今月の音遊人
今月の音遊人:曽根麻央さん 「音楽は、目に見えないからこそ、立体的なのだと思います」
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「ショパン国際ピアノコンクールの父」と称される創設者、イェジ・ジュラブレフ
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2021.10.5
tagged: イェジ・ジュラブレフ, ショパン国際ピアノコンクール, 音楽ライターの眼
現在、世界には100を超す国際コンクールが存在する。これらはジュネーヴに本拠を置く国際コンクール協会に登録されているもので、その数は年々増え続けている。ピアノ部門のあるコンクールとピアノのみのコンクールがもっとも多く、その規模もまちまちだ。
そのなかでトップの座に君臨しているのが、ショパンの故郷ワルシャワで5年に一度開催されているショパン国際ピアノコンクール(以下ショパン・コンクール)である。
コンクールの目的は新しい才能を見つけ、世に送り出すこと。ショパン・コンクールも同様だが、すぐれたショパンの演奏をする人を選ぶことに独自の視点を置いていることが、このコンクールを特徴づけている。多くの国際コンクールが幅広い作曲家の作品を課題曲に組み込んでいるなか、ショパン・コンクールは第1次予選から本選にいたるまでショパン一色。あくまでもショパンの演奏に秀でたピアニストに対して賞が与えられる。
加えて、新しいショパンの解釈を行うことができる人、ショパンの様式を踏まえた演奏をする人、自分なりのショパン観を持ち、個性的なショパンを演奏することができる人など、多くの要素も審査の対象となる。
このコンクールの創設者は、1887年にロシアのロストフに生まれたポーランド人のピアニスト、イェジ・ジュラブレフ。彼はワルシャワ音楽協会で活動していたショパン音楽院の教授で、ショパンの直系の弟子とされる。
ジュラブレフは、同じくポーランドのピアニストで、ピアノ教本で知られるカール・チェルニーにウィーンで師事したテオドール・レシェテツキとともにポーランド・ピアノ楽派の基礎を築き上げたことで知られ、後進の指導にも非常に熱心だった。
ジュラブレフは「ショパン国際ピアノコンクールの父」と呼ばれ、長年コンクールの発展と育成に尽力したが、1980年の第10回コンクール開催の3日目、10月4日に93歳で世を去っている。
彼がショパン・コンクールを思い立ったのは、第一次世界大戦で荒廃した人々の心を少しでもやわらげたいという考えから。当時、ポーランドでは悲願の独立が達成され、ショパンの音楽も民族主義を代表するものとしてとらえられていた。
しかし、ジュラブレフはショパンの作品はポーランドが世界に誇るものであり、国内のみならず、より広い世界へと伝えるべき音楽だと考えていた。そこで彼は民族を超え、世界の人々の感動が得られるものを生み出したいと考え、ショパンの作品に限定したコンクールを行うことを思い立つ。
第1回は1927年1月23日から1月30日まで行われ、8カ国26人が参加した。記念すべき第1回の優勝者は、ソ連のレフ・オボーリンである。この回では、第1位から第4位が入賞者となり、ソ連とポーランドの各2名が受賞者となった。さらに、当初から副賞のマズルカ賞も設けられている。
ジュラブレフはようやく開催された第1回のレヴェルが非常に高かったことを誇りとし、以後亡くなるまで9回のコンクールを見守った。彼は入賞者たちが世界へとはばたいていくことを無上の喜びにしていた。
このコンクールは、参加者のレヴェルの高さと同様に、審査員の顔ぶれのすばらしさでも抜きん出ている。世界各国から選ばれた審査員は国際舞台で活躍する現役のピアニストが多く、才能豊かな若いピアニストを数多く育成し、世界の舞台へと送り出している教授陣も名を連ねる。さらに近年は、歴代のショパン・コンクールの優勝者、入賞者が審査員席に顔をそろえ、次代を担うピアニストを選ぶ重責を負っている。こうした審査員は、コンクールに参加するピアニストの現時点での演奏の成熟度を見ると同時に、将来性にも大きなウエイトを置く。それらの観点を考慮した課題曲が組まれ、審査員は幅広い視野で参加者の演奏を判断していくのである。
こうしてジュラブレフのコンクールに対する基本精神は引き継がれ、今年(2021年)も、彼はワルシャワの旧市街の先にある広大な墓地、ポヴォンスキ墓地から見守っているに違いない。この墓地は1790年創設の歴史ある墓地で、ポーランドの王族、偉人、著名人などが埋葬されている由緒あるところ。ポヴォンスコフスカ通り14番地に位置している。
とてつもなく広い墓地で、入口の案内板の番号をいくら見ても、すぐに目指すお墓は見つからない。だが、じっくり時間をかけて探すと、ジュラブレフとともに、ショパンの両親、ショパンの先生のヴォイチェフ・ジヴニーとユゼフ・エルスネル、『乙女の祈り』の作曲者、テクラ・バダジェフスカなどのお墓を見つけることができ、花を捧げることができる。
静謐な空気がただようこの墓地は、ショパンの音楽が内包する静けさとおだやかさと自然をほうふつとさせる印象的な場所である。
さて、コロナ禍で1年延期となった第18回ショパン・コンクールが、2021年10月3日から20日までの日程で開催される(第1次予選~本選)。参加者は日本からの14名を含む全87名。今回は小林愛実、反田恭平、牛田智大をはじめとする精鋭がそろっている。すばらしい結果が出ることを祈りたい。
開催日時:2021年10月3日(日)〜20日(水)
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伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー
文/ 伊熊よし子
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