いない。

■珠玉のリサイタル&室内楽 田中靖人 サクソフォン・リサイタル


日時:2021年11月7日(日)14:00開演(13:30開場)
会場:ヤマハホール(東京都中央区銀座7-9-14)
料金:一般4,500円、学生3,000円(全席指定)
出演:田中靖人(サクソフォン)、大森潤子(バイオリン)、白石光隆(ピアノ)
曲目:I.アルベニス(長生 淳編)/イベリア 第1集 より セビーリャの聖体祭
C.ドビュッシー(長生 淳編)/小組曲
長生 淳/変奏曲
G.ガーシュウィン(田村文生編)/3つのプレリュード
長生 淳/ユア カインドネス
長生 淳編/チガイノワカルYJ(トリオ)
詳細はこちら

■優待チケットの特別販売

本公演の優待チケット(一般:優待価格4,000円/定価4,500円)を計10名様分ご用意いたしました。ご希望の方は、下記「応募はこちら」ボタンからご応募ください。
※ご応募の際は、ヤマハミュージックメンバーズの会員登録(登録無料)が必要です。
2021年9月17日 (金) 23:59まで
応募はこちら

photo/ 阿部雄介

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

山下洋輔さん

今月の音遊人

今月の音遊人:山下洋輔さん「演奏は“PLAY”ですから、真剣に“遊び”ます」

12816views

音楽ライターの眼

日本のギター界を牽引する4人が登場!渡辺香津美と押尾コータローが絶妙な呼吸で聴かせた、圧巻の「ボレロ」/Acoustic Guitar Festival Special Concert Vol.2

5616views

楽器探訪 Anothertake

おしゃれで弾きやすい!新感覚のアコースティックギター「STORIA」

54081views

知って得する!木製楽器の お手入れ方法

楽器のあれこれQ&A

木製楽器に起こりやすいトラブルは?保管やお手入れで気を付けること

24258views

大人の楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

13912views

オトノ仕事人

子ども向けコンサートを企画し、音楽が好きな子どもを増やす/コンサートプロデューサーの仕事

10374views

水戸市民会館

ホール自慢を聞きましょう

茨城県最大の2,000席を有するホールを備えた、人と文化の交流拠点が誕生/水戸市民会館 グロービスホール(大ホール)

12669views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

12742views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

17272views

横浜レンタル倉庫(YRS)

われら音遊人

われら音遊人:目指すはフェス! 楽しみ、楽しませ、さらなる高みへ

3080views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は人前で演奏してこそ、上達していくものなのだろう

10201views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

29069views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

10417views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

26149views

音楽ライターの眼

【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#069 ニューヨークのラテン・ブームを巧みに盛り込んだ大ヒット作~リー・モーガン『ザ・サイドワインダー』編

699views

トーマス・ルービッツ

オトノ仕事人

アーティストに寄り添い、ともに楽器の開発やカスタマイズを行うスペシャリスト/金管楽器マイスターの仕事

4451views

われら音遊人

われら音遊人:オリジナルは30曲以上 大人に向けて奏でるフォークロックバンド

5864views

【楽器探訪 Another Take】ベルの彫刻デザインとマウスピースも一新

楽器探訪 Anothertake

ベルの彫刻デザインとマウスピースも一新

12785views

アクトシティ浜松 中ホール

ホール自慢を聞きましょう

生活の中に音楽がある町、浜松市民の音楽拠点となる音楽ホール/アクトシティ浜松 中ホール

17816views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

だから続けられる!サクソフォンレッスン10年目

5861views

大人のピアニカ

楽器のあれこれQ&A

「大人のピアニカ」の“大人”な特徴を教えて!

5912views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

8253views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

29069views