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音空間を思いのままに──AFCを活用し、新たな音響演出に挑む実験会
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2022.9.6
1969年からホールや劇場などの音響コンサルティング、音響設計を行ってきたヤマハの空間音響グループ。その豊富な経験と知見によって開発されたAFC(Active Field Control)は、音空間全体をコントロールできる革新的なシステムだ。
2022年7月29日、このAFCシステムを活用した新たな音楽表現の可能性を探る実験会がヤマハ銀座スタジオで開催された。
AFCには「AFC Enhance」と「AFC Image」のふたつの技術がある。
前者の「AFC Enhance」はそれぞれの空間固有の響きを任意にコントロールすることで、ひとつの空間でスピーチからクラシックコンサートまでさまざまな用途に応じた響きを創り出すことができる音場支援システム。一方の「AFC Image」は、音の定位を自在にコントロールする音像制御システムだ。このふたつの技術により、没入する音響空間を創り出すイマーシブオーディオソリューションを提供する。
百聞は“一聴”にしかず、だ。当日、ステージに姿を現したのは第1バイオリン、第2バイオリン、ヴィオラ、チェロの弦楽四重奏の演奏者たち。モーツァルト『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』のデモ演奏では、調和のとれた豊かな響きが感じられた。
「AFC Enhanceを使ってもともとこのスタジオが持っている響きを自然に増幅させ、コンサートホールのような響きで聴いていただきました」
そう話すのは、空間音響グループの大木大夢さん。銀座スタジオに設置された12本のマイクと55台のスピーカーを使い、人工的に空間の響きをつくり出しているという。
「たとえばオルガンなら響きが豊かな空間がいいですし、スピーチであれば明瞭性のために響きをなるべく抑えた空間のほうが聞き取りやすいということがあります。電気音響・信号処理技術を用いて響きの長さや豊かさを変えることで、ひとつの空間でさまざまな演目に対応できるのがAFCです」
また、通常のリバーブとは異なり、演奏音だけでなく会場全体の響きを自在に変えられるのが大きな特徴だとも言う。続いて行われたバイオリンのデモ演奏、そして我々の拍手からもそれを実感することができた。
続いて、「AFC Image」について解説。これは、音の位置を平面的、立体的にリアルタイムで自由に動かすことができ、まるで特定の位置から音が出てくるようにする技術だ。こちらも、会場に設置されたスピーカーをコントロールして実現しているという。また、長年にわたるノウハウをもとに開発された3Dリバーブシステムを搭載することで、リアルな臨場感ある音場をつくり出している。
デモでは、先ほどの4人の奏者たちがサイレントバイオリン、サイレントヴィオラ、サイレントチェロを使って演奏を行った。
ご存じのようにサイレント楽器は、アンプにつながない状態で弾くと小さな音がするだけ。最初は「AFC Image」オフの状態で演奏、その後オンにして奏者の位置に音を配置すると、明らかに奏者の手元から音が聴こえてくる。さらに、音を後方に動かしたり、3Dリバーブの機能をオンにしたりすることでさまざま動きや響きが追加されることが実感できた。
さて、ここからが今回の実験会の目玉だ。一般的にイマーシブオーディオシステムは、映画やイベントなどで活用されることが多く、コンサートホールやオペラハウスでは生音が重視される傾向にある。
しかし、AFCを用いて新たな音楽表現ができるのでは……。ヤマハでは2017年からロチェスター工科大学のキム・ソンヨン准教授と共同研究を行い、その可能性を探ってきた。2021年にはジュリアード音楽院に在籍し、作曲家、ピアニスト、マルチメディアピアニストとして活動するオム・シヒョンさんに、研究の一貫としてAFCシステムとクラシック音楽を組み合わせた弦楽四重奏曲の作曲を依頼した。
今回は、AFCのために作曲された『弦楽四重奏曲 第2番「For AFC System」』の初演が4人の奏者によって行われる。本作では、AFCを一種の楽器として捉え、弦楽四重奏と融合することで新たな音楽表現を試みているという。
作品は、展開によって響きが変化し、「AFC Image」による効果音も加わって壮大でドラマチック。まさに新しい風を感じる魅力的なものだった。
演奏後には、キム准教授とオムさんが登壇し、大きな拍手で迎えられた。
「曲を書き始めるにあたって最初に考えたことは、速いセクションとゆっくりとしたセクションの2つを行き来するということです。速いセクションでは“砂漠”をイメージし、ゆっくりなセクションでは“山”をイメージしました。2つの違うシーンで異なる特徴を持たせており、それぞれを旅していきます。最終的にはSF映画のように空間が結合し、2つの場面が融合します。それを表現するため、曲の最後のシーンでは時計の音やベルの音を効果音として配置しました。AFCのシステムはとてもすばらしく、単なる山のイメージだけではなく、昼と夜の“時間帯”までを想像できるんです。AFCの作り出す山頂のイメージでは天気もよく空も澄んでいて、その場の雰囲気がよく出ており、一音一音の奥まで深く入り込むことができました」
オムさんは作曲にあたってのコンセプトやAFCについてそう話す。一方、キム准教授は演奏会を通じて感じたAFCの可能性についてこう語った。
「全体を通したアイデアとしては、音楽の表現をAFCという新しいテクノロジーを使ってどのように拡大できるかということでした。そこで、今回はオム・シヒョンさんにAFCを前提とした曲を作曲いただきましたが、他のアーティストにとってもAFCはあらゆる芸術の可能性を広げるものだと思います」
クラシック音楽やオペラ、ミュージカル……。AFCが広げる可能性に期待が高まる。
あらゆる空間において、音を自在にコントロールし最適な音環境を創り出すことができるヤマハのイマーシブオーディオソリューションです。
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