Web音遊人(みゅーじん)

【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#005 ジャズの“伝統”をリスペクトするための“基準点”~『グルーヴィー』編

このアルバム・タイトルの名詞形“groove”を英語の辞書で調べてみると、「a long, narrow line that has been cut into a surface」すなわち「表面に切り込み状に入れられた長く細い線」を意味する言葉となっています。

アナログのレコード盤に刻まれた溝を拡大して見るとウネウネしていて、まさに“groove”という言葉にピッタリだったのですが、そのウネウネした溝から発せられるリズミックな音楽もまた「レコードの溝みたいにウネウネしてるね」となって、音楽についての表現に用いられるようになりました。“groove”の形容詞が“groovy(グルーヴィー)”です。


参考動画:グルーヴィー/レッド・ガーランド・トリオ

アルバム概要

1956年から57年にかけてスタジオ収録された、レッド・ガーランド(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、アート・テイラー(ドラムス)のトリオ編成による作品。

この3人、ちょうどこの時期(1950年代半ばから後半にかけて)にマイルス・デイヴィスとの共演が多く、とくにレッド・ガーランドとポール・チェンバースは、“黄金の”と冠されるほどの高評価を得ていたマイルス・デイヴィス・クインテットのメンバーでした。

アート・テイラーもマイルス・デイヴィスの話題作『マイルス・アヘッド』(1957年)でたたいていますから、まさに当時における最先端のジャズを生み出すリズム・セクション。

そのトリオが残した「これぞジャズの神髄である“グルーヴ”だ!」と言わんばかりの演奏がそろっているのが本作です。

“名盤”の理由

“最先端のジャズを生み出すトリオ”だとか“ジャズの神髄”だとかと“前のめりな表現”をしてしまいましたが、そんながっついた演奏じゃないというのが“グルーヴィー”だということ。

演奏するほうも聴くほうも肩の力を抜いてウネウネしちゃうところが“グルーヴ”の本質なのですから。

ただ、どのぐらいウネウネしていると気持ちがいいのかという加減が難しいのも、“グルーヴ”がやっかいだと言われる所以(ゆえん)。その加減の絶妙さを具体的に示してくれているのがこのアルバムであり、それゆえの名盤ということなのです。

いま聴くべきポイント

#003でビル・エヴァンス・トリオのサウンドを“分水嶺”と表現しましたが、レッド・ガーランド・トリオはその“分水嶺”のスウィング~ビバップ側、つまり1950年代までに芽生え発展してきたジャズの、集大成的な作品であると言えるでしょう。

余談ですが、2023年1月6日に東京・丸の内のコットンクラブで「ジャズ・モーメンタム 2023」というライヴ・イヴェントを観てきました。「世代を超えた一大セッション」という企画で、新旧世代を代表するミュージシャンが入れ替わり立ち替わり熱演を繰り広げるステージ。

2日間公演の初日にあたるこの日はジャズ・スタンダードを軸に、コンセプトである「伝統・創造・即興」を表現しようという試みだったのですが、そのステージのアンコール曲に選ばれたのが、アルバム『グルーヴィー』の冒頭を飾る『Cジャム・ブルース』という曲でした。

『Cジャム・ブルース』はデューク・エリントンが1942年に作曲。テーマがCとGの2音だけで構成された12小節ブルースという、シンプルなだけに演奏者のフィーリングが問われる難曲で、多くのトップ・ミュージシャンが現在に至るまでチャレンジを繰り返している名曲でもあります。

『グルーヴィー』収録の『Cジャム・ブルース』は、繰り返されるチャレンジの“最適解”的な存在であり、レッド・ガーランド・トリオの演奏を“尺度”として、それぞれの演奏がジャズの“伝統”をリスペクトできているかを測り、そこからどれだけ進化できているかを示すために存在している“名盤”──ということなのです。

「ジャズの“名盤”ってナンだ?」全編 >

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook

facebook

twitter

特集

今月の音遊人:馬場智章さん

今月の音遊人

今月の音遊人:馬場智章さん 「どういう状況でも常に『音遊人』でありたいと思っています」

6127views

ブラック・サバス

音楽ライターの眼

2025年7月、ブラック・サバス最後のライヴが実現。“出演しない”アーティストを検証する

9182views

Disklavier™ ENSPIRE(ディスクラビア エンスパイア)- Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

自宅で一流アーティストのライブが楽しめる自動演奏ピアノ「ディスクラビア エンスパイア」

65139views

EZ-310

楽器のあれこれQ&A

初めての鍵盤楽器を楽しく演奏して上達する方法

2444views

脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

12218views

誰でも自由に叩けて、皆と一緒に楽しめるのがドラムサークルの良さ/ドラムサークルファシリテーターの仕事(後編)

オトノ仕事人

リズムに乗せ人々を笑顔に導く/ドラムサークルファシリテーターの仕事(後編)

8022views

紀尾井ホール

ホール自慢を聞きましょう

専属の室内オーケストラをもつ日本屈指の音楽ホール/紀尾井ホール

18051views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

4312views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

9959views

Red Pumps BIGBAND

われら音遊人

われら音遊人:出自がさまざまなメンバーと、誰もが楽しめる音楽をビッグバンドで

2198views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.3

パイドパイパー・ダイアリー

人生の最大の謎について、わたしも教室で考えた

6205views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

28514views

コハーン・イシュトヴァーンさん Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ハンガリー出身のクラリネット奏者コハーン・イシュトヴァーンがバイオリンを体験レッスン!

11934views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

17036views

AKIRA’S Special Live Vol.4

音楽ライターの眼

井上鑑、岡沢章、神保彰。3人のAKIRAとの躍動感あふれる70分/AKIRA’S Special Live Vol.4

8793views

オペラ劇場の音楽スタッフの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

舞台上の小さなボックスから指揮者や歌手に大きな安心を届ける/オペラ劇場の音楽スタッフの仕事(後編)

15831views

Leon Symphony Jazz Orchestra

われら音遊人

われら音遊人:すべての楽曲が世界初演!唯一無二のジャズオーケストラ

2621views

トランスアコースティックピアノ™

楽器探訪 Anothertake

音量の問題を解決し、ピアノの楽しみを広げる「トランスアコースティックピアノ」

6109views

久留米シティプラザ - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

世界的なマエストロが音響を絶賛!久留米の新たな文化発信施設/久留米シティプラザ ザ・グランドホール

21965views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

大人の音楽レッスン、わたし、これでも10年つづけています!

8101views

ギター

楽器のあれこれQ&A

ギター初心者のお悩みをズバリ解決!

2091views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

6608views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

35404views