今月の音遊人
今月の音遊人:五嶋みどりさん「私にとって音楽とは、常に真摯に向き合うものです」
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旋律とリズム一体で躍動、ドラムス無しジャズ室内楽/中川英二郎×エリック・ミヤシロ×本田雅人 Special Jazz Live
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2022.12.13
ステージを見渡すとドラムスが無い。2022年11月19日、ヤマハホールでの「中川英二郎×エリック・ミヤシロ×本田雅人 Special Jazz Live」。トロンボーンとトランペット、サクソフォンの名手たちは、ドラムスとベース無しでジャズを聴かせようというのだ。トロンボーンの中川は新型コロナウイルス禍の中、「リズム隊がいない最小編成でジャズができないか」と考えた。旋律とリズムが一体で躍動するジャズ室内楽である。この日はピアノの宮本貴奈、ギターの横田明紀男も参加し、新たなジャズの可能性を開いた。
そもそもジャズのトリオやカルテットは「室内楽」である。しかし通常はそこにドラムスやベースなどリズム楽器が入る。物理的に手配に苦労するのがドラムス。コロナ禍の中ではなおさらだ。2020年にオンラインフェスティバルに参加する際、中川はトランペットのミヤシロ、サクソフォンの本田を誘って管楽器だけのユニット「スーパー・ブラス・スターズ」を結成した。この日の前半、彼らはトリオとデュオ、ソロによる熱演を繰り広げた。
1曲目の中川作曲『ヘブンズ・キッチン』は5拍子の個性的なリズムを3人が分担しつつ、倍音が広がる雄大な旋律線を重ねる。旋律楽器の3人だけとは思えないほどシンフォニックでリズミカルだ。「室内交響楽」と呼ぶにふさわしい。
ミヤシロがカフェでパッヘルベルの『カノン』を聴いて思いついたという曲は、中川とのデュオ。エリック・クラプトンの『ティアーズ・イン・ヘブン』を精妙にブレンドした。「リズムセッションが無いと隠れられない」とミヤシロ。「だから面白い」と中川。両者の音が明快に伝わり、ドラムスやベースの響きも2人で担った。
ソロもスケールが大きい。フュージョンバンド「T-SQUARE(Tスクウェア)」の元メンバー、本田のサクソフォン独奏。2021年に亡くなった同バンドのキーボーディスト和泉宏隆氏の名曲『トワイライト・イン・アッパーウエスト』だ。ロマンティックなバラードが夕映えのように広がった。
後半はピアノの宮本が加わり、ミヤシロ作曲『スカイダンス』から始まった。ピアノの速いアルペジオが繰り返され、トランペットが明るく歌い出す。ピアノがリズム、旋律、和声の3機能をこなす楽器だと実感する。ブラス3人の繰り出す旋律は伸びやかだ。
衝撃の登場はギターの横田。アコースティックギターでルイ・プリマ作曲『シング・シング・シング』をいきなり弾き始めた。ギターもピアノ同様、3機能をこなす。疾風怒濤のギターソロを聴いたらベニー・グッドマン楽団も驚いたことだろう。
宮本の低いハスキーなボーカルによるジョージ・ダグラス作曲『この素晴らしき世界』も味わい深い。ここでも、装飾的なパートながら、横田のエレキギターに聴き惚れた。ダイアー・ストレイツのマーク・ノップラー風のピッキング。電源を入れていないようなプツプツした音色のすごさ。5人の奥深い技への興味は尽きない。ポストコロナのジャズは面白い。
池上輝彦〔いけがみ・てるひこ〕
日本経済新聞社メディアプロデューサー。早稲田大学卒。証券部・産業部記者を経て欧州総局フランクフルト支局長、文化部編集委員、映像報道部シニア・エディターを歴任。音楽レビュー、映像付き音楽連載記事「ビジュアル音楽堂」などを執筆。専門誌での音楽批評、CDライナーノーツの執筆も手掛ける。
日本経済新聞社記者紹介
文/ 池上輝彦
photo/ Ayumi Kakamu
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tagged: 音楽ライターの眼, 中川英二郎, エリック・ミヤシロ, 本田雅人
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