Web音遊人(みゅーじん)

デビュー20周年を飾る二大協奏曲に臨むリサイタル&初の自伝的エッセイ/上原彩子インタビュー

1958年から4年おきにモスクワで開催されているチャイコフスキー国際コンクール。ロシアの作曲家ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーにちなんで名付けられた本コンクールのピアノ部門で、上原彩子が女性として日本人として史上初の優勝というセンセーショナルな話題をもたらしたのは2002年のことだった。才能あふれる小柄なピアニストが成し遂げた快挙は、今もなお語り継がれる。そして、デビュー20周年を迎える上原は、チャイコフスキー『ピアノ協奏曲第1番』とラフマニノフ『ピアノ協奏曲第2番』というロシアの二大協奏曲でリサイタルに臨む。

二大協奏曲に感謝の気持ちを込めて

協奏曲を2曲続けて弾くのは、チャイコフスキー国際コンクール以来20年ぶり。
「2曲弾くのは久しぶりですし体力的に大変でもあるのですが、挑戦するなら早い方がいいと思って。だんだん体力も衰えていくだろうし。ワクワク半分、ドキドキ半分といった感じです」
どちらも息が長くて分厚く、スケールが大きい作品。そして、いずれも幾度となく演奏を重ね、彼女の身体にしみ込んでいる曲だ。
「ラフマニノフは、ピアノパートに限らず全体的に器楽的なつくり。そして簡単な言葉でいうと暗くてドロドロしているのが魅力です。それに対してチャイコフスキーはオペラやバレエなど舞台芸術に長けていた作曲家なので、演劇的な要素も含めたつくりが曲の端々に感じられます。金管楽器が活躍して、合間に暗い部分もあるけれど明るく前向きになれます。2人の作曲家の違いを、みなさんにお伝えできればと思っています」
大きな節目に壮大なプログラムで挑む上原だが、20年はあっという間だったと振り返る。
「まわりの方や聴いてくださるお客様、みなさんに支えられて何とかここまで来られました。当日は余裕はないかもしれませんが、感謝の気持ちを込めて弾きたいと思っていますし、そんな気持ちで練習をしています」

ピアニストの軌跡と素顔に迫るエッセイ

初の自伝的エッセイ『指先から、世界とつながる ~ピアノと私、これまでの歩み~』も、デビュー20周年を飾る。音大に行かずに世界最高峰のピアノコンクールで優勝、25歳で電撃結婚、3児の母、そして東京藝術大学准教授に──。
ピアニスト上原彩子はいかにして生まれ、その才能を磨いていったのか。
「どんなときも、舞台で演奏する時は『明日死んでも悔いがない』という気持ちで弾いているのです」。著作のなかで、上原はそう綴っている。
一方、コンクール優勝後、パリを本拠地にして国内外で大活躍していたころ、妊娠がわかり突然の結婚。「そんな人生もおもしろいんじゃない?」(本文より)
さらに、相次ぐ出産でピアニスト兼3児の母に。「私はピアノに関しては完璧主義なところがありますが、それ以外のところについては行き当たりばったりで、出産についてもそれは同じでした」(本文より)
天才ピアニスト上原彩子と人間、母としての上原彩子。彼女が強さとしなやかさをもつ理由、そして彼女の素顔を垣間見ることができる内容で興味深い。
「ふだん舞台の上の私を見ていらっしゃる方は、きっと毎日難しいことを考えているんだろうな、と思われているかもしれませんがそんなことはありません。そして、お堅いイメージがあるクラシックを少しでも身近に感じていただければと考えています。私のことを知らずに本を手にされた方が、そこからクラシックに少しでも興味をもってくださるとうれしいです」

本書には、上原がクラシック作品に対してそれぞれ考えていることや感じていることを作曲家ごとにまとめたコラム「作曲家と作品と私」も挿入されている。
「ピアノを勉強されている方、音楽が好きで聴いている方のインスピレーションの助けになるかなとも思います。ピアニストはこういうことを考えながら弾いているということを知ってもらえるというのも面白いですね。基本的には、そんなに難しいことは考えていないことがバレてしまうんですけれどね(笑)」
最終章は、「いま、これから」。そして、そこに続く今後の挑戦について、上原はこう語ってくれた。
「リストのソナタ、スクリャービンのソナタ3、4、5やピアノコンチェルト、ラフマニノフのピアノコンチェルト4番……。せっかくピアノをやっているのにこの曲を弾かないで終わってしまうのは残念だと思っている曲がいくつかあるので、そういったものを積極的に弾いてみたいと思っています」
娘につき合って始めたランニングも、体力づくりと健康のために今もひとりで続行中だとか。
「あとは、子どもが大きくなったらヨーロッパでももう一度活動したいですね」

2022年、20周年を迎えた上原彩子から、ますます目が離せない。
上原彩子公演情報はこちら

■インフォメーション

●チャイコフスキー国際コンクール優勝から20年
上原彩子デビュー20周年 2大協奏曲を弾く!


日時:2022年2月27日(日)14:00開演(13:20開場)
会場:サントリーホール
料金:S席8,000円/A席6,500円/B席4,000円/C席3,000円(税込・全席指定)
出演:上原彩子(ピアノ)、原田慶太楼(指揮)、日本フィルハーモニー交響楽団
曲目:ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番、チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番
詳細はこちら

●書籍『指先から、世界とつながる ~ピアノと私、これまでの歩み~』


著者:上原彩子/ひのまどか(取材・構成)
発売元:ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス
発売日:2021年12月27日
価格:2,200円(税込)
詳細はこちら

photo/ 武藤章

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