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今月の音遊人:H ZETT Mさん「音楽は目に見えないですが、その存在感たるやすごいなと思います」
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ドリーム・シアターと過ごす、“スキップ出来ない”豊潤なひととき
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2022.6.29
tagged: 音楽ライターの眼, ドリーム・シアター, DOWNLOAD JAPAN 2022
2022年、“イマドキの若者は音楽を聴くとき、ギター・ソロをスキップする”という話題がネットで持ち上がった。ストリーミングやTikTokで音楽を聴くスタイルだとイントロから単刀直入で“本題”に入らねばならない、ヒップホップやEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)だとそもそもギター・ソロがない……という背景を踏まえた論議だったようだが、若いリスナーの反応はおおむね「ギター・ソロも聴く」というもので、年季の入ったファンをホッとさせることになった。
とはいっても、昔のポップ/ロック・リスナーの誰もがギター・ソロをじっくり聴き込んでいたわけではない。かつてはシングル用のエディット(編集)ヴァージョンが作られ、ギター・ソロがカットあるいは短縮されてしまうこともあった。ラジオやジュークボックスでより多くの曲をかけることが出来るように短くしたものだが1980年代前半、オジー・オズボーンの『クレイジー・トレイン』やシン・リジィの『サンダー・アンド・ライトニング』などギター・ソロが“華”といえる曲ですらカットされたりしたものだった。
そんな風潮に逆行しながら、世界的な人気を誇っているのがドリーム・シアターだ。アメリカのマサチューセッツ州で結成されたこのバンドは1989年にアルバム・デビュー。第2作『イメージズ・アンド・ワーズ』(1992)でブレイクを果たす。ヘヴィでプログレッシヴなサウンドに乗せてジョン・ペトルーシの7弦ギターとジョン・マイアングの6弦ベースが超絶テクニックのせめぎ合いを繰り広げ、ジェイムズ・ラブリエがハイトーン・ヴォーカルで圧倒するのが彼らの音楽性だ。何度かメンバー交替があったものの、現在のドラマーのマイク・マンジーニ、キーボード奏者のジョーダン・ルーデス共に超一流プレイヤーとしてバンドに貢献している。
その楽曲はしばしば長尺であり、最新アルバム『ア・ヴュー・フロム・ザ・トップ・オブ・ザ・ワールド』(2021)は最も短い『トランセンディング・タイム』が6分24秒、ラストを飾る『ア・ヴュー・フロム・ザ・トップ・オブ・ザ・ワールド』は20分23秒という大曲だ。これまで15作のスタジオ・アルバムを発表している彼らだが、ほとんどが1時間を超えるもので、『ジ・アストニッシング』(2016)は2時間10分を超える巨編。もちろんソロもふんだんにフィーチュアされている。TikTok世代なら失神してしまいそうな、しかも目が覚めてもまだアルバムが終わっていない長さの作風である。
(余談ながらスレイヤーの名盤アルバム『レイン・イン・ブラッド』(1986)は28分55秒だ。)
それにも拘わらず、ドリーム・シアターは現在、最も人気のあるハード・ロック/ヘヴィ・メタル・バンドのひとつだ。彼らのアルバムはコンスタントに世界各国のヒット・チャート上位にランクイン、ライヴも大会場に熱狂的なファンが集結する。日本においても近年の東京公演は日本武道館で行われており、2022年8月14日(日)千葉・幕張メッセで開催される“DOWNLOAD JAPAN 2022”フェスティバルでは堂々ヘッドライナーとして出演することが発表されている。
『ロスト・ノット・フォゴトゥン・アーカイヴズ』と題されたオフィシャル・ブートレグ・シリーズも彼らの人気のバロメーターとなっている。貴重なデモやライヴ音源をCD化するこの企画シリーズは当初自主レーベルからマニア向けに発売されていたが、より幅の広いファン層からの要望があり、最新マスタリングと新アートワークでメジャー流通されることになった。ほぼ“月刊”で復刻タイトルや新発掘音源がリリースされており、日本武道館公演を収めた『イメージズ・アンド・ワーズ~ライヴ・イン・ジャパン 2017』を筆頭にかなりの好セールスを記録しているという。
最新作から『ジ・エイリアン』がグラミー賞“ベスト・メタル・パフォーマンス”を獲得するなど、彼らは一部のマニアに留まることなく、数多くの音楽リスナーから支持されている。
そんなドリーム・シアターの人気は、最高の音楽と最高の演奏に起因するものだ。どの作品もそのコンポーザー/ソングライターとしての魅力に溢れているが、それが卓越したミュージシャン達によるスリリングなプレイによって彩られることで、聴く者を魅了するのだ。体感時間は一瞬であっても、記憶に残るディテールを何度でも反芻出来る。
コンサートや音楽イベントが再開されつつある2022年、年末には再び日本の各地でベートーヴェンの交響曲第9番が上演されることが予想される。最初の50分を楽しみながら『歓喜の歌』でクライマックスの感動を迎える、ドリーム・シアターの音楽の楽しみ方は、それに近いかも知れない。
音楽ファンは音楽と共に時間を過ごすことに喜びをおぼえるものだ。楽曲はフック(=ツボ)のみで成り立っているのではなく、全体像の中でフックが際立つ。優れたロック・ソングも超絶テクニカル・プレイも惜しげもなく提供してくれるドリーム・シアターと過ごす時間は、なんと豊潤なひとときであることか。彼らの音楽には、スキップ出来る瞬間などない。
アルバム『ア・ヴュー・フロム・ザ・トップ・オブ・ザ・ワールド』
発売元:ソニーミュージック
発売日:2021年10月22日
価格(税込):2,750円
詳細はこちら
DOWNLOAD JAPAN 2022
日時:2022年8月14日(日)10:30(開場9:30)
会場:千葉・幕張メッセ
※イベント内容が変更になる場合もあります。詳しくはオフィシャルサイトにてご確認ください。
オフィシャルサイト
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログ/インタビューリスト
文/ 山崎智之
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