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今月の音遊人:城田優さん「音や音楽は生活の一部。悲しいときにはマイナーコードの音楽が、楽しいときにはハッピーなビートが頭のなかに流れる」
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曲が成長していくのを体感できるのが、バンドの醍醐味/川口千里インタビュー
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2021.11.30
tagged: アルバム, 川口千里, Dynamogenic, インタビュー
世界的に注目を集め、ソロ活動のみならずサポートでも多忙を極める若きトップ・ドラマー、川口千里。最新作『Dynamogenic』では、日本国内で活動するバンドメンバーとともに深みのあるサウンドを追究し、新たな境地へと踏み出した。
川口千里の最新アルバムタイトル『Dynamogenic』とは、心理学の用語で“活力源”を意味する。そのアルバムのオープニングを飾る『Raging Spur』は、強烈なシャッフル・ビートに導かれ、圧倒的な熱量で疾走するハードなナンバー。アルバムタイトルを象徴するようにパワフルだ。
続く変拍子のファンク『Storm Warning』、ポップなバラード『Turn Right』など、多彩な楽曲が並ぶ本作を貫くのは、決して超絶技巧なだけではなく、バンド的なまとまりも重視したサウンド。櫻井哲夫(ベース)、菰口雄矢(ギター)、安部潤(キーボード)という、「川口千里バンド」として何度もステージを重ねてきたメンバーだからこそ成し得たといえる、元気だけどジェントルな大人のアルバムという印象だ。
「これまでは、LAのスタジオで海外のミュージシャンとレコーディングする、みたいな贅沢な経験もさせていただきました。フィリップ・セス(ピアノ/キーボード)と共演した2017年の前作『CIDER〜Hard&Sweet〜』もそんな一枚です。そして2020年、そろそろ次のアルバムを作るタイミングかな、と思ったのですが、コロナ禍になって、自由な動きができなくなってしまいました」
しかし、そんな状況さえもポジティブに捉えることで、アルバムの制作は良い方向へと動き出した。
「こんな状況だからこそ、日本でいつも活動しているバンドで、そして自分がいつも使っている楽器でレコーディングするいい機会だな、と思ったんです。2020年の9月に録音したのですが、メンバーはお互いにクセもわかっている仲なので、反応を読み合いながら深い演奏ができる。その結果、『Dynamogenic』は、いままでのアルバムの中でいちばんまとまりのある内容になりました」
楽曲はバンドメンバーが数曲ずつ持ち寄った。川口本人も3曲用意したというが、作曲はどのように行っているのだろう。「曲作りは今後の課題なんですけど」と苦笑いしながらも、答えてくれた。
「私、小さい頃からドラムに熱中するあまり、ピアノとかほかの楽器をやってこなかったんですよ。だから音楽理論の勉強もまだまだこれからなんです。普段から、思いついたメロディなど、アイデアはボイスレコーダーで録っておいて、それをPCに打ち込むのですが、いまだに鍵盤を人指し指で押して入力しているほど(笑)。コードも一音ずつ入れるから、時間がかかってしまうんです」
それを、自分で作ったリズムパターンと一緒に持ち込み、キーボードの安部潤に編曲してもらうのだという。
「安部さんは『なんだこの曲は!?』と言いながら、お洒落なコードをつけてくれます(笑)。もし、私の曲が普通に聴こえたら、それは安部さんをはじめ、バンドのメンバーが素晴らしいんです」
もちろん、3曲とも出色の仕上がりだ。シックなファンク・ナンバー『Who Would’ve Known』はグルーヴに徹するシンプルなドラミングでメンバーのソロをサポートし、プログレッシヴ・ロック的な『Blessed Rain After The Drought』では4分の3拍子と8分の6拍子が絶妙に交錯しスケールの大きい世界を描き出す。そしてアルバムの最後を締める『My Way Home』は、ニューオーリンズ・ファンクを思わせる楽しいリズムに、メンバーたちの肩の力を抜いた演奏が印象的だ。
「この曲は、決めごとをほとんど作らず、『ユルく、セッションみたいな感じでやってください』とオーダーしました。そのほうがバンド感を強く出せますよね。ライブでも演奏を積み重ねて、今ではすっかり別の曲みたいな感じになってますよ。そうやって曲が成長していくのを体感できるのが、曲を作ってバンドで演奏する醍醐味だと思います」
2021年9月には、ヤマハの電子ドラム新製品DTX10シリーズとDTX8シリーズの発表会でデモンストレーションを披露した。DTXといえば、川口がドラムを始めるきっかけとなった楽器であり、自身もセミナーに幾度となく登場しているが、今回は特にその進化に驚いたようだ。
「ひとつの電子楽器がひとつの楽器として進化する瞬間をみました。鳴らしたい音と鳴らせる音にギャップがなく、アコースティックドラムで叩いているフレーズが自然に出てしまうほど違和感がありませんでした。今回、さらに機械系が充実し、成熟した新たなジャンルを確立した感があります。これからは、セミナーで解説をするときも、今までとは違う伝え方を考えないと、と思いました」
また、2021年10月24日には、「ハママツ・ジャズ・ウィーク」を締めくくるイベント「ヤマハ・ジャズ・フェスティバル」で、エリック・ミヤシロ(トランペット)率いるヤマハ・オールスタービッグバンドの一員として出演した。エリック・ミヤシロは『Dynamogenic』にもゲスト参加していて、ライブでも川口とは数多く共演している。
「私はもともとロックのように人数の少ないバンドから始めているので、エリックさんとの共演で、初めてビッグバンドのように大人数のアンサンブルを経験したんです。それ以来、エリックさんのバンドでは何度も演奏していますが、毎回、何かしらの学びがありますね」
演奏の現場ではいつも力を100パーセント出しきるのが川口の流儀。ジャズやフュージョンのファンのみならず、ロック好きの方もぜひ、川口のパワフルでキレのいいドラムを体感してみてほしい。
発売元:キングレコード
発売日:2020年12月23日
価格:通常盤3,300円/初回限定盤5,500円(いずれも税込)
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オフィシャルサイト
文/ 山﨑隆一
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