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ウィーンのエッセンスが凝縮されたバイオリン・リサイタル/久保田巧インタビュー

バイオリニスト久保田巧によるリサイタル「ヴァイオリンは歌う」シリーズ第2弾「Vol.2~となりの国々から」が、2022年6月26日(日)東京のトッパンホールで開催される。2021年の「Vol.1~ウィーン わが故郷の歌」に引き続き、久保田が「私の人生を変えてくれた街」と評するウィーンのエッセンスが凝縮されたラインナップに期待が高まる。演奏曲目に込められた思い、そして、本シリーズのテーマにもなっている“歌”について聞いた。

バイオリンで歌う

シリーズ第2弾で予定されている演奏曲目は、ベートーヴェン『バイオリン・ソナタ 第8番』、シューマン『幻想小曲集 作品73』、ドヴォルザーク『ロマンス へ短調』、そして、リヒャルト・シュトラウスの大曲『バイオリン・ソナタ全曲』だ。今回はウィーンを取り囲む周辺国から音楽の都ウィーンに集った作曲家たちの作品に焦点があてられている。ウィーン古典派の代表的な作品から、19世紀後半、ウィーンの成熟した空気感を感じさせる後期ロマン派の“歌心にあふれた”作品を散りばめた香り豊かなプログラムだ。

「ドヴォルザークはチェコ出身の作曲家ですが、私自身、ウィーンに行って初めて身近に感じることのできた作曲家です。特に今回演奏する『ロマンス』はあまり演奏されることのない作品ですので、この機会にぜひお聴きいただけたら嬉しいですね」

19歳で留学し、「私の人生を変えてくれた場所」と久保田自身、絶賛してやまない街、ウィーン。そんな久保田のウィーンへの愛情が感じられる多彩なラインナップに期待も高まるばかりだが、もう一つ、「ヴァイオリンは歌う」というシリーズのタイトルもまた魅力的だ。

「私は歌うのが大好きな子で、物心がついた頃から、聴いた曲を手あたり次第歌っていました。中学生の時にカルメンやイタリア歌劇団の来日オペラ公演を観てからはさらにのめり込み、『歌をやりたい』と両親に言ったこともあるくらい。でも、バイオリニストになるのは子どものころからの夢だったので『じゃあ、バイオリンで歌おう!』という思いで今までやってきました」

ウィーン訛りが教えてくれた「言葉と音楽の関係」

小学6年生の時に初めて受けたコンクールの結果は振るわず、順風満帆とは言えない10代を過ごしたという。花が開いたのは高校3年生、遅咲きだった。

「あの頃、師事していた先生には本当によく教えていただいて、私も頑張って100%応えていました。毎回、短い時間の中で先生からたくさんの指示があり、それをすべて確実に受け止める感じのレッスンだったのです。ところが、いつ頃からかそのようなレッスンに違和感を覚えるようになっていたんです」

そう悩んでいた久保田に「ウィーンに行ってみたら」というアドバイスをしてくれた人がいた。知人へ送ったテープは、縁があってウィーンのヴォルフガング・シュナイダーハン氏の所に届いた。氏は第二次世界大戦前から戦後にわたって長らくウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターを務めた楽壇の重鎮だ。

「シュナイダーハン先生のレッスンは、それまで日本で受けていたものとは違い、『こういうふうに演奏して』と細かい指示を出されることはほとんどなく、楽譜には何も書き込んではいけないんです。楽譜は読み取るためにあるもので、『そこにすべてが書いてあるから』と」

さらに、久保田にとって最も鮮烈だったのは、現地の人々が奏でるウィーンゆかりの作曲家の音楽から聞こえてくるフレージングやリズム感だった。それは、日常、人々が話しているウィーン訛りのあるドイツ語、いわゆる“ヴィーナリッシュ”と呼ばれる方言が持つイントネーションそのものであることに気付いたのだという。

「ウィーン訛りというのは、フレーズの最後がフワッとしていて、歌っているような切れ方をするんですね。そして、アクセントのある音節では他の音節と比べてかなり長く、むしろ長くしないと通じない。それは音楽のフレーズの感じ方やリズムの取り方でも同じなんです。そんな事々を感じ取れるようになったら、自然と16分音符の細かい羅列でさえも浮き上がって立体的に見えてきました」

やはり、歌が好きな久保田は、生きたウィーンの言葉にも“美しい歌”を見出していた。

「日本で勉強していた頃、モーツァルトの演奏について最も悩んでいたのですが、モーツァルトはもちろん、シューベルト、そして、ドヴォルザークのフレージングすらも、すんなりと感じ取れるようになりました。『ウィーンの作曲家たちは、この言語で話し、この感性で物事を考えるからこそ、このリズム感やフレージングが生まれ出てきた』というのが自然に理解できるようになったんですね」

あの時の純粋な気持ちを持ち続けて

初めてウィーンを訪れた時に体験した数々の鮮烈な体験や記憶は、今も久保田の中で生き続けているという。そして、その日の思いを出発点に、今なお、日に日に演奏をする楽しみが増しているという。

「5年、10年と、さまざまな経験を経て、もう一度その時点に戻ってみると、一つのことがさらに複雑に見えたり、奥深く見えたり、広がりを持って感じられるようになるんですよね。そういうことが演奏家にとって一番の楽しみなんだ、ということを今も感じています。時折、『あと何年できるかな……』と思ったりもするのですが、今も演奏するのが、楽しくて楽しくて仕方ありません」

ウィーン国立音大でシュナイダーハン氏のもと学んだ8年間。その後、日本で演奏活動をするようになっても、ウィーンと日本との往復はずっと続けていた。

「いまだに、留学していた頃に住んでいたマンションを借り続けています。1978年に19歳で留学して以来なので、もう44年になりますね。留学した当初は、リズムや表現の違いに驚くことばかりでしたが、その感性を長年にわたって吸収し、自分の中で温めてきたからこそ、今の私があると 思っています」

最後に、「久保田にとってウィーンとは?」と尋ねてみた。

「私の中では、むしろ、原点に戻れる場所という感覚よりも、あの時の純粋な気持ちをいつも持ち続けていなくてはいけないと教えてくれる感じです」

長い演奏家生活において久保田を支え続けてきたウィーンへの愛情、そして、歌への情熱。そんな溢れんばかりの思いを、演奏会のプログラムを通してじっくりと感じさせてくれることだろう。

■ヴァイオリンは歌う Vol.2~となりの国々から

日時:2022年6月26日(日)15:00開演(14:30開場)
会場:トッパンホール(東京)
料金:5,500円(税込・全席指定)
出演:久保田巧(バイオリン)、津田裕也(ピアノ)
曲目:ベートーヴェン/バイオリン・ソナタ第8番 ト長調 op.30-3、シューマン/幻想小曲集 op.73、ドヴォルザーク/ロマンス へ短調 op.11、R.シュトラウス/バイオリン・ソナタ 変ホ長調 op.18
詳細はこちら

久保田巧オフィシャルサイト

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