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【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#005 ジャズの“伝統”をリスペクトするための“基準点”~『グルーヴィー』編
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2023.1.25
tagged: 音楽ライターの眼, ジャズの“名盤”ってナンだ?
このアルバム・タイトルの名詞形“groove”を英語の辞書で調べてみると、「a long, narrow line that has been cut into a surface」すなわち「表面に切り込み状に入れられた長く細い線」を意味する言葉となっています。
アナログのレコード盤に刻まれた溝を拡大して見るとウネウネしていて、まさに“groove”という言葉にピッタリだったのですが、そのウネウネした溝から発せられるリズミックな音楽もまた「レコードの溝みたいにウネウネしてるね」となって、音楽についての表現に用いられるようになりました。“groove”の形容詞が“groovy(グルーヴィー)”です。
1956年から57年にかけてスタジオ収録された、レッド・ガーランド(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、アート・テイラー(ドラムス)のトリオ編成による作品。
この3人、ちょうどこの時期(1950年代半ばから後半にかけて)にマイルス・デイヴィスとの共演が多く、とくにレッド・ガーランドとポール・チェンバースは、“黄金の”と冠されるほどの高評価を得ていたマイルス・デイヴィス・クインテットのメンバーでした。
アート・テイラーもマイルス・デイヴィスの話題作『マイルス・アヘッド』(1957年)でたたいていますから、まさに当時における最先端のジャズを生み出すリズム・セクション。
そのトリオが残した「これぞジャズの神髄である“グルーヴ”だ!」と言わんばかりの演奏がそろっているのが本作です。
“最先端のジャズを生み出すトリオ”だとか“ジャズの神髄”だとかと“前のめりな表現”をしてしまいましたが、そんながっついた演奏じゃないというのが“グルーヴィー”だということ。
演奏するほうも聴くほうも肩の力を抜いてウネウネしちゃうところが“グルーヴ”の本質なのですから。
ただ、どのぐらいウネウネしていると気持ちがいいのかという加減が難しいのも、“グルーヴ”がやっかいだと言われる所以(ゆえん)。その加減の絶妙さを具体的に示してくれているのがこのアルバムであり、それゆえの名盤ということなのです。
#003でビル・エヴァンス・トリオのサウンドを“分水嶺”と表現しましたが、レッド・ガーランド・トリオはその“分水嶺”のスウィング~ビバップ側、つまり1950年代までに芽生え発展してきたジャズの、集大成的な作品であると言えるでしょう。
余談ですが、2023年1月6日に東京・丸の内のコットンクラブで「ジャズ・モーメンタム 2023」というライヴ・イヴェントを観てきました。「世代を超えた一大セッション」という企画で、新旧世代を代表するミュージシャンが入れ替わり立ち替わり熱演を繰り広げるステージ。
2日間公演の初日にあたるこの日はジャズ・スタンダードを軸に、コンセプトである「伝統・創造・即興」を表現しようという試みだったのですが、そのステージのアンコール曲に選ばれたのが、アルバム『グルーヴィー』の冒頭を飾る『Cジャム・ブルース』という曲でした。
『Cジャム・ブルース』はデューク・エリントンが1942年に作曲。テーマがCとGの2音だけで構成された12小節ブルースという、シンプルなだけに演奏者のフィーリングが問われる難曲で、多くのトップ・ミュージシャンが現在に至るまでチャレンジを繰り返している名曲でもあります。
『グルーヴィー』収録の『Cジャム・ブルース』は、繰り返されるチャレンジの“最適解”的な存在であり、レッド・ガーランド・トリオの演奏を“尺度”として、それぞれの演奏がジャズの“伝統”をリスペクトできているかを測り、そこからどれだけ進化できているかを示すために存在している“名盤”──ということなのです。
富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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文/ 富澤えいち
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