Web音遊人(みゅーじん)

くいだおれ太郎

大阪・道頓堀のドラマー、くいだおれ太郎のアーティスト人生を辿る

2023年4月24日、ヤマハ製のドラムを独占使用するエンドースメント契約を結んだ「くいだおれ太郎」に、コンサートスネアドラム「CSS-1450A」を贈呈するセレモニーが開催された。

ヤマハのスネアドラムが道頓堀に鳴り響く

麗らかな春の道頓堀に、誇らしげに立つ、くいだおれ太郎の姿があった。手にしたドラムスティックの先で輝いているのはCSS-1450Aである。
「ヤマハアーティスト就任!」と書かれたたすきを掛けられたくいだおれ太郎は、早速いつもの名調子で明るい音を響かせた。

くいだおれ太郎

ヤマハのコンサートスネアドラム「CSS-1450A」

1950年にドラマーとして活動をスタート

くいだおれ太郎が道頓堀に登場したのは、戦後の混乱が落ち着きをみせ始めた1950年のこと。家族で楽しめる飲食店「大阪名物くいだおれ」の看板人形として店先に立つと、電気仕掛けでドラムを叩く人形が当時としては珍しく、たちまち浪速のスターになった。常に市井の人とともにあり、昭和天皇崩御の際には白黒の喪服に着替え、阪神タイガースに優勝のチャンスがやってきた時には、熱狂したファンによって道頓堀川に投げ込まれないよう、「わて泳げまへんねん」の吹き出しを持つなど、話題に事欠かなかった。

ところが、2008年「大阪名物くいだおれ」は惜しまれつつも閉店となってしまう。閉店日を発表した翌日からは、地元の人はもちろん、他府県の人も、くいだおれ太郎をひと目みようと集まり、一緒に記念写真を撮って、店内でご飯を食べて、と大賑わい。これまで道頓堀に居て当たり前の存在だったが、閉店でいなくなるかもしれないとなれば一大事である。道頓堀の象徴、大阪のシンボルであったことが、改めて浮き彫りとなった。

しかし、くいだおれ太郎は終わらない。ここからアーティスト人生が始まるのである。その時の様子を、現在「くいだおれ太郎」を所有する会社の柿木央久かきのきてるひさ 専務取締役に伺った。
「大阪名物くいだおれ閉店の日に、ソウルシンガーの上田正樹さんと有山じゅんじさんが店内でシークレットライブを開いてくれたんですよ」
くいだおれ太郎と二人の出会いは、1975年のデビューアルバムのジャケットをスリーショットで飾ったことに始まる。
「上田正樹さんは、くいだおれ太郎に“一番大阪を感じる”と話していましたね。その後『ぼちぼちいこか’08 フューチャリング くいだおれ太郎』のアルバムジャケットでもご一緒しましたし、アルバムツアーの東京と大阪のステージでは演奏もさせてもらいました」と柿木さん。
その後に、有山さんが所属するレーベルとアーティスト契約したので、アーティスト歴も15年近くになるベテランなのだ。
「これまでもヤマハ製の初心者向けドラムを使っていたのですが、今回のエンドースメント契約でクラシック演奏用の中上級者向けの商品に交換してもらえました。やっぱり音の響きが違いますね、くいだおれ太郎も喜んでいますよ」(柿木さん)
くいだおれ太郎は、以前からヤマハのドラム愛用者としても、知る人ぞ知る存在だったのである。

くいだおれ太郎

(写真左)柿木央久専務取締役。(写真右)『ライブ アット 道頓堀くいだおれ ぼちぼちいこか ザ・ムービー』のDVD。上田さん、有山さんと一緒に、くいだおれ太郎が写っている。

くいだおれ太郎、マーチングイベントのために一肌脱ぐ

くいだおれ太郎とヤマハの出会いは、2017年に遡る。新しいマーチングキャリアが発売になり、ヤマハミュージックジャパンの可児吉則 さんが、くいだおれ太郎にPRしてもらおうと考えたのがきっかけだった。思い立ったが吉日と、可児さんは、くいだおれ太郎のもとへ走った。あいにくその日、柿木さんは留守をしていたが後日、話は進んだ。

「アポなしで会いに来る方は珍しくて、だからこそ熱意がビシビシ伝わってきました。ちょうど大阪でマーチングの大会があるという時期で、それを応援するという目的だと聞きまして、そういうことならやらせてもらいましょうと意気投合したわけです。大阪は吹奏楽、マーチングの活動が盛んで強豪校もそろっていましたからね」(柿木さん)
大会期間中の3日間、くいだおれ太郎は新製品のマーチングキャリアをつけて店先に立ち、この大会のPRに励んだのである。
「その時から、使っているドラムのケアもしてもらえるようになりましたから、くいだおれ太郎にとっては嬉しいことこのうえない出会いでした。そして今回、あらためてエンドースメント契約となった次第です」(柿木さん)

音楽批評家でもある柿木さんに、ドラマーとしてのくいだおれ太郎の魅力について聞いてみた。
「一定のリズムでぐいぐい行くのは、なかなかできないことですよね。テンポは変わらないし、パターンも変わらないでしょ、これを延々続けるのは21世紀的音楽ですよ。でも、あまり叩くと今の時代は周りに迷惑がかかりますから、普段はうるさくならないようにセッティングしています。ここ一番に、ええ音をだせるようにするのがプロのこだわりです(笑)」

ヤマハアーティストとして、今後のくいだおれ太郎の活躍にぜひご注目を。

くいだおれ太郎

ヤマハミュージックジャパンの可児吉則かによしのりさん(写真左)から、新しいドラムに続き、「ヤマハアーティスト就任!」と書かれたたすきを贈呈。

■コンサートスネアドラム「CSS-1450A」

製品サイトはこちら

■くいだおれ太郎

オフィシャルサイトはこちら

photo/ 村川荘兵衛

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