Web音遊人(みゅーじん)

ドリーム・シアターと過ごす、“スキップ出来ない”豊潤なひととき

2022年、“イマドキの若者は音楽を聴くとき、ギター・ソロをスキップする”という話題がネットで持ち上がった。ストリーミングやTikTokで音楽を聴くスタイルだとイントロから単刀直入で“本題”に入らねばならない、ヒップホップやEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)だとそもそもギター・ソロがない……という背景を踏まえた論議だったようだが、若いリスナーの反応はおおむね「ギター・ソロも聴く」というもので、年季の入ったファンをホッとさせることになった。

とはいっても、昔のポップ/ロック・リスナーの誰もがギター・ソロをじっくり聴き込んでいたわけではない。かつてはシングル用のエディット(編集)ヴァージョンが作られ、ギター・ソロがカットあるいは短縮されてしまうこともあった。ラジオやジュークボックスでより多くの曲をかけることが出来るように短くしたものだが1980年代前半、オジー・オズボーンの『クレイジー・トレイン』やシン・リジィの『サンダー・アンド・ライトニング』などギター・ソロが“華”といえる曲ですらカットされたりしたものだった。

そんな風潮に逆行しながら、世界的な人気を誇っているのがドリーム・シアターだ。アメリカのマサチューセッツ州で結成されたこのバンドは1989年にアルバム・デビュー。第2作『イメージズ・アンド・ワーズ』(1992)でブレイクを果たす。ヘヴィでプログレッシヴなサウンドに乗せてジョン・ペトルーシの7弦ギターとジョン・マイアングの6弦ベースが超絶テクニックのせめぎ合いを繰り広げ、ジェイムズ・ラブリエがハイトーン・ヴォーカルで圧倒するのが彼らの音楽性だ。何度かメンバー交替があったものの、現在のドラマーのマイク・マンジーニ、キーボード奏者のジョーダン・ルーデス共に超一流プレイヤーとしてバンドに貢献している。

その楽曲はしばしば長尺であり、最新アルバム『ア・ヴュー・フロム・ザ・トップ・オブ・ザ・ワールド』(2021)は最も短い『トランセンディング・タイム』が6分24秒、ラストを飾る『ア・ヴュー・フロム・ザ・トップ・オブ・ザ・ワールド』は20分23秒という大曲だ。これまで15作のスタジオ・アルバムを発表している彼らだが、ほとんどが1時間を超えるもので、『ジ・アストニッシング』(2016)は2時間10分を超える巨編。もちろんソロもふんだんにフィーチュアされている。TikTok世代なら失神してしまいそうな、しかも目が覚めてもまだアルバムが終わっていない長さの作風である。

(余談ながらスレイヤーの名盤アルバム『レイン・イン・ブラッド』(1986)は28分55秒だ。)

それにも拘わらず、ドリーム・シアターは現在、最も人気のあるハード・ロック/ヘヴィ・メタル・バンドのひとつだ。彼らのアルバムはコンスタントに世界各国のヒット・チャート上位にランクイン、ライヴも大会場に熱狂的なファンが集結する。日本においても近年の東京公演は日本武道館で行われており、2022年8月14日(日)千葉・幕張メッセで開催される“DOWNLOAD JAPAN 2022”フェスティバルでは堂々ヘッドライナーとして出演することが発表されている。

『ロスト・ノット・フォゴトゥン・アーカイヴズ』と題されたオフィシャル・ブートレグ・シリーズも彼らの人気のバロメーターとなっている。貴重なデモやライヴ音源をCD化するこの企画シリーズは当初自主レーベルからマニア向けに発売されていたが、より幅の広いファン層からの要望があり、最新マスタリングと新アートワークでメジャー流通されることになった。ほぼ“月刊”で復刻タイトルや新発掘音源がリリースされており、日本武道館公演を収めた『イメージズ・アンド・ワーズ~ライヴ・イン・ジャパン 2017』を筆頭にかなりの好セールスを記録しているという。

『イメージズ・アンド・ワーズ~ライヴ・イン・ジャパン 2017』

最新作から『ジ・エイリアン』がグラミー賞“ベスト・メタル・パフォーマンス”を獲得するなど、彼らは一部のマニアに留まることなく、数多くの音楽リスナーから支持されている。

そんなドリーム・シアターの人気は、最高の音楽と最高の演奏に起因するものだ。どの作品もそのコンポーザー/ソングライターとしての魅力に溢れているが、それが卓越したミュージシャン達によるスリリングなプレイによって彩られることで、聴く者を魅了するのだ。体感時間は一瞬であっても、記憶に残るディテールを何度でも反芻出来る。

コンサートや音楽イベントが再開されつつある2022年、年末には再び日本の各地でベートーヴェンの交響曲第9番が上演されることが予想される。最初の50分を楽しみながら『歓喜の歌』でクライマックスの感動を迎える、ドリーム・シアターの音楽の楽しみ方は、それに近いかも知れない。

音楽ファンは音楽と共に時間を過ごすことに喜びをおぼえるものだ。楽曲はフック(=ツボ)のみで成り立っているのではなく、全体像の中でフックが際立つ。優れたロック・ソングも超絶テクニカル・プレイも惜しげもなく提供してくれるドリーム・シアターと過ごす時間は、なんと豊潤なひとときであることか。彼らの音楽には、スキップ出来る瞬間などない。

■インフォメーション

アルバム『ア・ヴュー・フロム・ザ・トップ・オブ・ザ・ワールド』

発売元:ソニーミュージック
発売日:2021年10月22日
価格(税込):2,750円
詳細はこちら

DOWNLOAD JAPAN 2022
日時:2022年8月14日(日)10:30(開場9:30)
会場:千葉・幕張メッセ
※イベント内容が変更になる場合もあります。詳しくはオフィシャルサイトにてご確認ください。
オフィシャルサイト

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

facebook

twitter

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:宇崎竜童さん「ライブで演奏しているとき、もうひとりの宇崎竜童がとなりでダメ出しをするんです」

14402views

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase56)バッハ「7つのトッカータ」、バロックよりもロックな情熱、粗削りの若書きが映す衝動

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase56)スメタナは「モルダウ」だけではない、連作交響詩「我が祖国」、国民楽派の真髄は「ターボル」「ブラニーク」

2693views

ピアニカ

楽器探訪 Anothertake

ピアニカを進化させる「クリップ」が誕生

21191views

楽器のあれこれQ&A

ウクレレを始めてみたい!初心者が知りたいあれこれ5つ

7263views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:若き天才ドラマー川口千里がエレキギターに挑戦!

14413views

オトノ仕事人

リスナーとの絆を大切にする番組作り/クラシック専門のインターネットラジオを制作・発信する仕事

6934views

人が集まり発信する交流の場として、地域活性化の原動力に/いわき芸術文化交流館アリオス

ホール自慢を聞きましょう

おでかけ?たんけん?ホール独自のプランで人々の厚い信頼を獲得/いわき芸術文化交流館アリオス

10820views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

7995views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

26141views

われら音遊人

われら音遊人:アンサンブルを大切に奏でる皆が歌って踊れるハードロック!

6248views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.8 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

初心者も経験者も関係ない、みんなで音を出しているだけで楽しいんです!

6829views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

35928views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

10412views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

14125views

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase58)千住明と山本直純の「武田軍」、大河ドラマに聴く日本、世界を魅了する武士の世の音楽

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase58)千住明と山本直純の「武田軍」、大河ドラマに聴く日本、世界を魅了する武士の世の音楽

1044views

西本龍太朗

オトノ仕事人

アーティスト・聴衆・新聞の交点に立つ/音楽記者の仕事

1426views

練馬だいこんず

われら音遊人

われら音遊人:好きな音楽を通じて人のためになることをしたい

7111views

Venova(ヴェノーヴァ)

楽器探訪 Anothertake

すぐに音を出せて、自由に演奏できる。管楽器の楽しみを多くの人に

16015views

アクトシティ浜松 中ホール

ホール自慢を聞きましょう

生活の中に音楽がある町、浜松市民の音楽拠点となる音楽ホール/アクトシティ浜松 中ホール

17816views

山口正介 Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

マウスピースの抵抗?音切れ?まだまだ知りたいことが出てくる、そこが面白い

7208views

知って得する!木製楽器の お手入れ方法

楽器のあれこれQ&A

木製楽器に起こりやすいトラブルは?保管やお手入れで気を付けること

24256views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

11893views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

12356views